井上尚弥「あそこまでプロで競った試合は初めて」最大のピンチからドネアに勝利
11月7日さいたまスーパーアリーナで、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)決勝戦が行われWBA&IBF世界バンタム王者の井上尚弥(26=大橋)が、世界5階級王者のノニト・ドネア(36=フィリピン)と戦った。
2万枚以上もある試合チケットは、販売開始数日後には完売。
テレビ放送が3社で行われるなど、ボクシングの試合としては前代未聞の盛り上がりを見せた。
ドネアとの熱戦
WBSS独特の演出で入場すると、2万人を超える観客のボルテージが最高潮となった。
試合が始まると、お互い先手となるジャブを放つ。
「左ジャブ」は相手との距離を測り、リズムを作ってペースを握るために必要となる。
井上は自分より体格が大きいドネアに対して、ジャブで先手を打つ。
鋭いジャブを起点に、1R目は井上がいい立ち上がりでペースを握った。
両者ともにキレのある動きを見せ、好試合を予感させた。
目の上をカット
しかし、2R目にピンチが訪れる。
ドネアの得意の左フックが炸裂し、井上が目の上をカット。そこから形勢が逆転した。
試合後にも「このパンチでドネアが二重に見えていた」と話していた。
右目の上をカットすると血が目に入り、相手のジャブが見にくくなる。
また、眼球にもダメージを受けたようで、距離感がずれてパンチを当てる間合いが狂った。
それを好機と見たのか、ドネアがプレッシャーを掛けて前に出てきた。
井上の得意のストレートは、相手と一定以上の距離があることで効果を発揮する。
遠距離から踏み込むことで、体重が乗った強いパンチが打てるのだ。
近距離になると踏み込みが生かせず、なかなか強いパンチを打ち込めない。
キャリア最大のピンチ
中盤に入ると井上が戦い方を変えた。
前かがみだった重心を後ろにずらし、距離を取りながらペースを掴みにいった。
重心を後ろにする事で、懐が深くなり相手との間合いができる。前に出てくるドネアと空間ができて、ジャブを起点に立て直していった。
井上がドネアの打ち終わりにカウンターを合わせ、見せ場を作った。ドネアも勢いが落ち、井上がペースを引き戻していった。
しかし、第9R。
ドネアの右ストレートのカウンターが効いて、井上がピンチに陥る。2R目にカットした眼が、井上の距離感を狂わせているようだった。
クリンチでなんとかその場を逃げ切り、一進一退の攻防が続いた。
井上の渾身の左ボディ
そして迎えた第11R。井上のアッパーからの左ボディが炸裂して、ドネアがダウン。
ドネアが後退してその場にうずくまった。急所であるレバーにパンチをもらうと息ができなくなる。
苦しそうな表情を浮かべ、ここまでかと思ったが、10カウントギリギリのタイミングで立ち上がり、試合が続行。
なんとか逃げ切り試合は最終ラウンドへ。両者実力を出し切って、試合終了のゴングが鳴った。
試合後には両者が笑顔で抱き合い、健闘を称えた。
激戦を制す
3-0の判定(116-111、117-109、 114-113)勝ちで、井上がWBSSトーメントを制し、アリトロフィーを獲得した。
大方の予想では井上が前半KO勝ちだったが、それを覆し大接戦となった。
苦戦した井上だが、今回の試合に勝利したことで大きな収穫があっただろう。
最近は短いラウンドで試合を決めていたが、強敵のドネアを相手に長いラウンドを戦い抜いた経験は大きい。
KO率が高く強さが目立つ井上だが、この試合を通じて展開に応じて戦い方を変えられる「適応能力」の高さも証明された。
試合後のインタビューでは「ドネア選手めちゃくちゃ強かったです。気持ちの強さを感じました」と話した。
5階級を制覇して、キャリア50戦近くの試合をしているドネアの経験を称賛した。
また「あそこまでプロで競った試合は初めて。試合を通して人生として勉強になった 」と語った。
私も経験があるが、ボクサーはきつい試合を乗り越えることで成長する。自分の限界を超えた経験が新たな扉を開くのだ。
さらなる高みを目指して、日本のボクシング界を盛り上げてほしい。