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シリア北西部のイドリブ県で米軍MQ-9リーパー2機を含むドローン3機が墜落(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
Baladi-news、2020年8月19日

反体制系ニュース・サイトの特ダネ

反体制系ニュース・サイトのバラディー報道ネット(Baladi-news)は、シリア北西部のイドリブ県で8月18日、3機の無人航空機(ドローン)が墜落したと伝え、YouTubeのアカウントを通じて映像を公開した。

同サイトはまた、墜落した3機の機影や残骸から、2機が米軍所属機、1機がロシア軍所属機と思われると伝えた。

ロシア側の反応

これに関して、ロシアのアブハジアン・ネットワーク通信社(ANNA)は、ドローン3機が墜落したとしつつ、「こうした航空機を保有しているのは、ロシアではなく、トルコ、イラン、米国だ」と伝え、ロシア軍所属機の墜落を否定した。

米国の反応

一方、米国は国防総省が、ドローン2機がイドリブ県上空で衝突し、墜落したと非公式に認めたうえで、衝突の経緯を調査していることを明らかにした。

なお、バラディー報道ネットの特派員は、衝突・墜落したのはMQ-9リーパーだと伝えている。

Baladi-news、2020年8月19日
Baladi-news、2020年8月19日

墜落したイドリブ県の情勢

米軍のMQ-9リーパー2機を含むドローン3機が墜落したのは、トルコ国境に近いカフルタハーリーム町近郊。シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るいわゆる「解放区」内に位置する。

同地では、このシャーム解放機構のほか、トルコが全面支援する国民解放戦線(国民軍、Turkish-backed Free Syrian Army (TFSA))、さらには新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構、中国新疆ウィグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党、さらには「シリア革命」の成就を夢想する活動家らが活動を続けている。

2018年9月にロシアとトルコが交わしたいわゆるソチ合意において、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路以北の地域は、トルコが「テロとの戦い」を主導することが確認された(「トルコ軍がシリアに「ヒステリックな攻撃」を加えた理由とロシアの狙い」を参照)。現在も今回ドローン3機が墜落したカフルタハーリーム町近郊を含むM4高速道路以北の地域は、トルコの勢力下に置かれている。

こうした状況下で、米軍は、アル=カーイダに対する「テロとの戦い」を独自に進め、そのメンバーを狙ってドローンでの攻撃を行っている。

もっとも最近では、8月13日、サルマダー市近郊の街道を走行中の乗用車を爆撃し、ウズベキスタン国籍のアブー・ヤフヤーを名乗る人物を殺害した。

アブー・ヤフヤーは、どの組織にも属さず、軍事教練の教官として活動していたが、最近になって、フッラース・ディーン機構に協力するようになっていたという(「米軍ドローンがシリアのイドリブ県でウズベク人司令官を殺害する一方、アル=カーイダが米国人記者を拘束」を参照)。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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