不在の理由はパチンコでフィーバー…世間が知らない「引越し作業員たちの苦労」
新生活の準備が本格化する3月は、引越しシーズン。業者の最繁忙期でもある。
今年で3回目になる「コロナ禍の春」だが、リモートワークの影響はほぼ出ていないようで、引越し関係者は皆「3月はすでに予約でいっぱい」と口を揃える。
ある引越し業者によると、「条件にもよるが、毎年この時期は依頼数が通常の1.5倍から3倍くらいになる。今年もそれほど変わらない」とのことだった。
今回は、そんな引越し業に従事する・したことがある現場作業員17名に、顧客に知っておいてもらいたい「現場での苦労や困りごと」を聞いた。
不在の理由「パチンコでフィーバー」
引越し当日、作業員がまず対峙する困りごと。それが「実際の荷物量の違い」だ。
コロナ禍以降、感染防止対策として業者の訪問見積もりを避け、電話やネットによる見積もりを依頼する顧客が増加。それに伴い、申告された荷物量と現場の荷物量に差が出るなどのトラブルが多くなっているのだそうだ。
「安く済ませたいからなのか、見積もりと実際の荷物量がかなり違うことがある。追加料金が発生すると伝えると、なぜかこっちが怒られる」(50代現場兼社長)
「照明器具や、外にある自転車・物干し竿・植木などは申告が忘れられがちになるので、こちらから訊くよう心がけている。そうしないと当日、荷物はこれで全部かと確認した後に『すみません忘れてました』と、両親・子どもの自転車、時には一輪車まで出てくる」(50代男性現場歴32年)
このような荷物量の差による影響は「追加料金の発生」だけではない。できる限り正確な量を伝えておかないと、当日トラックに積みきれない可能性が生じるのだ。
「実際の荷物量が見積もりの時より少ない分にはいいのですが、少ない見積もりで実際が多いと積みきれません。それで過去に一度断ったことがあります」(40代元引越し作業員)
今回の取材で最も多かった作業員の困りごとは、「当日までの準備不足」だった。
「当日チャイムを押すと、パジャマのズボンをずり上げながら出てきた。茶碗も洗ってない、乾いてない洗濯物が下がってる状態」(50代男性作業員歴20年)
「梱包材は事前に持って行ってあったのですが何も準備されてなかった。理由は『忙しくて…』。正直『ふざけるな!』です」(50代女性現場歴10年)
「冷蔵庫はあらかじめコンセントを抜いておかないと、トラックの中で霜が解け、水が垂れ流れる。せめて前の晩までには抜いておいてもらいたい」(同上)
「ドラム式の洗濯機が出始めた頃、洗濯機の水抜きが不十分で荷台の床が水浸しになったことがある」(40代男性現場作業員)
なかには、業者のサービス内容を"あること"のせいで「誤解」したという人も。
「当日に尋ねたら、一切何もせず普通にテレビ見てましたね。テレビCMのイメージで、何もしなくても全てやってくれると思ってたらしいです。説明はきちんとしてるはずですけどね。予想通り大幅に予定が狂いました」(50代男性元引越し業)
当日までに準備ができていないのは言語道断だが、よりひどいのは、引越し当日に本人が不在であるケースだ。
「パチンコしてたらフィーバーがかかっちゃったという人、新居の鍵を不動産屋から受け取ってなくてなかなか現場に来ない人なんかもいました」(30代元引越し作業員)
ちなみにこの「準備不足」は、引越し元だけではなく、引越す先においても作業員を困らせることがある。
「搬出の準備不足も多いですが、引越し先の搬入でも、家具の配置をあらかじめ考えていなくて、現場で悩まれることがあって作業が止まってしまう」(50代男性作業員歴20年)
引越し業者は、1日に何軒も回らなければならないことが多い。特に繁忙期になるとその件数は当然増える。
「多い時には1日3回転。荷物量や移動距離によっては、最後の降ろし作業が深夜になることもあります」(20代男性現場歴6年)
「朝7:15出社、3件の単身分現場(積み降ろしセットで1件)。移動距離が各1時間ほど掛かったり、新人と2人だったり、組み立て式の家具の分解・組み立てが分からなくて時間掛かったりで、帰社が翌日の明け方5時半になった」(30代男性現場歴10年)
客側の準備ができていないと、当然作業員のスケジュールはどんどんずれ込む。そうすると、このように作業員の労働環境や、次の顧客にも影響が出てしまうことは知っておいてほしい。
現場作業員の「本音」
その他にも、普段あまり顧客に言えない「キツい現場」や「顧客へのお願い」について聞いてみた。
「2階以上に住んでた人は、引越し先も2階以上ってことが多い。アパートによってはエレベーターがなかったり、あっても使わせてくれないところも。下手すると引越し『元』も『先』も階段になるのでキツい」(20代男性現場歴6年)
