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給食完食指導で不登校相次ぐ?:給食の素晴らしさと給食問題

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

<給食で苦しむ子、給食を楽しみにする子。給食には問題もあるが、給食は貴重な教育の場であり、子供の心身を育てるあたたかな思い出、日本の食文化の最後の砦>

私は、小食で偏食もあったため、給食には辛い記憶もあります。だからそんな子ども達には共感しやすいですね。でも、それでも「給食」はやっぱり良い思い出です・・・。

■給食完食指導で不登校相次ぐ?:給食完食、強要やめて=相次ぐ不登校、訴訟も―支援団体に1000人相談

11月19日のヤフージャパントップページに、「給食完食指導で不登校相次ぐ」というニュース見出しが載り、次の内容の報道が紹介されました。

給食の完食を指導されたことがきっかけで不登校や体調不良になったなどの相談が昨年5月~今年9月、支援団体に延べ1000人以上から寄せられていた~「完食指導に我慢できず、小学3年から不登校になり、対人恐怖症になった」「幼稚園登園を渋るようになった」「野球部での食事指導で、1年間吐き続けた」~小学校で教諭に牛乳を無理やり飲まされ心的外傷後ストレス障害(PTSD)~

出典:給食完食、強要やめて=相次ぐ不登校、訴訟も―支援団体に1000人相談 11/19(月) 11:31時事通信配信

この記事を読むと、とても苦しんでいる子供と親がいることがわかります。ただ教育界全体で、「給食完食指導で不登校相次ぐ」ということが起きているわけではないとは思いますが。

それでも、ヤフーコメント欄には多くの意見が寄せられ、私達にとって身近な話題だということがわかります。

■学校給食とは

学校の給食は明治時代にもありましたが、戦後昭和22年から始まった「給食」が、私達が知っている給食でしょう。給食で、牛乳ではなく「脱脂粉乳」を飲んでいた世代もすでに中高年になり、現在の給食は昔に比べてずっとリッチになり、とてもおいしくなっています。

地域によっては、特に中学校の近年まで給食がなかったところもありますが、親からの要望も強く、全国の小中学校に給食は広まりました。平成28年の調査によれば、小学校の給食普及率は99.2%、中学校では88.9%でした。

ただし、自分の学校に給食室がある「自校方式」だけでなく、給食センターが複数の学校に給食を配る「センター方式」もあります。また、自宅からの弁当持参を普通に許可している学校もあります。給食の質については、残念ながら地域差、学校差が大きいと言えるでしょう。

各地で、学校給食のコンクールも行われています。栄養バランスやカロリーについて細かい規定があり、安全についてはとてもきびしい規定があり、さらに材料費は一食2百数十円という枠の中で、給食スタッフはがんばっています。

 <平成30年度学新潟県校給食調理コンクール

昔なら、学校給食は家庭の料理よりも簡単なもので、味もそれなりといったイメージでしたが、今は違います。給食は、日本の食文化を守るための「最後の砦」と語る人もいるほどです。

子供によっては、家庭では食べられない日本的なメニュー、手の込んだメニューもあります。地域の食材を生かす工夫もしています。オリンピックなどで外国のことが話題になると、その国の料理を提供する学校もあります。

子供が給食に出た料理を家でも食べたいとせがみ、親が学校に問い合わせることもあります。そのようなことは良くあるので、学校によっては、親に渡すためのレシピを最初から用意していることもあります。

2016年のフジテレビのドラマ『Chef〜三ツ星の給食〜』(主演:天海祐希)は、フランス料理のカリスマシェフが、ひょんなことから給食を作ることになって給食の素晴らしさに目覚め、そして給食がミシュランの星をもらう話でした。

ドラマのようなことは現実には起きませんが、心ある給食室で繰り広げられる努力と思いは、ドラマに引けをとりません。給食を楽しみに投稿してくる子供も、たくさんいます。

そして、小中学校の学校給食は、単に食事をとらせるだけではなく、「給食指導」の場でもあります。

■給食指導

子ども達は、給食を通しても、多くのことを学びます。「食育」(食事や食物に関する知識と選択力を身につけ、健全な食生活が送れるようにするための教育)の考え方も広まっています。

たとえば、愛知県の資料を見ると、次のような項目があります。

「ゆとりある給食の時間の確保に努める。 個に応じた指導を行い、児童生徒の健康管理に努める。 楽しく明るい雰囲気づくりや食事に集中できる環境づくりに配慮する。食べ残しを減らすことやごみを正しく分別するなど環境に配慮する。 クラス全員が楽しい雰囲気で会食し、栄養バランスを考えた食事ができるよう配慮する。 」(給食の時間における担任としての基本事項

