Yahoo!ニュース

実在の裏長屋に住む人々の日々を映画に。全員と初対面で始まった実際のシェアハウス生活は?

水上賢治映画ライター
「旧グッゲンハイム邸裏長屋」の前田実香監督 筆者撮影

 映画「旧グッゲンハイム邸裏長屋」は、そのタイトル通りに、神戸に実在する旧グッゲンハイム邸の裏長屋を舞台にしたフィクション映画になっている。

 旧グッゲンハイム邸は築100年を超える洋館。その裏にある裏長屋はシェアハウスとしていまも使われている。

 作品は、その旧グッゲンハイム邸の裏長屋で実際に撮影。そこで暮らす住人たちのたわいもない会話やキッチンで料理を作る姿、共有スペースで一緒にのんだり、くつろいだりと、なんでもないふだん通りの日常風景が収められている。

 目の離せなくなるような強烈なキャラクターが登場するわけでもなければ、特にドラマティックなことが起きるわけでもない(ミステリーなことはちょっとだけ起こる)。

 でも、名もなき人々のありふれた営みを丁寧にすくいとった物語は、平凡な日常の中にある眩い瞬間や愛おしい時間を映し出す。

 その光景は、コロナ禍が続くいま、ウクライナの悲惨な状況を日々目にしているいまこそ、いかに平凡で穏やかな日常がかけがえのないものであるかに気づかせてくれるに違いない。

 知人とのおしゃべりが、みんな揃っての食事が、ちょっとした近所のお散歩が、なんだかとても愛おしくなる映画「旧グッゲンハイム邸裏長屋」。

 本作が劇場デビュー作となる前田実香監督に訊いた。(全四回)

 前回(第一回)は長年のひとつの夢だった映画作りへ踏み出すまでの経緯を訊いた。

シェアハウスの旧グッゲンハイム邸裏長屋に住むことになったきっかけは?

 今回は、前田監督自身が実際住んでいて、映画の舞台となっている「旧グッゲンハイム邸裏長屋」についての話から。まず住み始めた経緯をこう語る。

「(8年半ぐらい住んで)去年のゴールデンウィークに引っ越したので、おそらく住み始めたのは2013年ぐらいだったと思います。

 住むことになったのは、そもそもあの裏長屋は住む人を公募していないんですよ。

 紹介で新たな住人が決まるというか。

 たとえば長屋に住んでいる人が引っ越すことになったら、その人が友人や知り合いを連れてきて、その人が住みはじめる。

 その人が出るときは、またその人が友人や知り合いを連れてくる、みたいな感じなんです。

 だから、家の賃貸情報にも載らないし、あの裏長屋がシェアハウスになっているのもあまり知られていないかもしれないです。

 ただ、わたしの場合は、知り合いの紹介じゃないんですよ。

 わたしは神戸生まれ神戸育ちなんですけど、ひとり暮らしを始めようとなったときに、神戸の市街地だとすごく家賃が高い。

 なので、もう少し家賃が安いところはないかなと思って、物件を探していたら、塩屋の街のあたりにいきついた。

 塩屋のあたりは古い建物や古い家屋が比較的残っていて、それを塩屋のそとから若いひとがやってきて、リノベーションしたりして借りるような物件がちょうど出始めている時期だったんです。

 あるとき、『神戸の塩屋に引っ越したよ』と神戸市外の知人に言われたことがあって、前話したとおり、わたしは塩屋にまったく縁がなかったので『なんで塩屋なの?』と思ったんですけど、そういうことだったんです。

