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市立船橋が2-1で流経大柏に勝ち全国へ、プレミア「未勝利」が「無敗」破る=高校サッカー

平野貴也スポーツライター
インターハイ全国大会出場を決めて喜ぶ市立船橋高校サッカー部【筆者撮影】

 伝統の一戦とは何かを見せつけられた。全国高校総体(インターハイ)男子サッカー競技の千葉県大会は6月16日に東総運動場で決勝戦を行い、市立船橋高校が2-1で流経大柏高校を破り、全国大会の出場権を獲得した。今季、指揮を執っている中村健太コーチは「プレミアリーグの結果を見れば、相手に力があるのは分かる。相手の攻撃をどれだけ粘り強く守れるかが大事な1日だった」と強い警戒心を持って臨んでいたことを明かした。

 両校ともに日本一を経験している強豪校。インターハイ全国大会に千葉県から2校が出場していた時期には、全国の決勝で対戦したこともあるライバルだ。しかし、今季は対照的な成績。ともにユース年代最高峰であるプレミアリーグEASTに所属しているが、流経大柏は5勝2分の無敗で首位。対する市立船橋は、0勝2分6敗の最下位だ。

 インターハイの県大会も、流経大柏は初戦となった4回戦から無失点と盤石の強さで決勝に進出。市立船橋は準々決勝で中央学院高校に2-1で逆転勝利。準決勝では東京学館高校を延長戦で下すなど苦戦をしながらの勝ち上がり。戦前の予想では、流経大柏の優位は揺るがなかった。

パス2本のカウンター炸裂、エース久保原が先制点

後半13分、市立船橋のエースFW久保原がダイビングヘッドで先制点【筆者撮影】
後半13分、市立船橋のエースFW久保原がダイビングヘッドで先制点【筆者撮影】

 試合が始まると、すぐに流経大柏が押し込んだ。足下の技術に優れた中盤の選手がボールを保持。ダイナミックなサイドチェンジと、ドリブルからの連係で相手を揺さぶった。しかし、市立船橋は、MF峯野倖(3年)が活躍。どこにでも出て来て通行止めを行う小柄なボールハンターが相手のリズムを崩した。

 無失点で折り返すと、後半から攻勢に転じた。後半13分、GKのパントキックを左ハイサイドのスペースで受けたFW伊丹俊元(3年)がドリブルから低いクロス。10番を背負うFW久保原心優(3年)がダイビングヘッドで押し込んで先制に成功した。最後方からパス2本でゴールを奪う、見事なカウンターだった。伊丹にパスが通ったのを見て、ピッチ中央を懸命に走ってゴール前へ飛び込んだエースは「守備が頑張ってゼロ(失点)で抑えてくれた。後半は絶対に1点取ろうと思っていた。リーグ戦では無得点。毎試合、チャンスがあるのにポストやクロスバーに当たって得点できていない。今日も、またポストに当たったかと思ったくらい。でも、こういうときに決め切るのは大事」と嫌なイメージを払しょくする一撃を振り返った。

昨季全国4強に貢献した守護神、積み重ねた必殺パントで得点演出

市立船橋の守護神ギマラエス ニコラス ロドリゲスは、昨季の全国高校選手権でも活躍。得意のキックで得点を演出した【筆者撮影】
市立船橋の守護神ギマラエス ニコラス ロドリゲスは、昨季の全国高校選手権でも活躍。得意のキックで得点を演出した【筆者撮影】

 カウンターの起点となったGKギマラエス ニコラス ロドリゲス(3年)は、DFギマラエス ガブリエル ロドリゲス(3年)が双子の兄。日本で生まれ育っているが、父がブラジル、母がフィリピンの国籍を持ち、兄弟でU-16フィリピン代表に選出された経歴も持つ。FW久保原とともに、昨冬の全国高校選手権では2年生ながら主力として4強入りに貢献。優勝した青森山田高校(青森県)にPK戦で敗れた準決勝も先発出場していた。

 キックは得意だが、昨季のプレミアリーグで取材した際は、逆風にうまく対応できなかったからと試合直後に居残りでパントキックを練習していた。この日の後半は、横風もある追い風だったが、低い弾道で見事にコントロール。明らかに「遠くへ蹴った」のではなく「空いたスペースへ届けた」ロングパスで得点を演出。「パントキックは、練習通り。努力の積み重ね」と笑顔を見せた。

