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一流の経営者は、みんな一流の「ビジョンテラー」である

横山信弘経営コラムニスト
経営者はビジョンを熱く語ることができるか(写真:アフロ)

「ストーリーテラー」と「ビジョンテラー」

「ストーリーテラー」とは、興味深い話をする方、上手に物語を作り上げる作家のことを指します。「偉大なリーダーは、偉大なストーリーテラーである」と言われるように、優れた物語を語ることができる人は、多くの人を魅了し、リードする力がある、ということなのでしょう。

「ビジョンテラー」は私の造語で、巧みなビジョンを熱く語る人のことです。分解すると「ビジョン」と「テラー」。ビジョンの中身が素晴らしいこと。そして、そのテラー(話し手)の技術もまた熟達していること。この2つが「ビジョンテラー」の要件です。従業員やお客様を魅了し、優れたビジョンを実現させる経営者になるには、ビジョンの中身だけが優れていればいい、というわけではないでしょう。わかりやすい話し方、熱い語り口が不可欠です。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

そもそもビジョンとは何か?

それでは、そもそもビジョンとは何かを整理します。ビジョンとは、「将来のありたい姿」「未来の設計図」などのこと。経営理念を構成する要素(ミッション・ビジョン・バリュー)のひとつで、理念に沿った内容でなければなりません。ミッション(使命)、バリュー(行動規範)と混同しないよう、頭に入れておきましょう。

経営理念はもちろんのこと、構成要素であるミッションもバリューも、よほどのことがない限り変えない、不変のものです。しかしビジョンは、時代や環境の変化によって変わることがあります。先述したとおり「将来の――」「未来の――」と書きましたが、ここでいう「将来」「未来」は、3年とか5年のスパンの「将来」「未来」でかまいません。あまりに先の未来を指すと、経営理念と同じぐらい抽象度の高い内容になってしまうからです。

ビジョンから逆算して、個別の目標が算出されます。したがってビジョンがあまりに抽象的だと、個別の目標を設定することが困難になります。

「当社のビジョンは、最先端の医療技術で社会に貢献することです。そのために3つの具体的な目標を掲げます。1つめは、お客様に対して誠実に向き合うこと。2つめは、先進技術で新しい製品を開発し続けること。3つめは、優秀な人材を雇用し、育成すること。この3つの目標をしっかりと達成させていきます」

……と、このように政治家の演説のような内容ではダメです。ミッション(使命)やバリュー(行動規範)が混在しているため、中身がすべて不変的であり、目新しさがありません。不変の内容なら、誰でも考えられるし、独自性がなければ情熱が伝わりません。

何より具体性に欠けています。そのビジョンが達成したとき、どのような「将来」「未来」になるのか、聞いている人がイメージできないのです。これでは、聞く人を鼓舞し、意欲をかきたてることなどできません。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

どんなビジョンならいいのか?

聞く人に強いインパクトを与えるためには、あえて「葛藤」させるような内容を盛り込むことです。「総論賛成各論反対」という言葉があります。総論は誰でも賛成しますが、各論になると抵抗する人が出てくるもの。聞く人に違和感を覚えさせ、葛藤させることで、気持ちを煽るのです。少しばかり挑発的な言葉をブレンドしてもいいのです。たとえば、まだ設立して3年程度の中古車販売の社長が――

「わが社のビジョンは、中古車業界で5年以内に四国ナンバー1になることです! そのために私は3つの目標を掲げました。一つめは、3年以内に店舗を今の10倍にすること。二つめは、5年後までにリアルとバーチャルを融合させた販売網を確立させること。三つめは、2年以内に全顧客を管理するCRMを稼働させ、全店舗の商談の見える化、生産性アップを実現させること。この3つを絶対に達成させます」

このように言えば、従業員を「おお!」と思わせることができるかもしれません。

「まだまだ場当たり的に店舗展開しているだけのわが社が、四国でナンバー1なんてなれるのだろうか」「県内でも競合がたくさんあるのに、四国全体で一番になるだなんて」

はじめて聞く従業員は戸惑うことでしょう。しかし真のビジョンテラーは、まったく動じることなどありません。そのビジョンが実現した未来の姿しか見えていないからです。繰り返し、繰り返し、語ることで、従業員たちの「戸惑い」「違和感」が払しょくされていきます。人の思考プログラムを変えるためには「インパクト×回数」が必要です。インパクトのあることを、繰り返すことが大事なのです。

「最初は疑っていたけど、できるかもしれない。絶対に不可能かというと、そうでもない気がする」「どうせならナンバー1になってみたい。社長についていきたい」「できるかどうかわからないような、そんな夢のある会社のほうが、働いていて楽しい」

従業員の皆さんが、このように感じはじめたら、組織は勝手に動きはじめます。優れたビジョンテラーは、言葉だけで組織全体を変えていくのです。

ビジョンを作るうえでの注意点

このように本来ビジョンは内向きに作られるものであり、あまり対外的に公表するものではありません。大企業がマスコミ向けに発信するビジョンとは異なるものです。対外的に発表する中期ビジョンなどは、顧客目線で作られることが多く、抽象度が高い。とくに中小企業の経営者は、大企業が発表するようなビジョンを作ってはいけません。

中小企業が社外に出すのは経営理念であり、経営哲学、フィロソフィーです。不変のものを、ホームページや会社パンフレットに載せればいいでしょう。社外向け、社内向けに発信する内容を使い分けるべきです。

これからの時代、ますます従業員の「働きがい」「やりがい」が重視される時代になります。経営者が発信する言葉ひとつひとつが、以前と比べてよりいっそう重みを増すことに、自覚をもつことが重要です。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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