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大リストラが流行る理由 機械に職を奪われる時代の到来か? 

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

メガバンクや証券、電機等の大手企業で、数千人規模での配置転換を中心としたリストラが相次いで実施されています。つい先日も大手損保が4千人の配置転換を発表して話題となりました。

【参考リンク】損保ジャパン、4000人削減=ITで効率化、介護分野などに配転

2000年前後のリストラとの違いは2点あります。まず、当時は製造ライン中心だったものが、今回は本社部門を含むホワイトカラーが中心である点。そして、今回はほとんどの企業でRPAと呼ばれる業務自動化のツールが活用されている点です。

そうした点から「いよいよロボットに職を奪われる時代が到来した!」と身構えている人も多いようですが、筆者は少し違う見方をしています。いい機会なのでまとめておきましょう。

本当の理由は“働かないオジサン”が増えすぎたから

現在、少なくない数の企業がRPAを導入しているものの、筆者の知る限り「RPAはすごいツールだ」と絶賛している人事担当は一人もいません。

というより、それ自体はルーチン的な作業を自動化するだけのツールであって、さほど目新しいものでもありません。むろんAIのように判断能力もありません。

結論から言えば、ホワイトカラーのリストラが流行している本当の理由は、日本企業内に“働かないオジサン”が増えすぎたことです。

一般的な日本企業の人事制度では、幹部候補選抜は40前半で終了し、そこで課長職に昇格できなかった人材は定年まで飼い殺されることになります。そしてその数は既に大卒社員の約半数に達しているとの数字もあります(H24厚労省賃金構造基本統計調査より)。

90年代のように、定年が55歳だった時代ならそれでも問題は少なかったかもしれません。しかし年金財政ひっ迫による年金支給開始年齢の引き上げを受け、いまや企業は65歳まで従業員を雇用する義務があります。

消化試合に突入した低モチベーションの従業員を20年近く雇用し続けることは、企業にとっては耐えられない重荷なのです。

政府の70歳雇用義務化がリストラに拍車をかける

皮肉なことに、先日、政府が閣議決定した「70歳までの雇用機会確保の方針」が、企業のリストラに一層の拍車をかけることになるでしょう(骨太の方針2019)。

“働かないオジサン”の消化試合がさらに5年延長されるまえに手を打とうとする企業が、これから一斉に動くことが予想されるからです。

まとめておくと、もともと55歳定年制度を前提としていた終身雇用制度に、木に竹を接ぐようにして社会保障制度のツケを押し付け続けた結果、企業体力の限界を超えてしまい、大掛かりな体質改善処置に追い込んでしまったということです。

RPAはその補助的なツールの一つにすぎず、仮にRPAが無かったとしても同様のリストラは実施されたはずです。

その点は、2000年前後に日本企業で大流行した(目標管理制度を柱とした)成果主義と似ています。当時も不良債権問題が重くのしかかる中、年功賃金の上昇を抑制せねばならなかった企業が、その理由付けに“成果主義”を必要としただけであって、成果主義の本質を理解し、必要としていた企業はほとんどありませんでした。

人手不足対策としては大きなメリット

というわけで現在起きているのは「ホワイトカラーがロボットに職を奪われている」のではなく「社内失業者がロボットのおかげであぶり出されているに過ぎない」というのが筆者の見方です。ロボットが職を奪いに来るのはまだ先の話でしょう。

最後に上記のような配置転換によるリストラの是非ですが、対象となった従業員には配置転換を受け入れ新たな職に挑戦するか、つちかってきたキャリアを武器に転職するかの選択肢が与えられており、何ら問題ないものと筆者は考えます。

また、内閣府によれば日本企業の社内失業者の数は460万人に上るとされており、彼らが労働市場に打って出ることは何よりの人手不足対策となるでしょう。移民受け入れの議論よりも、まずはこうした流動化を推進し、日本人による適材適所を進めるべきでしょう。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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