リーグ未勝利も、総体予選でチームが変化

今季、チームをけん引するDF岡部タリクカナイ颯斗【筆者撮影】
今季、チームをけん引するDF岡部タリクカナイ颯斗【筆者撮影】

 試合は、7分後にコーナーキックから同点弾を決められて振り出しに戻ったが、チームは冷静だった。結果が出ていないリーグ戦では、失点から自信のなさが表れる場面が多かったが、トーナメントを勝ち上がる中で変化が生まれていた。中村コーチは「プレミアで最下位、点数も取れていない、失点も多いという状況。そういう中でも、選手たちがやり続けてくれていて、どこかで、何かきっかけがあればという思いでインターハイ(県大会)が始まった。初戦でまず1勝を取れたのが大きかった。そこから精神的な強さ、たくましさが出て(練習してきたことや指示されていることを)信じてやっていっていいんだというところが、チームとして整って来た」と、1勝が与えた影響の大きさに言及した。

 決勝の流経大柏戦、1-1に追いつかれても引け目は感じなかった。40分ハーフで行われた試合の後半33分、ロングスローのこぼれ球から仕掛けた二次攻撃が結実。左から対角に蹴ったロングパスを、前に残っていた長身DF岡部タリクカナイ颯斗(3年)がヘディング。DFガブリエルが触ったボールを、FW伊丹が頭でゴールへ押し込んだ。献身的なプレーが目立った伊丹は、1得点1アシストで勝利に貢献。「プレミアリーグでは、思うような結果を出せていない。周りの見る目を覆すのは、この試合しかないと思っていた」と喜んだ。

伝統校イチフナが目指すのは、日本一

ライバルとの「伝統の一戦」を制して全国へ。プレミアリーグでは苦戦続きだが、評価を一変させる夏となるか注目だ【筆者撮影】
ライバルとの「伝統の一戦」を制して全国へ。プレミアリーグでは苦戦続きだが、評価を一変させる夏となるか注目だ【筆者撮影】

 主将を務めるDF岡部は「半分、信じられないくらいの気持ち。相手はプレミア無敗。逆に僕たちは1勝もしていない。すごく対照的だったから。勝てて、心の底から嬉しい」と厳しい戦いを覚悟して臨んだ一戦を乗り越えた喜びを表現した。成績の違いから、相手の強さを想像していたが、試合が10分ほど経過した段階で互角以上に戦える自信を得て、選手間で声をかけ合っていたという。

 中村コーチが、チームの変化を確信したのは、2戦目で迎えた準々決勝の中央学院戦。「先制された後も相手ペースのままだったけど、ハーフタイムに帰って来たタリクが、下を向いていなかった。主将がブレなかったので、少し苦しくても、ピッチの中でタリクがどうにかしてくれると思った。今日も、1点取られてもやり続けてくれた。彼なしには、勝ち切れなかった」(中村コーチ)と主将への信頼感を示した。

 岡部には、主将のやるべきことが分かっていた。昨冬、全国高校選手権4強にチームを導いた主将MF太田隼剛(桐蔭横浜大、1年)を見て来たからだ。「主将が下を向いていたら、チームはダメになると隼剛さんに教えてもらった。常に声をかけ続けていたので、見習って声をかけ続けた。成績が出なくて(今年は弱いなど)言われている部分もあったけど、自分たちを信じてくれる人、応援してくれる人たちのために頑張ろうと言ったし、1試合ごとにチームの成長を感じた」とトーナメント戦を通じてチームの立て直しを図って来た。

 インターハイ全国大会は、今季から冷涼地の固定開催(一般は北部九州開催、サッカーは女子が北海道、男子が福島県開催)で、男子は7月27日に開幕する。中村コーチは、県予選を通じて成長したチームに「イチフナである以上、目標は優勝。攻守ともまだ課題はあるが、いろいろな方々が応援してくださっているチーム。気持ちを背負って戦ってほしい」と伝統を背負った戦いを期待した。リーグ戦ではいまだ厳しい状況だが、ライバルを相手に伝統の一戦を勝利した手応えは大きい。リーグ未勝利から日本一へ、大逆襲を狙う。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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