レノファ山口:後半戦を白星発進! 新・攻撃的サッカー、小塚と岸田でスコア動かす
J2レノファ山口FCは7月9日、維新百年記念公園陸上競技場(山口市)にモンテディオ山形を迎え、後半戦最初の試合に臨んだ。レノファは前半38分に小塚和季が先制点を決めると、後半にも岸田和人がゴールを挙げて2得点。守備陣もピンチを耐え、2-0で勝ち点3を掴んだ。順位も上がり、降格圏を抜け出した。
明治安田生命J2リーグ第22節◇山口2-0山形【得点者】山口=小塚和季(前半38分)、岸田和人(後半12分)【入場者数】4567人【会場】維新百年記念公園陸上競技場
MF小塚和季を3試合ぶりに先発起用したレノファ。今節も飲水タイムが設けられるほどの暑さに見舞われながらも、積極的にボールを動かし、そしてゲームを動かしていく。前半はレノファが主導権を掌握。FW岸田和人が相手DFの背後を狙ったり、クロスボールからチャンスを広げたりと一方的な展開となる。
前半38分には、DF廣木雄磨が相手選手2人にコースを限定される中、間隙を突いてクロスを送ると、ファーサイドで小塚和季が合わせレノファが先制した。「雄磨くんがうまくDFを引きつけてくれていた。その間に中のマークで相手が油断していた」と小塚。相手のマークが廣木とニアサイドで構えていた岸田和人が引き寄せられ、生まれたオープンスペースに小塚が入り込んだ。「絶対に点を取ってやろうという気持ちがあったので、集中してゲームに入れた」という熱い気持ちも現れた先制シーンとなった。
このまま1-0として後半を迎えるが、誤算があるとすれば蒸し暑さが想像以上だったこと。試合開始前の午後5時半時点で気温は32・8度、湿度は58・0%にまで上昇。ハーフタイムには気温は30度を下回ったが、湿度は逆に70%を超えた。「この暑さでの消耗があって少し引いてプレーすることになった」とカルロス・マジョール監督。豊富な運動量をみせた前半の反動からか、後半に入るとレノファの押し上げが不足。攻撃に人数を割いた山形の勢いに押され、「最初5分はセーフティーに相手の様子を見ようということだったが、下がってしまう部分が出てきて押し込まれ、苦しくなった」(DF福元洋平)。今年のレノファはこうした局面を耐えられないこともあったが、この日は引き込んでいる状況でもディフェンスが機能。「古巣相手ということで気合いが入っていた」と話すDF渡辺広大をはじめ、DFパク・チャニョン、福元で組んだ3バックがFW阪野豊史などへの供給を断ち、チーム全体を見渡せば前線からのディフェンスも強さがあった。
後半12分には相手のバックパスのミスを逃さず、岸田和人がボールを奪取。冷静にGKの動きを見てゴールネットを揺らしレノファが2点差を付ける。「前半はかなり前まで行けていたが最後で決めきれなかった。前まで行って得点を取れるかどうか。チームが上にいくために取らなくてはいけない」と力が入るストライカーの一撃で、3月26日以来の維新公園での勝利をぐっと引き寄せる。
2点のギャップは大きく、山形は今季初出場のMF佐藤優平に続いて後半31分にはFW鈴木雄斗を投入して攻撃を再加速するが、レノファの守備陣が落ち着いて対応。いくつかの枠を捉えるシュートはGK村上昌謙が枠外へと追いやった。
5分の長いアディショナルタイムを経て、レノファが2-0で勝利。順位は20位に上がり、降格圏を脱した。「とても嬉しい。選手、スタッフ、サポーター、すべての人が望んだ勝利だ」と笑みを浮かべたマジョール監督。ただ、まだ下位に位置していることに違いはなく「今後も勝ちを続けられるように練習を強化していきたい」と次戦に目を向けた。
マジョール流レノファスタイルが見えた
マジョール流の攻撃的なサッカーが見えてきた。試合終盤、2点のリードを持つ中、マジョール監督は攻撃的な選手をピッチへ。意図的に引き込む時間を作って体力を温存しつつ、90分の時間軸で見れば攻撃の手を緩めることはなかった。後半23分に投入したFW大石治寿には、岸田同様に背後を突くことと「もちろん得点を狙っていけと指示を出した」。実際にはチームとしてセカンドボールを拾えなかったり、パスが収まらなかったりして攻撃回数を増やすには至らなかったが、ゲームの進め方や交代カードからはレノファらしいと言われる超攻撃的なサッカーの復活を感じさせた。
またクロスから生まれた前半38分のゴールは、これまでのレノファにはあまり見られなかった形。マジョール監督の「就任する前からポゼッションは良いと思っていた。それを生かした上で、サイドを広く使い、サイドからのチャンスを作れるよう意識してやっている」という戦術の片鱗がここでも覗いた。
今季のJ2も3バックを採用するチームが多い。ここに立ち向かう前線にマジョール監督は岸田和人、小塚和季、小野瀬康介の3人を選択。単に前に張るだけのFWに比べて明らかに運動量が多い顔ぶれで、相手からみれば掴まえにくい選手たちだ。得点場面では、局面次第では手薄になりやすいバックライン脇を『サイド攻撃』で突き、ペナルティエリア内では『掴まえにくい選手』を並べる効果が発揮され、岸田に2枚のマークが付く一方で、小塚へは緩くなった。後半に入って相手がシステムを変えてもそれらは十分に効いていた。レノファはもともとスピーディーにボールを動かせるメンバーが揃う。さらに戦術と精度を詰めていければ、今後も得点が期待できそうだ。
あえて課題を挙げるなら、引き込んでいる時間帯が危険性を帯びていたことだろう。相手に得点力のあるFWがいれば1、2点は決められていても不思議はなく、どこまで引き込むのか、あるいはどこでラインを上げるのか、いっそう意思統一が必要になる。
試合後のラインダンスでは守備陣の笑顔が最も弾けていたが、メディアに対応する頃にはマジョール監督同様、意識は次の試合へと向いていた。福元洋平は「なかなか勝てていない状況の中でもチャレンジしていき、『こういう状態でも守れる』『これだけ行ける』というのを覚えていかないといけない。それはこれからの課題。その上で、今日のように身体を張れれば、なおいいのかなと思う」。また、渡辺広大は共同インタビューで勝利の意義を聞かれ、「来週も大事な試合がある。喜ぶのは1日だけにして、これから讃岐戦に向けていい準備をしていきたいと思う」と一喜一憂せず次戦を見据えた。
マジョール監督は7月5日の練習後、取材陣に「J1に行けるように戦っていきたい。1位での昇格は遠いところにあるが、一番近いチャンスの6位をまずは狙いたい。全員で同じ目標に向かっていきたい」と話した。この目標達成には残り試合のおよそ3分の2を白星で飾らなければならないが、もちろん諦めるには早すぎる。勢いのある時のレノファは、その勢いで突き抜けていくことがあるのだから。
好例は中国リーグ(地域リーグ)に所属していた13年。リーグ戦はJFL昇格を争う地域リーグ決勝大会(地決、現名称は全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)の参加圏外の3位に沈んでいた。それでもレノファは諦めず、もう一つの参加ルート、全国社会人サッカー選手権大会(全社)で一発勝負のトーナメントを勝ち上がり地決に駒を進めた。最終的には同年中の昇格こそ逃したが、この粘り強さはJ2昇格を決めた時のガイナーレ鳥取戦でも発出。むろん今もレノファの血として流れているはずだ。前を向いて歩みを進めれば必ず光は差す。後半戦の快走が始まろうとしている。