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北朝鮮にもゴルフ場がある?金剛山に世界アマゴルフ選手権を招致したい韓国…知られざる北のゴルフ事情

金明昱スポーツライター
平壌ゴルフ場のコース図(写真・JSツアーズ提供)

 韓国発のゴルフ関連ニュースで驚いた話題がある。

 今月26日にソウルで行われた大韓ゴルフ協会のイ・ジュンミョン新会長の就任式で「(北朝鮮の)金剛山(アナンティ)ゴルフ場に世界大会を招致する」と語ったのだ。

 まさかの発言に度肝を抜かれたが、新会長としての決意とインパクトを残すには十分の構想だと思う。

 イ会長が、招致したい大会というのは、国際ゴルフ連盟(IGF、会長はアニカ・ソレンスタム)が主管する「世界アマチュアチーム選手権」。

 来年のIGF総会で2025年大会の開催地選定が議論されるのだが、そこに向けて招致活動を始めるという。

「世界アマチュアゴルフチーム選手権」は1958年から2年に1度開催されているアマチュア最高峰の大会。2020年大会は10月にシンガポールで開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった。

 IGF公式サイトによると、次回は2022年にフランス・パリ、23年(2年に1回だが変則で開催)にはアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイでの開催が決まっている。

 ちなみに2018年大会で日本は、男子が15位、女子は歴代最高となる2位の成績を収めた。個人では現在プロゴルファーの金谷拓実と安田祐香が2位となった。

金剛山ゴルフ場で1度だけ韓国ツアー開催

 本題に入ろう。そもそも北朝鮮に国際大会を招致しようとしている「金剛山アナンティゴルフ場」とはどんな所なのか?

 江原道高城郡(カンウォンド・コソングン)の「金剛山観光特区」に韓国の民間企業が投資して作られたゴルフ場で、敷地面積は160万平方メートル。

 エマーソンパシフィック株式会社が、金剛山観光事業の権利を持つ現代牙山から開発権利を譲り受け、総合リゾート事業を進め、2004年11月に着工した。

 ゴルフコースは全長7547ヤードの18ホール(パー73)。“世界最長”と言われる1014ヤードの3番(パー7)が名物ホールだという。

 さらに、“金剛山”といえば朝鮮半島東海岸の中部にある標高1638メートルの朝鮮民族が誇る名勝。朝鮮半島六大名山の一つで、絶景を望みながらのプレーが最大の魅力である。

 そんな場所で、実は韓国の男子プロゴルフツアー(KPGA)が一度だけ開催されている。ゴルフ場の正式オープンを翌年に控えた2007年「金剛山アナンティNH農協オープン」が10月25日から4日間で行われた。

 そうして順調に2008年のオープンを控えていたところ、同年7月に韓国人女性が自由行動をして北朝鮮軍兵士に射殺される事件が起き、韓国企業による観光開発やそれまで続々と訪れていた韓国からの観光ツアーが中断された。

 つまり、08年以降、ゴルフ場は放置されたままなのである。

平壌ゴルフ場の受付(写真・JSツアーズ提供)
平壌ゴルフ場の受付(写真・JSツアーズ提供)

実際に招致の可能性はある?

 そんな状態のゴルフ場で国際大会を招致できるのか疑問だが、イ会長は「聯合ニュース」の取材に対してこう答えている。

「2017年に中国国籍の人員を送って(ゴルフ場の)管理をさせた。それから3年間は管理できていないが、ものすごく悪い状態ではない。5カ月ほど芝を植えて、そこから5カ月たてば新しい芝が生えてくる。施設工事も同時に始めれば、10カ月ですべて完結する」