「女性の方、当日部屋着でもいいが、せめて下着は着用しておいてほしい。目のやり場に困ります。あと、透明の衣装ケースに入った下着も見えないようにするか、中身は抜いてダンボールにまとめておいてほしい」(40代長距離ドライバー兼引越し業)
「観葉植物が多いお客さん。中には運搬を拒否する業者もいます。盆栽は美術品扱いで別料金が発生することも。段ボールのように積み上げられないのに加え、植木鉢は倒れやすいうえに土と水分なので、荷台が汚れやすい」(50代現場兼社長)
「作業中ペットなどを飼われている方はゲージなどに入れて欲しい。動き回られると仕事ができない」(40代長距離ドライバー兼引越し業)
それでもこれらは、人間がなんとか穴埋めできるものが多いのだが、現場には1つ、どうしても自分たちで調整できないものがある。「天候」だ。
基本的に引越しは雨天時でも決行される。たとえ当日に台風が来ても、原則的には引越し業者から「中止」を決めることはほとんどないという。
「雨で引越しが中止になる、ということはほとんどないです。相当な台風が来たら提案はしますが、基本的にお客さんからの申し出待ちですね」(30代男性現場4年目)
「雨天時は荷物や建屋内を濡らさないように気を付ける必要があります。晴天なら外に仮置きするような梱包資材の置き場にも苦慮します。傘を差すわけにはいかないので、雨粒をその都度雑巾で拭ったり。お客さんが納得するように創意工夫します」(30代元引越し作業員)
ガムテープをする意味
もう1つ、顧客に対しての要望として多く挙がったのが、荷物を入れる「段ボール」と「ガムテープ」についてだ。
顧客の中には、引越し後の処理の煩わしさを軽減するためなのか、段ボールにガムテープを使いたがらない人がいるという。
「直前まで荷物の出し入れをするためなんでしょう、段ボールの天井にガムテープがされていないことがあります。閉めてと言ったら『底はしてあるから』と拒否する人も。モノが落ちたりするからやめてほしいです」(20代男性現場歴6年)
一番困るのが「底部分を十字にクロス組みしただけの段ボール」(画像左上)だそうだ。
「段ボールの底の部分をクロス組みにしただけでガムテープを貼らないお客さん。持った時に箱がゆがみやすくなり、底が抜けたことが何度もある」(50代現場兼社長)
ガムテープの貼り方は色々あるが、強度を考えると「十字貼り」(画像右上)くらいにはしておきたい。
それよりも強度が劣る縦1本の「I貼り」(画像左下)にする場合は、側面までしっかり留めるようにしてほしいとのこと。
ある業者が勧めるのは、ふちの部分にもガムテープを貼る「H貼り」(画像右下)だ。
「ガムテープは、『段ボールからモノが出ないようにする』ためだけではなく、『外から異物(虫など)が入らないようにする』ためのものでもあります」(30代男性現場4年目)
特に、引越し先に荷物が届くまでに時間がかかる場合、また、長距離での引越しの際は、できるだけ隙間を開けない工夫をするといいとのことだった。
人手不足の原因
手短に、引越し業者の「人手不足の原因」にも触れておこう。
ここ数年、この季節になると「引越し難民」をよく耳にする。それはひとえに「作業員の人手不足」だからだ。
「うちはトラックはあるのに仕事を受けられない。完全に人手不足ですね」(50代現場兼社長)
この人手不足は、無論シーズンによるところも大きいのだが、それ以外にも業界特有の要因がある。
1つは、コンプライアンスの強化である。
「働き方改革」によって長時間労働に対する行政の厳罰化が進み、コンプライアンスを重視する企業が増加。そのため、仕事をもっと受けたくても、受けられない状態になっているのだ。
また、労働者が「宅配業界」へ流れてしまうのも原因の1つとなっている。
引越し業はとにかく過酷であるのだが、春の繁忙期と他の時期を比べると繁閑の差が激しく、安定を求めて「宅配業」への就職を選ぶ人も少なくないのだ。
こうした状況がゆえ、繁忙期の引越し料金は必然的に高くなる。なかには通常より5~6倍の値段を提示するところも。
「来月同僚が福岡から大阪に引越すのですが、時期的なものもあると思いますが、某引越し屋の見積もりが4トン車・中1日行程で75万円という目玉飛び出る価格でした」(40代元引越し業者事務)
「忙しくて受けられないのは間違いないんですが、断らない代わりに『これだけ出すならやりますよ』みたいな超高額な繁忙期料金を提示するのはちょっと違うなと、個人的には思います」(40代長距離ドライバー兼引越し業)
こうした価格の高騰が、また引越し難民を生む原因になるという悪循環。
可能であるならば、やはり引越し時期は極力ずらすなどしたほうがいいだろう。
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