北海道支援で未使用の液体ミルク、東日本大震災でも使われず 2016年熊本や2018年岡山・愛媛で活用
2018年9月23日付の北海道新聞が、被災地支援の液体ミルク使われず 東京都が千本提供 道、各町に「利用控えて」と報じている。
2016年熊本地震で使われた液体ミルクが「国内で使用例がない」とされた
震度7の地震の後、北海道からの要請を受けて東京都が支援物資として送った液体ミルクが使われていなかったという。記事によれば、北海道が、各町に対し、国内で使われた事例がないとして使わないよう指示したとのこと。
このミルクは東京都が一方的に送ったものではなく、北海道の要請を受けて送ったものだ。
受け取った北海道は、「液体ミルクは国内で使用例がない」として使用を控えるよう、町に連絡した、と、北海道新聞が報じている。
2011年の東日本大震災、石巻では支援物資の液体ミルクが使われていなかった
2011年4月から、筆者は、主に宮城県石巻市へ支援物資を届ける活動を何度かしてきた。移動手段はトラック。東京都のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパンのトラックに乗せてもらって往復していた。その支援活動の中で会社を辞める決意をし、2011年7月29日に最終出社を終えた。
そのあと、すぐまたトラックに乗って行ったのが石巻だ。震災直後は石巻専修大学や石巻運動公園が支援物資の保管場所になっていたが、2011年8月には、市内の青果市場の跡地に移動していた。
この倉庫は大変広く、管理は大手宅配会社に任されていた。その倉庫の裏手に、使われずに置いてある液体ミルクがあった。
アメリカではよく使われているSimilac(シミラック)というブランドのもので、乳糖不耐症の乳児にも使うことができる、栄養価の高い液体ミルクだ。乳糖不耐症は、乳糖を分解する酵素の活性が低く、通常のミルクを飲むと腹痛や下痢を起こしてしまう。そのような症状を持つ人にも飲むことができる、乳糖不耐症用のミルクは、国内でも発売されている。
日本語の追記表示はなく、裏面の表示も英語のみだった。置いてあったのはこの1本だけ。おそらく現地の人は、容器の形状から「洗剤かな?」と思ったかもしれない。国をまたいでの支援は難しいと、当時は思った。
需要と供給のズレ
災害時には発生しがちだが、この倉庫でも、需要と供給のズレが起こっていた。たとえば、同じ企業からシャンプーとコンディショナー(リンス)が同じケース数届いたが、倉庫からはけて使われていくのはシャンプーだけで、コンディショナーのケースが大量に積まれていた。
ブルーシートもたくさん余っていた。
スコップなどの用具もたくさんあった。
韓国からも支援食料は届いていた。その中で、とても辛いカップラーメンは、被災地の人の口には合わなかったらしく、後日、「余っているが使わないか?」とフードバンクへ連絡があった。善意の寄付だが、100%役立てるのは、なかなか難しい。
中国か台湾からだろうか、うなぎ(の缶詰か何か)がたくさん積まれていた。
2016年の熊本だけでなく、2018年7月の西日本豪雨で、岡山県や愛媛県で液体ミルクは活用されている
北海道新聞の記事では、液体ミルクが支援物資として使われた事例として2016年の熊本県が挙げられていたが、支援物資として使われたのは熊本だけではない。2018年7月に発生した西日本豪雨では、7月に岡山県、8月に愛媛県に配布され、喜ばれている。
液体ミルクの国内製造・販売は2018年8月8日に解禁
乳児用液体ミルクは、2018年8月8日、国内での製造や販売が解禁となったばかり。
この動きに貢献した組織の一つが乳児用液体ミルクプロジェクト(一般社団法人 液体ミルク研究会)だ。実は東日本大震災では、液体ミルクが普及しているフィンランド在住の日本人女性らが計1万4000個の液体ミルクを被災地に送り、喜ばれた。それがきっかけで、2015年12月に横浜市の主婦らが呼びかけたことが「乳児用液体ミルク研究会」創設に至ったという。2014年から始めていたインターネット署名は、40,000人以上を集めた。
一般に普及している乳児用ミルクの多くは粉末なので、沸かしたお湯で溶かさなければならない。停電時やガス・水道が止まっている時には溶かすことができない。一方、液体ミルクであれば常温保存が可能だ。
液体ミルクには課題も
一方、液体ミルクは、メリットばかりではない。課題もある。賞味期限が短いこと、開封してから使い切らないと雑菌が繁殖することだ。
今回の北海道の対応をもとに我々が考えるべきこと
2018年9月24日付の北海道新聞は、道の災害対応に課題 知事登庁、地震発生3時間後という記事で、災害直後の対応に課題があったとしている。
2018年9月23日付のハフィントンポストは液体ミルク1050本、北海道地震の被災地で使われず。道庁の自粛要請を受けてと報じた。前述の乳児用液体ミルクプロジェクトが公式フェイスブックページで残念であると表明したことに触れている。
災害は、いつどこで起こるかわからない。液体ミルクは、今後の普及に向けてスタートラインについたばかりである。北海道の職員の方だけでなく、我々も、液体ミルクのメリット・デメリットについてきちんと理解しているとはいえない。消費者も、企業・行政らと共に学び、今後に備える必要がある。
追記:「東日本大震災時にフィンランド在住の日本人から寄付があった」という指摘を受け、文章中に追記しました(2018年9月24日14時57分)。