パリ同時多発テロとパンドラの箱を開けた日本人テロリスト
13日に発生したパリでの同時多発テロが、世界に衝撃を与えていますね。
事件の詳細については、各メディアが詳細に伝えていますが、こんな報道がありました。
パリでの事件を「kamikaze」と呼ぶ欧米メディアに対して、日本のネットユーザーが困惑しているというニュースです。日本が第二次大戦末期に行った自殺攻撃の中でも、神風特攻隊は「カミカゼ」として自殺攻撃の代名詞になっていますが、神風は「基本的に艦船や兵士を標的」とした一方、「自爆テロは一般人を含めて無差別攻撃」であるから、全く同じではないという記者のコメントも入っています。
神風特攻隊が軍事目標を標的にしていたのは事実です。このことを強調し、欧米メディアを正したい気持ちも理解できなくはありません。しかし、今回のテロ事件に関しては、そういう行動は控えた方がいいかもしれません。なぜなら、一般市民への無差別銃撃を最初にテロ手法として実行し、世界中のテロリストに広めるキッカケを作ったのは、他でもない日本人だったのですから。
一般市民を標的にしたテロのはじまり
1972年5月30日、テルアビブ・ロッド国際空港(現ベン・グリオン国際空港)において、日本の極左過激派集団のメンバー3名が自動小銃を乱射するテロ事件が起こしました(テルアビブ空港乱射事件)。「日本赤軍」の名前で犯行声明が出されたこのテロでは26名が死亡し、また実行犯3名のうち2名が死亡、1名が逮捕されています。
このテルアビブ空港乱射事件が衝撃的だったのは、それまでの政治的テロが要人、団体や施設といったテロリストの政治目的に関連した、限定された目標に対する攻撃だったのに対し、単にテルアビブ空港にいただけの市民を無差別に殺傷したことにあります。ハワイ大学のパトリシア・スタインホフ助教授(当時)は、実行犯唯一の生き残りである岡本公三に無差別に殺された市民について尋ねており、岡本はその問いにこう答えています。
このような「敵」と「罪無き傍観者」(市民)の間に区別が無いとする岡本らの思想と行動は、その後のテロリズムに大きな影響を与えます。銃や爆発物を使った市民に対する無差別テロが当然のように行われるようになり、それが自殺攻撃と結びつくことで、近年著しい被害をもたらしている自爆テロとなります。日本人テロリストが行ったテロが、世界のテロを変えてしまったのです。
テロリストと犠牲者に国籍は意味を持たない
テルアビブ空港乱射事件は、一般市民を無差別に狙ったテロという点も衝撃的でしたが、もう一点、世界に衝撃を与えたものがあります。それは、テロの実行犯であるテロリスト、そして犠牲者の国籍が、政治的目的となんの関係性も無いという、テロリズムの全世界化が行われたことです。
ここで改めて、テルアビブ空港乱射事件における国籍関係を整理してみましょう。アラブーイスラエル間のパレスチナ問題に対して、無関係の日本人テロリストがイスラエルの空港で乱射テロを起こしました。その結果、パレスチナ問題と無関係のプエルトリコ人が最も多く殺されました。これを見ても分かるように、加害者である側のテロリストも、犠牲者の側の一般市民も、テロの政治的要因と国籍にまるで関係が無いのです。
本来、地域的であったはずのテロリズムが、その対象を全世界にまで拡大し、世界中のどこにでもテロが起こりうるようになりました。国際テロ集団はこの一点のみで、国籍・思想・人種を問わず、全人類にとっての脅威であることが分かると思います。ですから、「テロとの戦い」の方法に異論はあれど、テロリストでない市民は必然的にテロリストと対峙する側につかざるを得ず、テロとは無関係でいられないのです。
パンドラの箱を開いた日本人
組織的かつ大規模な自殺攻撃に先鞭をつけたのが日本の神風特攻隊である事に疑いの余地はなく、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の際も「kamikaze」と呼ぶメディアは多くありました。自殺攻撃の代表例として、英語版Wikipedia(en:Suicide attack)でも神風特攻隊が筆頭に挙げられています。過去に誰かが思いついたかもしれないが実行しなかった事を、大々的に実行した衝撃は計り知れないものがありました。
まして、神風特攻隊などの組織的な自殺攻撃に加えて、市民への無差別攻撃というパンドラの箱を開いたのが日本人である事実は、現代世界で問題となっているテロ攻撃の大半がその組み合わせである事を踏まえると、「神風と全く同じではない」という抗議にはある種の虚しさすらあります。下手に神風の話を出して、「そうだね。でも、無差別攻撃はオカモトたちが始めたことだよね?」と返されるのは、あまりスマートではありません。
パスポートを焼いたIS、顔だけ破いた日本赤軍
パリでの同時多発テロを実行したとみられるISでは、新たに加わった外国人メンバーが自分のパスポートを焼き捨てる儀式が行われています。出身国を棄て、ISの戦士となったことを象徴づける儀式です。
パスポートを焼いて国を捨てたISに対し、テルアビブ空港乱射事件の日本人実行犯は、所持していた日本のパスポートの自分の顔写真だけを破り捨て、岡本以外の2名は自分の顔を破壊するように手榴弾で自殺したとされます。この意図についてスタインホフ助教授が岡本に尋ねると、顔を破壊する目的は個人性の破壊であり、「日本人としてのアイデンティティを破壊するつもりはなかった」と答えています。
地域的なテロリズムを、無差別かつ全世界に拡大した岡本たちが、日本人である事を棄てなかった事実は興味深いです。戦闘員に国籍・民族的アイデンティティを棄てさせるISが、個人的アイデンティティを棄て去っても日本人であり続けようとしたテロリストの手法を模倣しているというのは、同じテロリストとはいえ皮肉な現象と言えるかもしれません。