東日本大震災による警報等の暫定基準は今も継続
大地震が起きると警報等の基準を引下げ
気象庁では、大きな地震災害が発生すると、大雨警報等の発表基準を引き下げて運用しています。
これは、大地震によって山や崖に亀裂が走り、堤防が損傷を受けるなどで、通常であれば警報を発表するほどではない現象でも、二次災害が発生する可能性があるための措置です。
このような発表基準の引き下げが、いつから始まったかははっきりしませんが、少なくとも、平成7年(1995年)1月17日に発生した阪神・淡路大震災の時には行われていました。
というのは、阪神・淡路大震災のとき、著者は、神戸海洋気象台(現在の神戸地方気象台)の予報課長で、気象庁予報部の指示によって、兵庫県の防災担当者と警報基準引き下げの交渉にいった経験がありますが、そのときには、前例がなかったように思います。
平成31年(2019年)3月11日現在、大雨警報等の発表基準を引き下げ、暫定基準で発表しているのは、11道府県です(表1)。
大地震による大雨警報等の暫定基準は、復興が進むにつれ、暫定基準の種類や引き下げ幅を減らし、おおむね3年ぐらいで元々の基準に戻します。
例えば、宮城県では、地震発生直後には一斉に引下げられた各種の暫定基準は、次のように変遷をしています。
【宮城県の場合】
平成24年(2012年)5月29日 大雨警報・注意報の土壌雨量指数基準について通常の6割から8割に変更。
平成25年(2013年)5月30日 大雨、洪水警報・注意報の雨量基準について通常の6割から8割に変更。
平成25年(2013年)9月5日 大雨警報・注意報の土壌雨量指数基準について暫定基準を廃止。
平成26年(2014年)5月27日 大雨、洪水警報・注意報の雨量基準について暫定基準を廃止。
平成29年(2017年)1月12日 高潮警報・注意報について暫定基準を終了。
長引く暫定基準
東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震による暫定基準は、地震から8年たった今でも4県で使われています。
東北地方太平洋沖地震による暫定基準の使用が長引いているのは、地震被害が大きかったこともありますが、地震に伴った地盤沈下で海面より低い地域が出現し、高潮警報・高潮注意報で暫定基準を用いているのが大きな理由です(表2)。
地震による海底地形の変化
海洋研究開発機構では、東北地方太平洋沖地震直後に、深海調査研究船を宮城県沖に派遣し、平成11年(1999年)に行った調査と同じ場所を走り、海底地形を探査しています。
その探査によると、地震によりに北アメリカプレートが南東から東南東へ約50メートル移動し、上方に約10メートル隆起しています(図)。
これに伴って海底地形が変化し、陸に近い領域では沈降したため、浸水被害が長期化しています。
仙台平野で海抜ゼロメートル以下の地域が震災前は3平方キロメートルでした。
震災後は、阿武隈川河口付近を中心に16平方キロメートルと、5倍に拡大しました(国土交通省による)。
プレートの境界付近で発生する巨大地震で、プレートの歪を解消すると、陸地に近い領域が沈降することは良くあることです。
襲来する津波の高さだけでなく、沈下する量も防災上考慮しなければなりません。
そしてこの沈降が、非常にゆっくりと上昇し、次の巨大地震が発生する頃には元に戻ります。
表1の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。
表2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。
図の出典:饒村曜(平成24年(2012年))、東日本大震災・日本を襲う地震と津波の真相、近代消防社。