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惨敗の責任

田中良紹ジャーナリスト

民主党惨敗の責任は言うまでもなく解散を断行した野田総理にある。「解散権は総理大臣の専権事項」と言って一人で断行したのだから責任も一人で負うべきだ。ところがその姿勢が全く見えない。

衆参「ねじれ」に苦しんだのは民主党だけではない。07年の参議院選挙で大敗した自民党もそれから2年間「ねじれ」に苦しんだ。09年に政権を奪った民主党が「ねじれ」に直面したのはその翌年の参議院選挙だから、「ねじれ」に苦しんだ期間は同程度である。しかし両党の対処の仕方は全く異なる。

07年7月の参議院選挙で自民党が大敗した時、安倍総理は選挙敗北の責任を取らずに退陣を拒否した。それまで参議院選挙に敗れて「ねじれ」を作った89年の宇野総理、98年の橋本総理が責任を取って退陣したのとは対照的である。民主党の菅総理も参議院選挙敗北で「ねじれ」を作ったが退陣を拒否したので安倍、菅両氏の対応は共通している。

しかしその後の経過は対照的である。自民党は安倍総理の継投を認めず、2か月後には退陣せざるを得ない状況に安倍総理を追い込んだ。表向き病気のために辞任したと言われているが実態は異なる。

当時の安倍総理はインド洋での海上自衛隊の給油活動を国際公約していた。その公約を果たすためには11月で期限の切れる法案を継続させなければならない。そのためには8月中に国会を開き、衆議院で可決して参議院に送る必要があった。それを自民党はさせなかったのである。

安倍総理が国会開会を急いだのとは逆に、党内には「時間をかけ身体検査をしてから組閣をすべき」という声が強く、国会開会が9月にずれ込んだ。これで安倍総理は国際公約を果たせない事が確定した。

退陣の記者会見で安倍総理は「退陣しないと政治が混乱する」と述べたが、それが真相を物語っている。退陣の後で理由は病気という事にされたが実態は自民党に追い込まれたのである。これに対して民主党は「総理をころころ変えてはならない」と言って民意が参議院選挙でノーを突きつけた菅総理を続投させた。「ねじれ」で野党の言いなりにさせられるか、政権運営に行き詰まる事が自明なのにである。

菅総理は09年の民主党マニフェストをかなぐり捨て、霞ヶ関とアメリカの要求を受け入れて消費増税とTPP参加を政権の方針にする。民主党が菅総理を退陣させることが出来たのはそれから1年後のことである。

安倍総理が作った「ねじれ」を受けて総理に就任した福田康夫氏は、民主党の攻撃にさらされたが、衆議院議員の任期が切れる1年前に自分より国民的人気の高い麻生太郎氏に総理の座を譲った。「ねじれ」で政権運営がうまくいかない事から国民の支持を失った自民党の議席をいくらかでも減らさないようにするための自発的退陣である。

麻生総理に就任直後の解散を期待しての交代劇だったが、リーマンショックに遭遇した事もあって麻生総理は解散の時期を失い、それから「いつ解散するのか」と国民をイライラさせた。そのイライラが自民党に対する不満を膨張させ09年の民主党圧勝につながるのである。

一方、菅総理が作り出した「ねじれ」の後を受けた野田総理は、マニフェスト違反の消費増税に突き進んだために支持率を減らし、野田総理が先頭に立つ選挙では大敗が予想された。しかしそれでも野田総理は人気の高い後継者に総理の座を譲ろうとはしなかった。それなら任期満了に近づくまで不人気の自分でつなぎ、最終局面で「選挙の顔」を劇的に代えて民主党の議席をいくらかでも減らさないようにするのかと思えば、突然解散を表明して国会議員だけでなく、国民の心の整理もさせないままに選挙を強行した。

野田総理の「近いうち」表明によって国民は「いつ解散するのか」とイライラさせられ、そのイライラが募ったところで突然「3日後に解散」と言われ、何の準備もないままに選挙を強制された。しかも解散の理由が消費増税であるのにもかかわらず、それを堂々と正面に掲げて国民に信を問おうとはしなかった。

史上最低の投票率になり、しかも小選挙区で200万票の白票が出たという事実は、国民がいかにつらい選挙を強制されたかを物語っている。自らの政党のために自らを犠牲にすることなく、国民に難しい選挙を強要して、国民から支持された訳でもない政党を圧勝に導いたのは、解散権を行使した野田総理である。

民主党は次の代表選びを巡って混とんとしているようだが、期待を集めていた細野豪志政調会長が「執行部の一員として責任がある」と代表戦不出馬を表明したと言う。しかし解散は執行部で協議して決めた訳ではないだろう。解散権は総理の専権事項だから総理が一人で決め、一人で責任を取るものだ。その野田総理に民主党の捨て石になる姿勢が全く見えない。

ところでイギリスでは2年前に首相の解散権を廃止した。次の総選挙は2015年5月が確定的になっている。選挙の時期があらかじめ分かっていれば国民も政治家も選挙に臨む心の整理と争点の準備をすることが出来る。先月のアメリカ大統領選挙も一昨日の韓国大統領選挙も突然の選挙ではない。国家の針路を決めるための周到な準備を国全体が行った。

しかし「3日後解散」を叫んだ総理によって、日本の針路は誰にとっても分からないものになった。安倍次期総理はインフレ目標の導入や大型公共事業などの政策を次々に打ち出しているが、この選挙でそれらの政策が問われたと思う国民はいないだろう。選挙で支持してもいない政策が実現していく。その責任も突然解散をした野田総理にある。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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