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総選挙の争点に「残業代ゼロ」法案が浮上!~真の狙いは裁量労働制の拡大にあり~

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

総選挙の争点に「残業代ゼロ」法案が浮上!

 解散風が吹いてきましたね。

 この連休で、衆議院議員の多くの方、そして立候補予定の方は、選挙事務所を押さえたり、ポスターやチラシの作成の段取りに時間を費やしたことでしょう。

 と、なると、もう止まらないんですね。

 昔、ある議員に「解散風はなぜ止まらないの?」と質問したら、「一度吹くと、(事務所を借りたり諸々出費して)議員のお金がもたないので、早く解散してくれという見えない圧力になる」といっていました。

 なるほど納得ですね。

 さて、秋の臨時国会で最大の対決法案とされていた「働き方改革」関連法案はどうなるでしょうか?

 もしも、解散になれば、当然、これも争点の1つになると思います。

 ここで、「働き方改革」と言うと、いいことのように思うかも知れませんが、色々セットになっているために、とても分かりにくいことになっています。

 ただ、1点だけ、知っていて欲しいのは、この中に残業代ゼロ法案が含まれているということです。

 このあたり、知らない人が多いので、知っている人は是非とも周囲の人に教えてあげてほしいのですが、今回、政府が出そうとしている「働き方改革」関連法案には、残業代ゼロ法案が含まれているのです(大事なことなので2度言った)。

 法案のいい部分は与野党にそれほど温度差はありませんが、この「残業代ゼロ」法案はこれを導入しようとする自民・公明の与党(+維新)と、それに反対する野党(民進、共産、社民、自由)とで、大きな温度差があります。

 したがって、争点は自ずと絞られます。

 この「残業代ゼロ」法案を是とするか、否とするか、です。

 これが総選挙の争点に浮上することになります。

自分には関係ない?

 残業代ゼロ法案は、一部の専門的業務を行っている1000万円ほどの年収の労働者に対し、労働基準法の労働時間に関する規定を一部適用しないという制度がよく報道されます。

 高度プロフェッショナル制度、略して「高プロ」という、変なネーミングの制度がそれです。

 これは、シンプルに言うと、要するに年収がいいヤツには残業代を払わんという制度です。

 言うまでもなく、年収の多寡にかかわらず、人は働きすぎたら死ぬのですが、そういうのは見ないことにしているのがこの制度の悪魔なところです。

 でも、年収1000万円ときいて、「あー、自分は年収1000万円なんて全然ないからいいやぁ」と思うかも知れませんが、ご安心(?)下さい。

 もう1つあります。

 それは、裁量労働制の拡大というやつです。

ブック企業被害対策弁護団「ブラック法案によろしく2」より
ブック企業被害対策弁護団「ブラック法案によろしく2」より

 これには年収要件はありません

 年収が300万円でも、200万円でも、それ以下でも、OKです。

 裁量労働制とは何か?ですが、ごく簡単に言えば「決まった労働時間を設定し、どんなに長く働いても、どんなに短く働いても、その設定した労働時間働いたとみなす制度」です。

 これをきいて、「よっしゃ、短く働いても決まった労働時間働いたとみなされるのか! ラッキー!」と思えた人はいますか?

 いたら、あなたの職場はよい職場ですね。

 逆に、「短く働いても? それはありえん。長く働いても短い時間にみなされるだけでしょ?」と思った人にとっては、他人事ではありません。

「定額¥働かせ放題」により過労死・過労自殺の温床に

 一定時間を労働時間とみなすため、給料は一定です。

 どんなに長時間残業しても一定です。

 なぜならば、労働時間を一定時間とみなすことで、増減がないために給与変動がないのです。

 ですので、こうした制度が含まれる法案ゆえに、定額¥働かせ放題法案などと言われているのです。

 もっとも、裁量労働制でも本来は休日労働や深夜労働は変動しなければならないのですが、ちゃんと運用している企業をあまり見かけませんね。

 裁量労働制は、現行法の下でも、違法な状態をよく見かける制度です。

 さて、この裁量労働制ですが、過労死や過労自殺の温床となっています。

 裁量労働制ユニオンという労組のツイッターアカウントが以下のツイートをしていました。

「裁量」があるはずなのに、裁量労働制による過労死は後を絶たない。裁量労働制での過労で労災認定された数は2011年3人、12年15人、13年15人、14年15人、15年11人。うち12年4人死亡、13年2人死亡、14年2人死亡、15年5人死亡。厚労省「過労死等の労災補償状況」より。

 これは、あてずっぽうに言っているのではなく、厚労省の発表の数値です。

 これだけでも、相当問題がある制度で、今ある制度の厳格な運用や規制の強化を求めるのであれば、「働き方改革」の名にふさわしいのですが、これを拡大しようというのですから、「働き方改革」ではなく、「働かせ方改革」と言われても仕方ないでしょう。

狙いは「管理職」と「営業マン」の定額¥働かせ放題化

 では、この裁量労働制がどういうふうに拡大するのでしょうか?

 それは、難しく言うと、「事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務」と「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供にかかる当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務」に拡大されるのです。

 ・・・・難しく言うと、何がなんだかわけがわかりませんね。

 これを超かんたんに言うと、「管理職」と「営業マン」になります。

 要するに、狙いは、名ばかり管理職の合法化と、営業マンの定額働かせ放題化です。

 このあたりの詳細はまた別に書きたいと思います。

 財界の偉い人たちはよくわかっていて、実は高プロより、この裁量労働制の拡大がほしいのです。

 こっちのほうが、高プロより、即効性が高いので、当然と言えば、当然です。

 

もし総選挙になったら是非考えてみてください

 安倍総理が、臨時国会の冒頭に解散するかどうかは未知数ではありますが、にわかに解散風が吹いていることは間違いありません。

 であれば、そう遠くないうちに総選挙は避けられないでしょう。

 その際には、是非とも「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題法案)について考えてみて下さい。

 自分、夫や妻、親や子、兄弟姉妹、恋人、友人、そして未来の働く人たちにとって、何がいいのかが問われることになると思います。

参考

ブラック企業被害対策弁護団「ブラック法案によろしく2」

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「ブラック法案によろしく」(パート1)は動画もあります!こちらもよろしく。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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