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ミネラルウォーターに税金!? 誰がいくら払うの?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:イメージマート)

地下水を飲料として製品化し、移出する行為へ課税

 山梨県では地下水を対象にした法定外税(地方自治体が条例に基づいて導入する独自の税金)について議論してきた。

 今年3月、税制や自治体財政の専門家で構成される県地方税制等検討会は、「営利目的で採水した地下水を飲料として製品化し、移出する行為への課税」とする基本方針をまとめた。

 「ミネラルウォーター税」とも言われるこの税金は、いったいどんなものなのだろう。

 地方税制等検討会は、税について2つの案を議論してきた。

 1つは、営利目的での地下水を採水することに対する課税。

 もう1つは、営利目的で採水した地下水を飲料として製品化し、県内外に出荷する行為に対する課税。

 前者の場合、事業目的で地下水を利用する農業、工場なども対象となるが、後者の場合は飲料メーカーなどに絞られる。

 下の表のとおり、山梨県のミネラルウォーター生産量は全国1位。割合は38.1%と他県を圧倒している。

日本ミネラルウォーター協会統計資料より著者が作成
日本ミネラルウォーター協会統計資料より著者が作成

 そこで財源不足に悩む県は、2000年頃から地下水を対象とした法定外税の導入を検討してきた。

 2005年には、県地方税制研究会が「採取1リットル当たり0.5円をミネラルウォーター事業者に課税する」という報告書をまとめた。水源保全事業にあてる法定外目的税だったが、大学教授や業界団体などから構成される検討会は「特定産業への狙い撃ちは不公平」と主張した。

 地下水を利用する企業のうち「ミネラルウォーター産業での使用量は約2%、工業用水などとして使っている残り98%の他産業に負担を求めないのは不公平」との主張を受け、2007年に県は断念した。

 それから10年を経て復活。2018年、政策立案特別検討会議が県に導入を提言し、後藤斎知事(当時)は「自主財源として重要で、議論を注視している」と述べた。

 現在、全国清涼飲料連合会と日本ミネラルウォーター協会は「私水への課税は根拠に欠ける」と導入に反対する意見を表明している。

地下水は誰のもの?

 全国清涼飲料連合会と日本ミネラルウォーター協会は「私水」を強調するが、「地下水は誰のものか」という議論はこれまで長く行われてきた。

 民法第207条には「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」とされる。民法に基づくと、土地の所有者に、その地下にある地下水の利用権があると解釈できる。

 一方で地下水は地下に止まっているものではなく、雨が大地に染み込んで地下水となり、湧水、川となって海に出るなど、地域を循環している。

 水循環基本法では「水は国民共有の財産」と定められている。さらに2021年には地下水について改正され、国や自治体には「地下水の適正な保全及び利用に関する施策」を行う責務があるとされている。

地下水の保全とかん養をめざす「安曇野ルール」

 保全や財源確保を目指す、他の自治体の動きを見ておこう。

 長野県安曇野市は、地下水を資源として活用し、地域経済を発展させてきた。地下水利用者は、飲料メーカー、わさび園などの観光、わさび栽培、水道、養鰻など多様だ。

 地下水は水田に貯まった水などから「かん養」(地上の水が地下に浸透すること)されるが、近年の水田の減少とともに地下水量が減少傾向にある。

 そこで2012年、地下水かん養と料金負担の2つの柱からなる「安曇野ルール」が検討された。

 地下水かん養の方法としては、転作田や休耕田を活用した水張り、冬水田んぼ、雨水浸透施設の設置などが上げられ、その資金を地下水利用者から徴収する。

 料金の負担方法は、「継続的」「広く薄く」「1つの方程式で算出」することとされ、以下の式が提示された。

「地下水の単価」×「地下水利用量(取水量—かん養量)」×「負担能力に関する係数(資本金の多寡と外国資本の割合)」×「地下水影響度に関する係数(深いところからくみ上げた方が影響が大きい)」

 この式では、かん養量が増えるほど料金負担は低くなる。利用者が積極的に地下水かん養を行えば、地下水利用量が減るため負担金はゼロに近づき、同時に、地下水量の減少に歯止めがかかる。

 検討段階では、「水は地産地消すべき」という考えから「取水した地下水を市外へ持ち出すことに関する係数」をいれるとよいという意見も出た。

 しかし、「酒、野菜などの生産に使用される地下水量の測定は難しい」「地場産業の振興を抑制するのではないか」「特定の業種だけが不利益を被るようなルールでは実施がむずかしい」「この係数をあえていれなくても、それ以外の方程式の要素で補える」などの声があり削除された。

 地下水かん養の具体的方法、料金負担方法ともに、ここまで具体的なものは全国的にも珍しかったが、実現にはいたらなかった。

熊本では採取量に応じて「負担金」を支払う

 水どころとして有名な熊本では、白川中流域の水田を活用した地下水かん養事業が行われている。この地で事業を行うソニー、富士フイルム、サントリー、コカ・コーラなどの企業が地元農家と協力し、田んぼの水張りを支援している。また、森林保全活動なども行っている。

 熊本の地下水保全条例では、利用許可を受けた事業者にかん養計画の提出と実施を求めている。地下水取水ルールと、かん養ルールが組み合わされているのだ。

 熊本には公益財団法人「くまもと地下水財団」もある。かん養事業を単独では行えない中小企業は同財団に協力金を支払うと、財団がかん養を行う仕組みができている。

 水質保全や水量保全などのメニューもそろっている。

 たとえば、地下水調査研究事業では、地下水の流れを調べ、各事業を効率的に展開するのに役立てるほか、熊本地域の地下水に関するデータも集積している。こうした市町村の枠を越えての熊本県の地下水保全の取り組みは世界で高く評価されており、「2013国連“生命の水”最優秀賞」を受賞している。

 地域の地下水をどうとらえ、どうしていきたいのか。資金を集め何をするのか。そこに納得感はあるのか。山梨県の今後の動きに注目したい。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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