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「新生・ヤングなでしこ」が挑むアジアの壁。次世代の有望株が揃うチームの強みとは?

松原渓スポーツジャーナリスト
アジア予選に臨むU-19日本女子代表(筆者撮影)

【3連覇を懸けた戦いへ】

 2020年のU-20女子W杯に向けて、"新生ヤングなでしこ”がいよいよヴェールを脱ぐ。

 10月27日(日)に開幕するAFC U-19女子選手権に向けて、メンバー23名が、開催国のタイで調整を続けている。

 日本は28日(月)にグループステージ初戦(日本時間18時キックオフ)でミャンマーと対戦。31日(木)の第2戦(同21時)で韓国と、11月3日(日)の第3戦(同18時)で中国と対戦する。

 この大会は来年7月に開催されるFIFA U-20女子W杯(開催地未定)のアジア予選を兼ねており、上位3カ国に出場権が与えられる。

 この大会は2年に1度開催されており、日本は2009年から17年までの5大会のうち、4大会で優勝している。

 10月21日から23日まで直前合宿が千葉県東金市で行われた。選手たちは悪天候をものともせず、活気溢れる雰囲気の中で3日間の練習を締めくくった。池田太監督は、このチームの強みについてこう語っている。

「全員がひたむきに取り組む姿勢があります。選手たちの理解力が高いので、ミーティングで話したいろいろなことをピッチに出てすぐにトライしたり、実行する力があります。そういったストロングポイントをもっと引き出してあげたいと考えています」

 このチームには17歳から19歳までの選手が揃っている。最年長の19歳グループには、昨年のU-20女子W杯に飛び級でフル出場して世界一に貢献し、先日のカナダ戦でなでしこジャパンにも初招集されたDF高橋はな(浦和レッズレディース)や、前回大会経験者で、なでしこジャパンの代表選手が揃う日テレ・ベレーザの中盤でプレーする菅野奏音(かんの・おと)、2016年のU-17女子W杯(ヨルダン/準優勝)で正守護神だったGK田中桃子(大和シルフィード)など、年代別代表で世界大会を経験している選手が多い。また、昨年のU-17女子W杯(ベスト8)のメンバーが11名おり、現在1部リーグでプレーしている選手も12名(下部組織との二重登録4名を含む)いる。

【チームを支える大黒柱】

 チームをまとめる大黒柱の一人が、センターバックの高橋はなだ。前回大会の経験も含めて、プレーと精神面でもチームを支える。

「センターバックという(守備を支える)ポジションでもありますし、『自分が折れたらこのチームがダメになる』というぐらいの覚悟を持ってやりたいですね。前回大会は先輩方が先頭で引っ張っていってくれましたが、今回は自分が年齢的に一番上の代なので、上下関係を作らず、みんながいろんな意見を言い合っていけるチームにしていきたいです」(高橋)

 高橋は、今季1部で優勝争いを繰り広げている浦和で欠かせない戦力となっており、U-19の合宿にコンスタントに参加することはできなかった。そんな中で、「誰かが引っ張るというよりは、みんなで話し合いながら作っていくことを意識して、みんなでチームを作ってきました」と話すのは、GKの田中桃子だ。このチームの強みについては、「ハードワークや切り替えはどこの国にも負けないと思います」と、力強く語った。

 また、今回のメンバーでは中間の代に当たる18歳の瀧澤千聖(たきざわ・ちせ)は、上と下の代のつなぎ役になることを意識しているという。1部のAC長野パルセイロ・レディースで、高卒ルーキーとして右サイドハーフで活躍する瀧澤は、ピッチでも攻守のつなぎ役として存在感を発揮してくれそうだ。

「自分はサイドハーフでプレーすることが多いので、プレッシングからボールを奪って攻撃の起点になりたいですね。アシストしたり、最後のところで決めきるなど、得点に絡むプレーにこだわりたいと思います」(瀧澤)

 そして今回、このチームの背番号10を背負うのがボランチの菅野奏音だ。練習中のパス回しでは、狭いスペースでも、常に360度見えているようなプレーが印象的だった。非凡なサッカーセンスと高いスキルを兼ね備え、ゲームメイクからフィニッシュまで、日本の攻守を牽引する存在だろう。

「得点を取ることも含めて、チームで一番輝ける選手になりたいですね。代表の10番は誰もがつけられる番号ではないと思うので、責任感とかプレッシャーも楽しみに変えて頑張っていきたいと思います」(菅野)

【練習で培われた切り替えの速さと集中力】

 池田監督は2017年に中国で行われた前回大会のAFC U-19女子選手権で日本を優勝に導き、U-20女子W杯出場権も獲得。そして、昨年のU-20女子W杯フランス大会では日本を初の世界一に導いた。

 ヘッドコーチとしてサポートするのは、元なでしこジャパンでW杯3回、五輪1回の出場経験を持つ宮本ともみコーチだ。練習中は、池田監督と宮本コーチ、2人のよく通る声が練習を活気づける。

 

 池田監督が練習中に強調するのは攻守の切り替えと、常に集中を切らさないことだ。そのために、練習メニューや声のかけ方も徹底している。

 

 たとえば、シュート練習でサイドを起点としたクロスからフィニッシュまでの流れをトレーニングする場合、通常はシュートを打って終わりだが、池田監督の練習は、立て続けに違う場所からボールが配給され、2度、3度とシュートの場面を作り出す。2対2や3対3などの練習でも、守備側はワンプレーが終わったらすぐに攻撃側に回り、攻守がセットになっている。

 

「試合の中での切り替えを強調しています。プレーが終わった後に、また次のセカンドボールでプレーを続けたり、ボールに関わっていない選手も頭がオフにならないように習慣づけたいと思っています」(池田監督)

 紅白戦で各選手が常に細やかな動き直しを見せていたのは、そうした練習の積み重ねの成果だろう。

 ただし、「池田監督と宮本コーチの声が一番大きい」と選手たちが話すように、選手間の声かけは課題の一つ。

 阿吽の呼吸でコンビネーションが生まれている部分もあるが、優勝するために、大会を通じてチーム全体のコーチング力も高まっていくことが求められるだろう。

 対戦相手には、育成年代も含めて女子サッカーに力を入れている中国や、育成年代で度々日本の前に立ちはだかってきた北朝鮮がいる。

 ここ数年、日本は年代別のU-20W杯やU-17W杯でも優勝や準優勝といった好成績を残しており、それだけ世間の期待値も高くなるため、この世代は常にプレッシャーにさらされてきた。その中で、17年のAFC U-16女子選手権では3位、18年のU-17女子W杯でベスト8と、悔しい思いをしてきた選手が少なくない。

 だが、以前の世代と比べても遜色ないスキルを持った選手がいるし、世界大会の経験を積み重ねてきた選手もいる。このチームの強みである切り替えの早さや最後まで走り抜くひたむきな姿勢をしっかりと出し切ることができれば、優勝のチャンスは広がるはずだ。

 大会はテレビ朝日系列(CS)で日本戦全試合が生中継される。

池田監督・選手コメント

アジア予選に臨むU-19日本女子代表(筆者撮影)
アジア予選に臨むU-19日本女子代表(筆者撮影)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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