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フェルスタッペンが「鈴鹿みたいなコース」と語るザントフォールトはどんなサーキット?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
マックス・フェルスタッペン(写真:ロイター/アフロ)

F1史上に残る苦行をファンが強いられたスパ・フランコルシャンでのベルギーGPから連続で、F1世界選手権の第13戦がオランダのザントフォールトサーキットで開催される。

オランダといえば、やはり主役はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)だ。前戦のポールポジション獲得、セーフティカーランによる優勝でルイス・ハミルトン(メルセデス)に3点差と詰め寄った状態で母国GPを迎える。

改修後のザントフォールトを試走するフェルスタッペン
改修後のザントフォールトを試走するフェルスタッペン写真:ロイター/アフロ

36年ぶりのザントフォールトでの開催

オランダにF1が戻ってくるのは36年ぶりのことだ。前回開催されたのは1985年のことで、現在とはレイアウトが異なる1周4.2kmのコースで、ニキ・ラウダ(当時マクラーレンTAG)が優勝を飾っている。

改修前のザントフォールト
改修前のザントフォールト写真:ロイター/アフロ

1952年から開催されていたオランダGPの歴史が途絶えた原因はサーキットの財政難。当時のコースはストレート区間が多いハイスピードなコースでありながらランオフエリアが少ない危険なコースだったため、度重なる改修工事が財政を圧迫していったのだ。

F1の開催を失ったのち、ザントフォールトは破産。新オーナーが引き継いでからはF1を目指す若手の登竜門イベント「マールボロ・マスターズ」(通称マスターズF3)を開催して、ヨーロッパ各国のF3トップランカーたちを戦わせた。

マスターズF3では後にF1ドライバーとなるデビッド・クルサード(1991年)、佐藤琢磨(2001年)らが国際F3レースで優勝。マックス・フェルスタッペンの父、ヨス・フェルスタッペンも1993年に優勝を飾っている。

シューマッハ(右)のチームメイトになったヨス・フェルスタッペン(左)
シューマッハ(右)のチームメイトになったヨス・フェルスタッペン(左)写真:アフロ

各国のF3選手権が消滅し、ユーロF3が主流になってからもルイス・ハミルトン(2005年)、バルテリ・ボッタス(2009年、2010年)らが優勝。マックス・フェルスタッペンも2014年に優勝を飾っており、初の親子2代続けてのマスターズF3優勝を達成。フェルスタッペン親子にとっては母国であり、特別なサーキットなのだ。

18度のバンク角を持つザントフォールト

オランダGPがザントフォールトで復活した理由は、オランダ人で初めてF1優勝を果たしたマックス・フェルスタッペンの人気によるものだ。

F1開催を目指し、ザントフォールトサーキットはF1が定める安全基準を満たすように大幅にコースを改修。1999年から使われていたレイアウトとはほとんど変更がないものの、ターン3はなんと18度のバンク(傾斜)を持つコーナーへと変貌した。最終コーナーもバンクがついた高速コーナーになっている。

バンクのついた区間をコースウォークするアルファタウリのメンバー
バンクのついた区間をコースウォークするアルファタウリのメンバー写真:ロイター/アフロ

1985年でF1開催権を失いながら、F1を呼び戻すために大改修されたザントフォールト。昨年は残念ながら新型コロナウィルスの感染拡大で中止となったが、今年はフェルスタッペンが好調のなかで開催されることになった。まさにフェルスタッペンのためのグランプリだ。

「僕が望むことは週末を通じてみんなが良い時間を過ごし、マシンがコースを走るのを見ることだよ」とフェルスタッペンはF1公式サイトのインタビューに答える。

マックス・フェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン写真:ロイター/アフロ

また、バンクがついたターン3に関しては「みんながターン3に対して興味を持っている。最終コーナーはフラットに近い感じだけど、ターン3に関してはドライバーによって走行ラインのチョイスが変わってくることになるだろう」と語る。

鈴鹿とザントフォールトの共通点

改修されたばかりのコースだが、フェルスタッペンは「鈴鹿みたいなオールドスクールなコースだよ」と表現する。1周は4.2kmと短く、コースは非常にタイトでランオフエリアも決して多くはない部分は変わっていない。壁が近いという意味ではストリートコースに近い雰囲気があるのがザントフォールトの特徴だ。フェルスタッペンが鈴鹿のようだと語る理由は「一つのミステイクを犯した代償が大きいことだ」という。

鈴鹿サーキットでのフェルスタッペン
鈴鹿サーキットでのフェルスタッペン写真:ロイター/アフロ

オーバーテイクポイントはターン1とターン11になるが、ターン1が最も合理的な抜きどころとなるだろう。オーバーテイクにはリスクが伴い、仕掛けるにはそこに至るストーリー作りが必要という意味では鈴鹿に似ている部分がある。

鈴鹿に近いと感じるのはやはり元々のサーキットデザイナーが同じだからだ。鈴鹿サーキットはザントフォールトサーキットのジョン・フーゲンホルツが来日してアドバイスをし、元々の地形を活かして設計されたコースである。

コースウォークするフェルスタッペン
コースウォークするフェルスタッペン写真:ロイター/アフロ

今はフーゲンホルツの時代と違うレイアウトになっているし、安全基準も全く違うのだが、ホームストレートから今回の目玉コーナーのターン3に至るまでの区間は1948年の創業当時のコースと共通する形をしていて名残があり、確かに第1コーナーからS字に至るまでの雰囲気と似ているかもしれない。

ちなみにターン3の正式名称は「フーゲンホルツ」。残念ながら今年の鈴鹿F1日本グランプリは中止になってしまったが、フェルスタッペンが語る鈴鹿っぽさを感じながらオランダGPを楽しんではいかがだろうか。

(動画:フェルスタッペンによるザントフォールトのバーチャル走行/Red Bull公式YouTube)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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