 それに北朝鮮のゴルフ場に国際大会を招致する考えは、就任前からあったこともメディアに向けて語っている。

「国際大会を招致する構想は就任当初からあった。実現の可能性はとても高いと見ている。北側は元山(ウォンサン)に国際規模の飛行場を新設し、陽徳(ヤンドク)温泉リゾート施設を大々的に改修し、観光地振興の意思を示している。個人観光とともにスポーツイベントと交流は、国連の制裁対象ではないという点と、政府同士で交流するという点において、北側が負担なく受け入れられる方法と考える」

 実現に向けてかなり自信もあるようだった。こうした国際スポーツ大会を南北関係の改善の起爆剤としたいところだが、2019年10月に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、金剛山観光地区を視察し、韓国側が建設したホテルや食堂を撤去するように指示したという報道もあった。

 世界アマチュアチーム選手権の招致のハードルはかなり高いと見るが、今後の動向を見守りたい。

平壌ゴルフ場ではプレー中にキャディもつけられる(写真・JSツアーズ提供)
平壌ゴルフ場ではプレー中にキャディもつけられる(写真・JSツアーズ提供)

「平壌ゴルフ場」で韓国女子ツアー開催の過去

 最後に北朝鮮のゴルフ事情についてだ。

 実はもう一つ、北朝鮮にゴルフ場がある。「平壌ゴルフ場」がそれだ。

 1982年6月に着工し、1987年に故金日成主席75歳の誕生日(4月15日)を記念して完工され、平壌市内から27キロ離れた南浦(ナムポ)市の台城(テソン)湖周辺に位置している。

 湖のほとりで景観は抜群で、自然の中でのプレーはとても気持ちいいものだという。

ほとんど知られていないが、2011年からは世界各国からゴルファーを招待し、「国際アマチュアゴルフ大会」を開催。

 2005年8月には、韓国女子ツアーが「平和自動車KLPGA 平壌オープンゴルフ大会」を開催している。

 ここで韓国の女子プロ30人が2日間にかけてプレー。優勝したのは、日本ツアーでもプレーしたことがある宋ボベで、スコアは「67」「70」の通算7アンダー。試合後「韓国のゴルフ場よりもグリーンが遅く、とても難しかった」と語っている。

 そんな中、改修工事に着手し、2019年に新たにリニューアルオープン。約36万坪の敷地に全18ホール(パー72)、全長6900ヤードのコースを整備し、サウナや休憩所、レストラン、ビリヤード場などの施設も併設された。

 プレー代はハウスキャディとレンタルクラブ込みで100ユーロ(北朝鮮で外国人はドル、ユーロ、日本円、人民元など使用可)。最近はYouTubeを使ってゴルフ場の紹介もする力の入れようだ。

「38アンダーは都市伝説」

 以前、日本で北朝鮮観光ツアーを専門に取り扱う「JSツアーズ」に問い合わせたところ、「ほとんどが中国人観光客です。いまは新型コロナの影響で難しいですが、観光ツアーが盛況の時は、日本からの観光客が、『中国人が多すぎて、ちゃんとプレーできなかった』と言っていたほどです」という。

 さらに「今は平壌市内にもいくつかのゴルフ練習場ができています。クラブはほとんど中古ですが、少しずつ一般市民もゴルフを楽しめる環境ができてきたのは確かです」と話す。

 市民の間でも少しずつゴルフを楽しむ人たちが増えているのだという。

 最後に聞いたのが、平壌ゴルフ場で故金正日総書記が初ラウンドで「38アンダー」を出したという噂についてだ。

 実際にこのゴルフ場を訪れた「JSツアーズ」担当者は「その説は世界各国で報じられた有名な話ですが、都市伝説ですよ」と笑っていた。

 現在は新型コロナの影響で北朝鮮には入れない状況だが、日本からもツアーでの観光が可能。

 個人的にもいつか平壌ゴルフ場でプレーしたいと思っている。

グリーンのラインを読む平壌ゴルフ場のキャディ(写真・JSツアーズ提供)
グリーンのラインを読む平壌ゴルフ場のキャディ(写真・JSツアーズ提供)

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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