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過去に新型コロナのオミクロン株に感染した人は、どれくらいBA.5に感染しにくいのか?

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

日本ではすでに1000万人以上の方が新型コロナに感染しており、このうち実に800万人以上の人はオミクロン株が出現した第6波以降に感染しています。

過去に新型コロナに感染した人、特にオミクロン株BA.1やBA.2に感染した人は、今拡大しているオミクロン株の亜系統BA.5にどれくらい感染しにくいのでしょうか?

新型コロナに感染するとしばらくは感染しにくい

初感染からの時間経過と感染予防効果の推移(doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-01914-6より)
初感染からの時間経過と感染予防効果の推移(doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-01914-6より)

新型コロナに感染すると、免疫ができるため、一度新型コロナに感染すると、しばらくの間は感染しにくくなります。

これまでの研究によると、

ということが分かっています。

しかし、一度感染した後は二度と感染しないというものではなく、特に過去の感染から時間が経つと予防効果は落ちてきますし、別の変異株には再び新型コロナに感染することがあります。

すでに新型コロナの流行が始まって2年半以上が経っていますが、2回感染したことがある人は多数いますし、世の中には3回、4回と新型コロナに感染した人もいるようです。

過去の感染による免疫はワクチン接種によって強化される

過去に感染した人がワクチンを2回接種した場合としていない場合の1年未満、1年以降の感染予防効果(DOI: 10.1056/NEJMoa2118691より)
過去に感染した人がワクチンを2回接種した場合としていない場合の1年未満、1年以降の感染予防効果(DOI: 10.1056/NEJMoa2118691より)

また、過去に感染した人も、ワクチン接種をすることで感染予防効果を強化することができます。

イギリスの研究では、過去に感染したことがありワクチンを2回接種をした人と、ワクチン接種をしなかった人とを比較しています。

どちらのグループも1年以内の感染予防効果は84-86%と高かったものの、感染してから1年以降はワクチン接種群では94-95%と高く維持されていましたが、未接種群では69%に低下していました。

過去の感染による免疫は、自然に減衰していきますが、ワクチンと組み合わせることでより長く維持される、ということが分かります。

オミクロン株が広がってからは再感染者が増えている

イギリスにおける初感染者と再感染者数の合計数の推移(UK Health Security Agencyより)
イギリスにおける初感染者と再感染者数の合計数の推移(UK Health Security Agencyより)

しかし、オミクロン株が世界中に広がって以降、世界中で再感染者の増加が報告されています。

イギリスでは、新型コロナの初感染者と再感染者について毎日報告されていますが、オミクロン株が広がった2021年12月以降、感染者の中に占める再感染者の割合が増加しています。

これはつまり、オミクロン株は過去に新型コロナに感染したことがある人が持つ免疫からも逃れて感染してしまうことがあるということです。

現在、イギリスでもBA.5が広がっていますが、報告されている新規感染者数のうちおよそ25%は再感染者となっています。

以前の研究から、過去にアルファ株、ベータ株、デルタ株などの変異株に感染した人が持つ免疫による、オミクロン株BA.1に対する感染予防効果は56%と大きく低下していることが分かっていました。

それでは、今日本でも広がっているオミクロン株BA.5に対してはどうなのでしょうか。

特に日本国内ですでに800万人を超えている、BA.1やBA.2などの従来のオミクロン株に感染した人は、BA.5には感染してしまうのでしょうか?

従来のオミクロン株感染者の免疫はBA.5に80%の感染予防効果

オミクロン株前の変異株、オミクロン株BA.1/BA.2に感染した人の、BA.5/BA.5に対する効果(doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.11.22277448)
オミクロン株前の変異株、オミクロン株BA.1/BA.2に感染した人の、BA.5/BA.5に対する効果(doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.11.22277448)

カタールからの最新の査読前の研究では、オミクロン株以前の新型コロナウイルス(野生株、アルファ株、ベータ株、デルタ株など)に感染した人、オミクロン株(BA.1またはBA.2)に感染した人が持つ免疫は、BA.4/BA.5にはどれくらい感染を防ぐ効果があるのかについて検討しています。

この研究によると、オミクロン株以前の新型コロナウイルスに感染した人はBA.4/BA.5に対しては発症予防効果14.9%、感染予防効果28.6%と大きく低下していました。オミクロン株以前の感染者は、初回の感染から時間が経過している影響も大きいと考えられますが、すでにBA.5による感染や発症を防ぐ効果はほとんど残っていないと考えた方が良さそうです。

一方で、これまでのオミクロン株であるBA.1やBA.2に感染した人の、BA.4/BA.5に対する発症予防効果は76.1%、感染予防効果は79.7%と高いことが分かりました。

感染予防効果が約80%ということは、感染リスクが5分の1に下がる、ということになります。

試験管内の研究では、オミクロン株BA.1やBA.2に感染した人も、BA.4/BA.5に対する中和抗体が十分に作られないことから、再感染するリスクが高いのではないかと推測されていましたが、この結果は良い意味で予想を裏切る結果ということになります。

とは言え、すでにオミクロン株BA.1やBA.2に感染した人もBA.5に感染しないわけではありません。

まだワクチン接種をされていない方は3回目までは接種によって感染リスクを低減することができます。

こまめな手洗い、屋内でのマスク着用、会食時は少人数で短時間にとどめてできる限りマスク会食で、といったこの2年半で身についた基本的な感染対策をしっかりと続けていきましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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