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昨季のニックス大躍進は一体どこへ──。ニューヨークを落胆させる停滞の要因とは?

杉浦大介スポーツライター
鍵を握るランドル(左)とシボドーHCはチームをどう建て直すのか(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

大躍進の後の停滞

 そろそろ中盤を迎えようとしている今季のNBAで、期待外れのチームを挙げるとすればニューヨーク・ニックスも含まれるに違いない。

 昨季は41勝31敗(勝率.569)でイースタン・カンファレンス4位。前年比で勝率を.251もアップさせた東の名門だったが、今季は14勝17敗とまたも停滞中だ。開幕から5勝1敗と好スタートを切ったものの、以降の25戦で16敗。 現在イースタンの12位であり、ポストシーズン進出が危ぶまれ始めている。

 「僕がもっと良いプレーをしなければいけないし、みんなが向上しなければいけない。責任は感じているよ。まずは鏡で自分たちの姿を見て、どんなシーズンにしたいかを考えなければいけない」

 エースのジュリアス・ランドルはそう反省していたが、実際にニューヨークの熱狂的なファンを落胆させているのは確かだろう。

 収穫の大きかった昨季の終了後、トム・シボドーHCは最優秀コーチ賞、ランドルはMIP(最も向上した選手)を受賞した。そのチームの主力メンバーの大半が残留し、オフには4年7800万ドルでエバン・フォーニエ、2年1800万ドルでケンバ・ウォーカーを獲得して課題とされたオフェンスのテコ入れにも励んだ。

 プレーメイキング能力に秀でたウォーカー、フォーニエ、3年目で成長が期待できるRJ・バレット、故障も癒えたミッチェル・ロビンソンらがランドルを効果的に援護できれば、ニックスはさらに躍進しても不思議はないように思えたのだった。ところがーーー。

NY出身で期待の大きかったウォーカーだったが、守備難もあって早々とローテーションから外され、11月下旬から12月中旬までベンチを温め続けた。
NY出身で期待の大きかったウォーカーだったが、守備難もあって早々とローテーションから外され、11月下旬から12月中旬までベンチを温め続けた。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

良い結果が出ない要因とは

 11月26日以降、ホームで5連敗、11月30日からの8戦中7敗を喫するなど、前述通り、序盤戦のニックスは予想外に低迷している。この理由として、まず第一にディフェンスの悪化を指摘せねばなるまい。

 守備指導に定評のあるシボドーHCのもとで、2020〜21シーズンのニックスはディフェンシブ・レイティングでリーグ4位という堅守を誇った。それが今季は現在23位と急降下。守備が不振に陥った要因を特定するのは難しいが、昨季は3-Dプレイヤーとして力を発揮したレジー・ブロックが移籍し、攻撃重視のフォーニエ、ウォーカーを加えたことが影響しているのは確かなのだろう。

 また、本来ならゴール周辺で守備の要になるはずだったロビンソン、ナーレンズ・ノエルのコンディションがベストではないという声も聞こえてくる。それに加え、イースタンの某チームのスカウトは、「今のニックスからは昨季に感じられた緊張感が伝わってこない」と指摘していた。

 「ディフェンスは僕たちの努力次第だ。シブス(シボドーHCの愛称)は守備指導には秀でているから、あとは、僕たちが切迫感を持ってディフェンスできるかどうか。それをやり遂げなければいけないんだ」

 バレットのそんな言葉は、今のニックスは昨季ほど意識統一がなされていないという事実を指し示す。ランドルは「僕たちは守備で勝たなければいけないチーム」と述べていたが、今季のニックスのディフェンスはそのレベルにないことはここまでの数字から明らかだ。

 守備悪化に加え、オフに2022~23シーズンから始まる4年1億1700万ドルの新契約を結んだばかりのランドルのパフォーマンスが昨季ほどではないこともチームに暗い影を落としている。

 昨季は平均22.3得点(FG 成功率46.7%、3Pは38.2%)、10.9リバウンド、5.8アシストという優れた数字を残した背番号30は、今季は19.6得点(FG42.1%、3P32.9%)、9.8リバウンド、5.2アシスト。2020~21シーズンは1度しかなかった一桁得点のゲームがすでに3度もある上に、ディフェンスの精度も下がっているのは明白だ。

 ランドルがコートにいる際のニックスのディフェンシブ・レイティングは113.2。不在時の99.5よりも極端に悪くなっている(オフェンシブ・レイティングはランドルの出場時が105.7、不在時は113.8)。エース役を果たすべき選手が精彩を欠けば、チームに勢いが出ないのも仕方あるまい。

昨季同様、まだ巻き返しは可能

 もちろんすべてが悪いわけではなく、22歳のイマニュエル・クイックリー、23歳のオビ・トッピンの成長といった好材料もある。実は昨季も常に順風満帆だったわけではなく、最初の26戦を終えた時点では11勝15敗と今季と似たような成績だった。今後にチーム全体がアイデンティティを取り戻せば、1年前と同じように上昇カーブを描いても不思議はない。

 ただ、今季は過去数年と比べてイースタンの層が厚くなっているだけに、これ以上の停滞は致命傷になりかねない。また、昨季は2月7日にデリック・ローズを比較的安価で獲得できたことがチームの起爆剤になったが、2年連続で同じような掘り出し物を見つけるのは容易ではあるまい。だとすれば、今後、現在の陣容でどれだけ早いうちにペースを上げていけるかが焦点になるのだろう。

昨季はローズの獲得がシーズンのターニングポイントになった
昨季はローズの獲得がシーズンのターニングポイントになった写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「パフォーマンスが向上しなければ、変化を考慮しなければいけない」

 12月4日、デンバー・ナゲッツ戦で敗れた後、シボドーHCはそう述べ、チーム内のテコ入れを厭わないことを明言していた。すでに11月中には11年目の大ベテラン、ウォーカーをローテーションから外すという荒療治も試みており、今後、チームにさらにどんな変化をもたらすかが注目される。

 約3週間続けてベンチに座った後、チーム内のクラスター発生がゆえにスタメンに戻り、12月18、21日は2戦連続で良いプレーをみせたウォーカーは再びローテーションに入るのか。あるいはクイックリーやローズを先発に組み込むという別の決断をするのか。フロントがどんな補強を目論むのかまで含め、最善のローテーションを模索するニックスの試みは続いていく。

 昨季、ニックス復活で活気付いたマディソンスクウェア・ガーデンの盛り上がりは素晴らしかっただけに、今季、再び消沈しかけていることに寂しさも感じる。その勢いを保つために、現在リーグの安全衛生プロトコルに入っているバレット、クイックリーらが戻ってきた後が勝負。終わりの見えないパンデミックの中でも、地元を歓喜させる再びの快進撃を多くのニューヨーカーは待っている。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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