「食物」に関して言えば、バランスの取れた食事でしょう。「食事」に関して言えば、マナーを守り楽しくでしょう。これは、子供の心身の成長に必要なことです。研究によれば、子供の心の健康にとって「食事の質」「共食頻度」「食卓の雰囲気」の 3つが強い影響力をもっていることも、わかっています。

楽しく「共食」「会食」ができることは、社会で生きていくうえで大切です。より良い食事の雰囲気(食環境)を作りだせる力は、大人になっても役立つでしょう。

(写真提供:写真AC)
(写真提供:写真AC)

一人ひとりに応じた教育は、今や学校教育の基本ですが、食べ残しを選らしたり偏食せずバランスの取れた食事をとることも、大切でしょう。特別人より早食いなのも、特別遅いのも、そのままでは将来的に困るでしょう。

みんなで食事を一緒にとるのは、食育だけでなく、子供の社会性を育て、社会化させていくうえでの、大切な機会です。家庭では、温かな食事をとっていない子もいます。いつも一人で食べていたり(孤食)、会話がない食卓もあったりします。

■給食指導の問題

「指導」は、足りないのも、行き過ぎるのも、問題です。ヤフーで取り上げた問題も事実です。現場は、反省しなくてはなりません。同時に、問題になるからと言って萎縮してしまっては、良い指導もできません。

学校現場では、昔に比べると強制的高圧的な給食指導はしていません。昔なら、掃除が始まっているのに一人で食べさせられるような指導も日常的でしたが、今は嫌いなものを友人に上げたり、最初から量を減らしてもらうことも一般的です。

ただし、何の指導もしないわけではありません。好き嫌いをなくして欲しいと願う親もいます。学校、クラスの教育力が下がると給食の残食が増えることもあります。給食の栄養バランスが細かく規定されている中、「がんばって、一口食べてみようね」と励ましたり、クラス全体の残食を減らすための声かけなどの努力をしている担任もいます。

ただ、指導の熱心さが空回りして、子供が辛い思いをすることもあるでしょう。これは、給食指導に限らない問題です。望ましい指導ができるように、先生も私達も考えなくてはいけません。

これは給食指導だけの問題ではないのですが、個々に応じた指導と、社会性を育むことの両立が必要です。そのためには、学校と保護者との協力体制が求められるでしょう。

「無理強いはいけませんが、チャレンジさせることは必要です」(「無理強い」と「チャレンジ」の違い:給食でもパワハラ問題でも:ヤフーニュース有料)。

■給食の問題

良い給食指導のためには、良い給食が必要です。

しかし給食には様々な問題があります。ドラマ『Chef〜三ツ星の給食〜』でも、終盤になって経費削減のために学校から給食室がなくなる危機が訪れます。経費削減の波は、現実の給食にも襲い掛かっています。

ある小規模中学校(生徒数100人ほど)は、小規模でも学校に給食室がありました。そして小規模だからこそ、生徒も先生も、栄養士や調理師のみなさんも、みんなで一つのランチルームで給食を食べていました。子ども達と「給食のおばさん」は顔見知りです。この学校の残食は、驚くほど少ないものでした。

学校には、経済合理性だけで語れない事柄があります。

ある学校は、学校内にいくつかの問題を抱えていました。給食の残食も多くありました。そこで、残食を減らす取り組みを学校みんなで行います。その結果、残食が減っただけではなく、全体的な雰囲気も改善していきました。

給食は安全をとても重視します。一般のレストラン以上です。たとえば、「安全・安心な給食ができるまで」(仙台市)を見ると、多くの安全チェックポイントが出ていますが、現場の方の話を聞くと、ここには書ききれないさらに多くの安全対策をしています。

給食に何かトラブルがあれば、すぐに全国ニュースです。安全はとても大切です。

ただ、中には「味より安全」と語る関係者もいます。たしかに安全は何よりも大切でしょうが、やる気のある給食現場は「安全も味も」と考えています。「味より安全」と強調しすぎることで、各学校の給食室の創意工夫をくじいてはいけないと思います。

給食時間の短さは、昔も今もあまり変わらないように思えます。早く給食を食べるためには、給食当番が迅速に動くことが必要ですが、担任がガミガミ言い過ぎれば、雰囲気は悪くなるでしょう。

「ゆとりある給食の時間の確保」は、一担任や、校長だけに求められる問題ではありません。限られた時間で、40人の子供に、迅速に、楽しく食事をさせ、同時に個々への配慮も行うことは大変です。

給食指導のあとで、先生方にも労働者としての「昼休み」はあります。一般企業のサラリーマンなら、昼休みに会社を離れリフレッシュすることもできるでしょう。けれども学校教員は、ずっと職場を離れません。

学校問題は、学校や教職員を責めるだけでは解決しません。家庭と学校と地域と、子ども達は私達みんなで育てていくのですから。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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