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花園が満員となったワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

いいスタジアムの雰囲気だった。スタンドを埋め尽くしたファンの熱がジャパンを後押しする。8日の日本代表×ウェールズ代表のテストマッチ。4点差で敗れたけれど、舞台の大阪・花園ラグビー場は「2万152人」の大入りだった。

日本協会が正式に集計を始めた2004年以降のテストマッチの最多となった。なぜか。隠れたラグビー協会の「ナイス・トライ!」があったからだと思う。

じつは主管の関西協会がこの日、地元の社会人、大学に練習試合をずらすよう通達を出し、高校生、中学生、小学生以下の子どもたちには事前登録すればタダという「集客作戦」を展開した。大学生も事前登録すれば2500円入場券を1000円で買うことができた。

関西協会によると、「大学生1200人、高校生以下8000人は入場した」という。このようにテストマッチの際、同じ地域の試合を実施しないようにする措置は、ニュージーランドなどでは行われている。日本では珍しい。

「うれしいですね」と、関西協会の坂田好弘会長は満員のスタンドを見ながら顔をくしゃくしゃにした。NZにもラグビー留学したことのある伝説の名ウイング。

「テストマッチというのは国を挙げての試合なのです。自分の試合ではなく、国の代表の試合を見るということも大事だと思うのです。ウェールズが久しぶりに日本にやってきてくれた。そういうチャンスを逃すのはもったいないじゃないですか」

先のサッカーの日本代表×豪州代表も取材した。会場の埼玉スタジアムは6万2千の満員だった。数は違うけれど、花園ラグビー場のファンの熱気も負けてはいなかった。

「やっぱり、こういうのは徹底してやらないといけない。いこうよ、みんなでラグビー場にいこうよって。きょうは花園ラグビー場がひとつになりました」

こういう地道な努力の積み重ねがラグビー人気復活につながるのだろう。これも、ホスピタリティー、ジャパン応援のひとつのやり方である。満員のスタンドで観戦すると楽しい。いいプレーをみれば、もっと楽しい。またスタジアムに行こうかと思う。

かつての「空飛ぶウイング」は言葉に力を込めた。「これがきっかけになってほしい」

花園で観戦したファンに言いたい。次はラグビーを知らない人、関心のない人も連れていこう、と。そうやってラグビーの輪が広がっていく。2019年ワールドカップ(W杯)へのうねりが生まれてほしいのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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