韓国のワリエワ評は”大辛” 地上波中継は「実況解説スルー」 現役選手は「気分悪い」と言い切り…
本人がまだ15歳だという点。
しかしそのいっぽうで、彼女に対する”特例出場許可”により、他の選手のメダル獲得にまで”暫定”の言葉がついてまわる不満。
北京冬季五輪に出場中の”ワリエワ問題”について頭を悩ませる点だ。17日の日本での競技中継は、その点に触れないわけでもなく、また指摘しすぎることもなく、といった印象だった。いっぽうで樋口新葉、坂本花織ら日本選手には関連の質問が立て続けにぶつけられる一幕もあった、と伝えられた。
国が変われば見方も違うようで。
韓国のスタンスは一貫している。
”批判的”
各方面でかなり強い言葉が飛び出しているのだ。
かのレジェンド、キム・ヨナのSNS発信はよく知られたところだ。
(2022年2月15日 本人のインスタグラムにて)
規定に違反した選手は試合には出られない。この原則は例外がない。全ての選手の努力と夢は公平で貴重なものでなければ、と。
こればかりではないのだ。
韓国では他にも”かなり厳しめの姿勢”が続いている。
ワリエワと同じ北京のリンクに立ち、9位となった韓国女子フィギュアスケート代表のキム・イェリムは大会中に取材エリアで言い放った。
- KBS系のアカウント「Klab」より。2分51秒あたりから該当のインタビュー部分
「じつのところ、そんなに気分のいいものではありませんね。いずれにしたって、同じ選手としてそれはちょっと不公平なことなので。その件については別にいいこととは思っていません」
”いずれにしたって”という点がミソだ。
いずれにせよ、ドーピング結果で陽性の結果が出ている。本人が何歳であれ、以前に摂取したものであれ。
この事実が重要なのだと。”現実的”という点はある意味、韓国らしさでもあるか。東アジア哲学、比較文明論が専門の小倉紀蔵京都大学教授は著書でこんなことを言っている。
まあ19歳の現代女性に伝統的思想を重ねるのはほどほどにしておこう。
地上波3局は演技を「スルー」の後、手厳しい言葉を連発
いっぽうで17日の女子フリー演技を中継した韓国地上波3局はすべてがかなり厳しい姿勢に出た。
「ワリエワのフリー演技中の4分間、実況・中継ともに沈黙」
- 各局が演技を”スルー”後、厳しい言葉を口にした点を伝える「聯合ニュース」
スルー。無視。映像が流れるだけで何も語らなかったのだ。この時の様子を「イーデイリー」はこう記している。
「ワリエワがフリースケーティングの演技を繰り広げている間、解説者たちは沈黙で一貫した。演技の始まりから終わりまでただの一言も発せず、競技を見守ったKBSクァク・ミンジョン解説委員とナム・ヒョンジョンキャスターは演技が終わった後、今回の事態の責任に対する批判を続けた」
KBSのクァク・ミンジョン解説委員(元フィギュアスケート選手/2010年バンクーバー五輪代表)の言葉。
「誰が仕組んだにせよ、誰が間違いを犯したにせよ、責任は出場した選手が追うのが当然です。こんなに細くて幼い選手が4回転ジャンプをしているのを見ると、私自身がこの種目を続けていたことが無駄だったのかとすら思う」
ナム・ヒョンジョンキャスター。
「ワリエワの背後にいる人物たちも責任を追わなければなりません。ROCを除く全世界の全ての人々が、4分間の沈黙のなかに我々がオリンピックで守らなければならない精神が何なのか、再び考えたと思います」
SBSは演技終了後にワリエワが服用した薬物の評価について言及、叱咤を飛ばした。
そしてMBCは解説者が演技中に二言ほど発した程度だった。
「トリプルアクセル」
「四回転半サルコ」
ほんの説明程度。演技終了後、キム・ヘジン解説委員(2014年ソチ五輪代表)はこう語った。
「解説をしようと思いましたが、ドーピングで陽性反応が出た選手に対して何かを語るのは難しかったです。選手本人もこの大会に参加することでどういう問題が生じる、どんな失態を演じているのか最も分かっていると思います。そういったプレッシャーと罪悪感から抜けられないために、ミスが多く出たと思います」
犠牲を多く払った選手の”恨み”
17日の日本のテレビ局の中継をご覧になっていたら、違いは一目瞭然だろう。日本の中継ではワリエワについて、「現状のCAS=スポーツ仲裁裁判所側の判断を尊重」という慎重な姿勢が見て取れた。出場している以上は、競技内容を伝える姿勢があった。
しかし韓国はとてつもなく手厳しかったのだ。
近年の韓国社会で最も忌み嫌われるものは「公正」「公平」を犯すこと。「パワハラ」などの不平等には敏感な反応がある。強大な権力を誇った朴槿恵大統領の数多い不正に対する反発によるものだ。ワリエワへの特別処置はこれに”抵触するもの”と映ったか。過程や背景はどうであれ、現実的に陽性反応が出ている点を重要視して。
韓国側からの視点はどうだろう。厳しい姿勢の背景について「日刊(イルガン)スポーツ」元デスクのチェ・ミンギュ氏はこう説明する。
「社会の全体的にドーピングに対する厳しい考え方があるのは確かです。2018年に韓国プロ野球でシーズンMVPを獲得したキム・ジェファンは、無名の次代にドーピングで摘発されたことがありました。彼に投票したメディアの記者はかなり強い攻撃を受けました。この事件以降、韓国メディアはかなり厳しい姿勢を見せています」
「現役や引退した選手たちの強い発言の背景には『自分たちは韓国で厳しいエリート育成環境のなか、多くのことを我慢してトレーニングを積んできた』しかし『ドーピングを服用した選手がメダルを獲るようなことは我慢がならない』という考えがあるのでしょう」
韓国の各メディアは、16日の女子フィギュア競技のショートプログラム終了後「アメリカのNBCも中継時のワリエワの演技中に解説者が沈黙した」と報じている。世界にはこういった流れもある、というところか。