 それでわたしが興味ありということで、その塩屋に移り住んだわたしの知人が周囲にいい物件がないか探してくれたんです。

 で、このあたりの物件に詳しい人として紹介してくださったのが森本アリさんで。

 このアリさんが実際に映画でも本人役として登場いただいているんですけど、旧グッゲンハイム邸とその裏にある長屋の管理人だったんです。

 それで、アリさんも最初は物件を探してくれたんですけど、途中で『僕が管理している旧グッゲンハイム邸の裏長屋がシェアハウスなんだけど、そこ住む?』となった。

 わたしもこのとき、旧グッゲンハイム邸の裏に家があることを初めて知った(笑)。

「旧グッゲンハイム邸裏長屋」より
「旧グッゲンハイム邸裏長屋」より

 ただ、最初はめっちゃ抵抗があったんですよ。シェアハウスで自分がうまくやれるか自信がなくて。

 でも、家賃が安いし、駅からも近いし、この条件は捨てがたい。

 『じゃあ、とりあえず半年ぐらいのつもりで』と思って住み始めて、気づけば8年半ぐらい経っていました(笑)。

 話を戻すと、わたしの場合は、たまたまアリさんと出会って、しかもちょうど部屋に空きがでるタイミングだった。

 だから、偶然にもお世話になることができました」

会ったことも話したこともなかった人といきなりシェアハウス生活

 シェアハウスでの実際の暮らしはどういう感じだったのだろうか?

「さきほど触れたように、通常は、住んでる人が出るときに友達を紹介したり、住んでる人が出そうだからとほかの住人が自分の友達を紹介したりして、新たな住人が入ってくる。

 だから、どこかしら現住人と新住人の接点があるんですよ。

 でも、わたしの場合は、レアケースで、大家さんの紹介で住み始めた。

 だから、そのとき、長屋に住んでいる人の顔を誰一人知らない。会ったことも話したこともなかった人といきなりシェアハウス生活になったわけです。

 なので、『どうなるんだろう?』『もし受け入れてもらえなかったら……』と不安でした。

 でも、意外と順調にすんなりと溶け込めました(笑)。

 当時、わたしが入る前に住んでいたのが、わたしと同い年の女の子だったそうで。ほかの住人のみなさんは年上で、『新たな妹が入ってきた』みたいな感じで抵抗なく受け入れてくれるんじゃないかとアリさんが考えていてくれてみたいです。

 おかげさまでみんなウエルカムな感じで受け入れてくれました」

いつからかこの街を映画に収められたらなと思い始めました

 こうして住みはじめて、塩屋という街を知っていくことになった。

「神戸は震災の影響もあって、ニュータウンのほうとかだと区画が整理されたり、道が拡張されたりしている。場所によっては様変わりしているところがある。

 でも、塩屋はいい意味でかわっていないというか。昔ながらの街並みが残っていて、なんか風情がある。

 塩屋商店街という商店街には、個人商店が並んでいる。そのお店の人が、帰ってきたら『おかえり』と声をかけてくれるような雰囲気があるんです。

 ただ、わたしは帰りが深夜になることも珍しくない仕事だったので、遅くになるとお店が一切やっていなくて困ったりもしたんですけど(笑)。

 でも、いい街で、いつからかこの街を映画に収められたらなと思い始めました」

(※第三回に続く)

【前田実香監督インタビュー第一回はこちら】

『旧グッゲンハイム邸裏長屋』より
『旧グッゲンハイム邸裏長屋』より

映画『旧グッゲンハイム邸裏長屋』

監督・脚本:前田 実香

出演:淸造 理英子、門田 敏子、川瀬 葉月、藤原 亜紀、谷 謙作、平野 拓也、

今村優花、ガブリエル・スティーブンス、エミ、渡邉 彬之、有井 大智、

津田 翔志朗、山本 信記(popo)、森本 アリ ほか

撮影:岡山 佳弘 録音:趙 拿榮 編集:武田 峻彦

テアトル新宿にて公開中

5月13日(金)よりテアトル梅田、5月20日(金)よりOSシネマズミント神戸にて公開

<監督と出演者による舞台挨拶決定!>

4月16 日(土)21:00の本編上映後(予告なし)

登壇者:淸造 理英子(せぞちゃん)、門田 敏子(としちゃん)、

川瀬 葉月(づっきー)、藤原 亜紀(あきちゃん)、

平野 拓也(なりちゃん)、今村 優花(まむちゃん)、前田実香監督

※ゲストは予告なく変更する場合あり

イメージビジュアルおよび場面写真は(c)ミカタフィルム

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事