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今週末、どこ行く? 女性「ひとり温泉」で【絶対外さない名湯・美食の宿】ワインとまつたけのマリアージュ

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
湯の花温泉「すみや」は茅葺屋根が迎えてくれる(撮影・筆者)

京都の丹後地方、亀岡に湧く湯の花温泉「すみや」ではオーストリアワインに挑戦した。

女将に「オーストリアワインは酸味が強いので、和食と最高のマリアージュ」と薦めていただき、白を頼んだ。オーストリアを10日間ほど旅をした時には口にしなかったが、まさか京都で嗜むとは。

ワイングラスに注がれた、少し黄味がかった白ワインは辛味がキリリと爽やか。新潟の地酒の端麗辛口にバラの香りを足したようだ。辛味と酸味は食中酒として、いい働きをするだろう。

「すみや」は懐石料理が自慢。その食事処にはおくどさん(かまどやかまどのある所。その場を守る神様を指す)が湯気を立てていた。

先付け、八寸と進み、名物「さごしの棒寿司」も白ワインと合う。コース終盤はやはり「すみや」名物の若鮎の塩焼き。

そもそも「すみや」とは、かつて炭を作っていたのが屋号の由来で、いまでも通年炭焼きを出している。食事処でも料理人が炭で焼く姿が見える設えになっている。

竹筒の中に笹を敷いて、その上にのって若鮎がやってきた。なんでも京の舞妓さんが好んで食すそう。目の前に置かれた時に、炭の香りが漂った。

若鮎を頭からかじると、最初に炭の匂い、次に焦げた皮の香ばしさ。口いっぱいに香りが充満した直後、今度は苦みが襲ってきた。口の奥がキュンとした。ここで白ワインを口に含ませると、芳醇な香りで口内がマイルドに。

噛み締めると、若鮎の卵が飛び出てきた。「ぷちぷちっ」と、音も楽しみながらかみしめる。そしてまたワインを口に。

京野菜があるように、亀岡にも亀岡野菜があり、替り鉢では金目鯛のしゃぶしゃぶを亀岡野菜の水菜、三つ葉、ネギと共にいだいた。

丹波と言えば黒豆が有名。デザートに出された黒豆羹も、コクの黒豆はやはり名産の味。帰りに黒豆茶を購入しようと心に決めた。

ここまでさんざん料理を記したが、「すみや」には驚くお風呂が2つある。

まず野天湯。実はこれ、異例の湯なのである。

そもそも野天湯とは山峡のいで湯で、ワイルドなロケーションがウリ。人が管理していないことが多いため、危険と隣り合わせである。たとえ宿があったとしても、秘湯の一軒宿といった素朴な宿で、食事は土地の人たちが山菜やきのこなどの手料理でもてなしてくださるのが一般的。

――にもかかわらず、「オーストリアワインとマリアージュ」と言っている洒落た宿に、注目すべきは、かのジョン・レノンが入った「岩風呂」だ。

今は女性専用風呂になっているので、私も入浴した。浴場の壁面と湯船を岩で覆うその風呂は、昭和45年の大阪万博の好景気で湧いた時に作ったという。

「今では岩風呂はごく一般的ですが、当時は相当洒落ていたそうです。ジョン・レノンさんが入浴されたのは昭和52年です。茅葺屋根の別荘を探しに丹後にいらしていまして、うちはお昼とお風呂のご用意をしました」と、女将が教えてくださった。

私が訪ねたのは若鮎が旬の6月下旬だったが、湯の花温泉近隣では丹後まつたけが採れることで知られる。

あぁ、オーストリアワインとまつたけとタケノコは合うのだろうか、いや合わないわけがない。

※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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