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エンダムのペドロ・ディアス・トレーナーが明かす「ノー・マス」の真相

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
パリで調整したエンダムとディアス・コーチ(写真:Karim Foudil)

 こうも違うのか。

 5月、不可解な判定とはいえ勝利者コールを受けたアッサン・エンダム(フランス)のトレーナー、ペドロ・ディアス氏を直撃した時はマシンガントークが聞かれたものだ。しかし今回、エンダムはダイレクトリマッチで村田諒太(帝拳)に7回終了TKO負け。声のトーンは明らかに哀調を帯びていた。

 「まずは日本の人々のもてなしと親切に感謝したい。特にセニョール・ホンダ(本田明彦・帝拳ジム会長)と帝拳ジムの方々に。そして何と言っても村田の勝利を祝福したい。彼は素晴らしい人間で、偉大なチャンピオンだ」(ディアス氏)

 質問したいことはたくさんあった。だがマイアミに帰った同トレーナーはこちらの気ぜわしさを遮るように日本と村田への賛辞を口にした。でもどうしても真相を聞きたい。あの突然の棄権の理由。

決断したのは私だが……

――あなたが唯一、棄権を決断した人間なのですか?もしそうならばエンダムをどう説得したのか?

「私は結果を正当化したくない。あの決断が最善だったかはわからない。私が棄権を決断した。長年アッサンのトレーナーを務めて、いつもと違って調子が悪いと感じたからだ。具体的にはリアクションがなかった。でも(事前に)説得することはなかった」

――それでもエンダム自身は続行したかったようだが……。

「彼はメディアに対してそう言ったかもしれないけど、私にはそういう意思は見せなかったよ」

――リアクションがなかったことが止めた最大の理由?

「アッサンは素晴らしいボクサーだよ。でもあの試合ではトップレベルのファイトができなかった。その原因はわからない。同時に村田が第1戦よりベターなフォームだったので敵わなかった。私の村田に対する評価は今回、満点だ」

コンディションは万全だった

――エンダムはトレーニング中に高熱を出したり、左足首の負傷に悩まされたとも打ち明けているが。

「彼はそう言ったのかもしれないけど、キャンプ中の子細な出来事はわからない。少なくとも私から弁解することはないよ」

――身近にいながらですか?

「私から言えるのは、アッサンはトレーニングキャンプでいい仕上がりだった。スパーリングも十分こなした。私の評価ではテクニックも上達していたし、試合前のメディカルチェックでも彼はグッドコンディションを強調していた。フィジカル、テクニック、戦術、心理面と村田戦の前のアッサンはエクセレントなコンディションだったと信じている」

 それでも勝てなかったのは単純に村田が強かったから――そんな結論を引き出そうとしたが、どうも試合後のエンダムのコメントとディアス氏の発言には隔たりがあるように思える。同氏の言葉を信じるなら、エンダムはコンディション不良を敗北の言い訳にしたフシもうかがえる。一方でマイアミ周辺に襲来したハリケーン「イルマ」がトレーニングに影響したという報道もあった。

――ハリケーンの被害はあった?

「キャンプ中に影響はあったよ。でもそれは言い訳にならない。(トレーニング地を)マイアミからヨーロッパへ移したのは時差がより日本に近いからだった」

ドイツへも出向いてトレーニングしたエンダム
ドイツへも出向いてトレーニングしたエンダム

全部、彼に聞いてくれ

――日本のメディアの記事ではエンダムは3ラウンド以降あるいは5ラウンドの途中から調子が鈍ったとあります。またフランスのメディアによると、3ラウンドから腕と脚の力が抜けたと。いったいどれが正しい?

「アッサンが各メディアにしゃべったことは彼しか真実はわからない。私は責任を持てる立場ではない」

――でもあなたのストップを決意させた判断とエンダムの状態がシンクロするようにも感じられます。

「そう受け取られても仕方ない。でも繰り返すけど、私から明言はできない」

 初戦の直後、不可解なスコアカードやジャッジ2人をサスペンドしたWBA、村田の共同プロモーター、ボブ・アラム氏を斬って捨てたディアス氏の歯切れの良さは今回、感じられない。敗戦という重荷がそうさせるのだろうか。文字通り、村田の圧力にギブアップしたと言いたげだ。決断したのはディアス氏にしても、エンダムも十分、同意してのことだったと結論づけて間違いあるまい。

結末が早く訪れただけ

 エンダムはこのリマッチの結末から今後どう立ち直るのだろうか。もしかしたらディアス氏が語ったように、もうトップレベルで戦えないとも推測される。

――果たしてエンダムはボクシングに対するヤル気、意欲がまだあるのでしょうか?

「シー(イエス)。アッサンはまだボクシングに熱意、ヤル気を持っている。ただ今後のプランは彼次第。再起できるかは彼の努力にかかっている」

――では2人のコンビは継続すると?

「そう願いたいね。村田戦が終わり、今度は(指導する)ギエルモ・リゴンドウとロマチェンコのオリンピック・チャンピオン対決が待っている。12月9日、ニューヨーク。日本の皆さんによろしく。リゴンドウを応援してください」

 偉大なパナマのチャンピオン、ロベルト・デュランは世界ウェルター級王座を獲得後、スーパースター、シュガー・レイ・レナード(米)との再戦で中盤、謎の棄権。その時発した言葉「ノー・マス」(No More)が話題となった。エンダムの突然のギブアップも何となくミステリアス。だがディアス氏の話から8ラウンドのゴングが鳴っていても、同氏がタオルを投げていた可能性が大きい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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