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新型コロナウイルス感染が広がっている間は妊娠を控えた方が良いの?〜各国の見解と最新知見から〜

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:Cultura/アフロイメージマート)

新型コロナウイルス感染拡大は世界各国で終息する気配はなく、日本でも感染者の増加がみられるなど不安が増す毎日です。

そのような中で、「妊娠を考えているけど、新型コロナウイルスが落ち着くまで控えた方が良いのかな?」と困っている女性の声をよく耳にします。

この記事では、2020年11月末時点での各国の主要な専門家組織(学会など)の見解や学術論文をもとに、どのように考えれば良いかを整理しました。

日本の状況

日本にはいくつかの専門家組織が存在しています。

その一部の見解は以下の通りです。

(1)日本産科婦人科学会

残念ながら、公式ウェブサイトの一般の方向けページに、該当する情報は掲載されていません。

(2)日本産婦人科感染症学会

公式ウェブサイトの「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ 第11版」(2020/08/26 最終更新)というページから、どなたでも資料を読むことができます。

この中では、妊娠中に新型コロナウイルスに感染した場合のリスク等について現状までの知見がわかりやすくまとめられていますが、8月時点が最終更新となっていることにご注意ください。

ただし、記載内容は現状(2020年11月末時点)までの知見とほとんど乖離していないと思います。

(3)日本周産期・新生児医学会

残念ながら、学会からの提言掲載ページに、該当する情報は掲載されていません。

(4)日本生殖医学会

全国の緊急事態宣言が出される直前の4月1日に、本学会から医療者に向けて、「国内での新型コロナウイルス感染が落ち着くまで、不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示することを推奨します。」という見解が出されました。

その後、全国の緊急事態宣言解除のタイミングに合わせ、5月18日付けで医療者に向けた見解が掲載されています。

それは、

・不妊治療の延期をしていたカップルに対して、不妊治療の再開を考えてください

・感染拡大や医療体制などの社会状況を考慮し、個々の状況に応じた医療を行ってください

という内容です。

その後、本件に関する見解の更新は掲載されていません。

このことから、少なくとも現状においては、「希望者に対して不妊治療を控えるべき」だとは考えられていないことがわかります。

以上からわかるように、「妊娠を控えるべきかどうか」について明記された資料や見解はあまり多くなく、日本からの情報だけではなかなか意思決定が難しいかもしれません。

海外諸国の見解

それでは、海外諸国での専門家組織の見解や学術論文のコメントを確認しましょう。

(1)米国の産婦人科学会(ACOG)

公式ウェブサイトの「新型コロナウイルスに関するウィメンズヘルスケア」という一般向けページでは、「妊娠を遅らせるべきかどうか」という項目において、以下のように記載されています。

・前提として、妊娠するかどうかは個人的な選択に委ねられています

・自分が妊娠中に感染した場合のリスクを事前に把握しておくべきでしょう

・現在までの研究報告では、妊娠中の女性は非妊娠中の女性よりも新型コロナウイルス感染症による重症化や死亡のリスクが高いことが示唆されています

・妊娠糖尿病や肥満など健康状態に問題がある妊婦では、新型コロナウイルス感染症による重症化のリスクがさらに高まる可能性があります

・妊娠中や分娩中に、胎児や新生児に感染したという報告は稀です

つまり、上記のような情報を把握した上で、一人ひとりの女性の状況に合わせて産婦人科医とリスクを相談し、妊娠するかを決定しましょう、という内容になっています。

(2)英国の産婦人科学会(RCOG)

公式ウェブサイトの「新型コロナウイルス感染症と妊娠」というページでは、「妊娠を控えるべきかどうか」についての直接の言及はないものの、エビデンスをまとめた上での見解を述べた資料(2020年10月14日最終更新)において、以下のように記載されています。

・妊娠中に感染することで早産や重症化のリスクは上がることがわかってきています

・妊婦健診は非常に大切なものなので回数をむやみに減らすことは勧められません

・一部の研究では、「遠隔による妊婦健診」を利用することで質を下げずに受診回数を減らすことができる可能性が報告されています

・妊娠糖尿病などの合併症を持つ妊婦では感染時の重症化リスクが高いためしっかりとしたスクリーニングが重要です

(3)学術論文における見解(N Engl J Med)

世界的に有名な医学雑誌に、2020年11月26日に掲載されたコメント(「Delaying Pregnancy during a Public Health Crisis - Examining Public Health Recommendations for Covid-19 and Beyond」)では、以下のように述べられています。

・妊娠中の感染では早産や重症化するリスクが高まっても妊婦死亡のリスクは変わらないと考えられています

・新型コロナウイルスの子宮内感染はまれにしか起こらないと考えられています

・新型コロナウイルス感染症と胎児の先天性疾患との関連性を示す証拠はありません

・現状得られている知見からは、「広く人々に妊娠を控えさせるよう勧告する根拠はない」と考えられます

結局まとめると?

以上をまとめると、妊娠前に考えておくと良いことは、このようになるでしょう。

・もともと健康な女性に対して妊娠を控えるべきだと広く勧告する根拠は、現時点で存在しない

・妊娠中の感染は重症化などのリスクを高めるため、危険因子(糖尿病や肥満など)を持っている女性では専門家と一緒によく検討した方が良い

・妊娠中に感染しても胎児の先天性疾患のリスクを高めることはないと考えられており、その点の心配は不要だろう

・妊娠したら、妊婦健診は勝手に控えたりせずきちんと定期受診をする方が良い

本記事が、妊娠を考えている女性とそのパートナーにとって、少しでも役立てば嬉しいです。

*本記事公開以降、新たな知見や見解が公開されることもあるため、できるだけ最新情報を参考にしてくださいますようよろしくお願い致します。

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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