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風邪に罹ると新型コロナに罹りにくくなる?

忽那賢志感染症専門医
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

過去1年以内に風邪と診断された人は、新型コロナウイルス感染症に感染しにくいかもしれない、という臨床研究が発表されました。

風邪と新型コロナとの間にどのような関係があるのでしょうか?

新型コロナでは年齢が高くなるほど重症化しやすい

18-29歳を基準とした場合の、それぞれの年齢層の 入院リスクと死亡リスク(CDC資料より データはアメリカでの新形コロナ入院・死亡データに基づく)
18-29歳を基準とした場合の、それぞれの年齢層の 入院リスクと死亡リスク(CDC資料より データはアメリカでの新形コロナ入院・死亡データに基づく)

すでに広く知られているように、新型コロナは年齢が高くなるほど重症化しやすくなります。

アメリカCDCの資料によると、18歳から29歳を基準とした場合に、85歳以上では死亡リスクが630倍にもなり、さらに0歳から4歳は18歳から29歳に比べて死亡リスクが9倍低いとのことです。

つまり、85歳以上は、0歳から4歳に比べて5670倍もの死亡リスクとなります。

年齢別にみた 新型コロナウイルス感染症の致死率(2020年10月14日時点のデータに基づく)
年齢別にみた 新型コロナウイルス感染症の致死率(2020年10月14日時点のデータに基づく)

日本でも同様に、新型コロナ患者は60代以上から致死率が高くなり80歳以上では致死率は17.5%と非常に高くなっています。

では、なぜ高齢になるほど新型コロナに感染した際に重症化しやすくなるのでしょうか?

「高齢者は抵抗力が弱くなるから当たり前じゃん」と思われるかもしれませんが、他のウイルス性呼吸器感染症では必ずしも高齢者だけがハイリスクとは限りません。

小児、特に2歳未満は季節性インフルエンザで重症化するリスクが高いと言われています。

1918年のスペイン風邪の年齢別の致死率(Emerg Infect Dis. 2006 Jan; 12(1): 15-22.より)
1918年のスペイン風邪の年齢別の致死率(Emerg Infect Dis. 2006 Jan; 12(1): 15-22.より)

また、例えば約100年前に世界を襲った「スペインかぜ」は、高齢者だけでなく、小児、そして20代〜30代の若者で死亡者が多かったと言われています。

必ずしも高齢者だけがウイルス性呼吸器感染症のハイリスクとは限らず、高齢者だけがハイリスクであることは新型コロナの大きな特徴と言えます。

この原因として、風邪の病原体であるヒトコロナウイルスが関与している可能性が指摘されています。

ヒトコロナウイルスは風邪の原因ウイルスの10-30%を占めている

ヒトに感染するコロナウイルスの種類(筆者作成)
ヒトに感染するコロナウイルスの種類(筆者作成)

SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、そして新型コロナウイルス感染症といったコロナウイルスによる重症呼吸器感染症が知られるようになる前までは、コロナウイルスは風邪の病原微生物として知られていました。

これらの風邪の原因となるコロナウイルスは「ヒトコロナウイルス」と呼ばれ、4種類(229E, NL63, OC43, HKU1)のウイルスが知られています。

風邪の病原微生物はヒトコロナウイルス以外にも様々なウイルスが原因となりますが、風邪の全体の10〜30%をヒトコロナウイルスが占めるとされています。

年を取ると風邪をひきにくくなる

年齢別にみた1年間に風邪を引く回数(Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9.)
年齢別にみた1年間に風邪を引く回数(Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9.)

さて、大人になるとだんだん風邪をひきにくくなる気がしませんか?

その実感は間違っておらず、実際に年を経るごとに風邪をひく回数は減っていきます。

つまり子どもたちはしょっちゅう風邪を引いており(年5,6回)、その中にはヒトコロナウイルスによる風邪もおそらく含まれているのです。

ここで「ヒトコロナウイルスに感染していると、同じコロナウイルスである新型コロナウイルスに罹りにくくなるのではないか」という仮説が浮かび上がってくるわけです。

実際に、

という、風邪の原因であるヒトコロナウイルスの抗体と新型コロナウイルスの抗体との交差反応も研究も報告されています(いずれも査読前)。

風邪をひくと新型コロナに罹りにくいかもしれない

そんな中、風邪を引いた人は新型コロナに感染しにくいかもしれない、という研究が報告されました。

アメリカの健康保険の記録を解析したところ、過去1年間(新型コロナが流行していなかった2019年3月〜2020年2月)までの間に、風邪(急性副鼻腔炎、気管支炎、咽頭炎など)と診断された人は、そうでない人と比べて2020年3月から7月までの間に新型コロナと診断されるリスクが20%以上低かった、とのことです。

なお、18歳以下の若い世代ではこの影響は見られなかった、とのことですが、これは病院で診断されているかどうかにかかわらず若い世代は常にヒトコロナウイルスを含む風邪の病原体に暴露しているためではないか、と考察されています。

風邪の原因はヒトコロナウイルスだけではないので、風邪と診断された人たちの中にはヒトコロナウイルス以外のウイルスに感染した症例も多く含まれていると考えられますが、約10-30%はヒトコロナウイルスによるものであり、ヒトコロナウイルスによる風邪を引いた人で新型コロナに対する交差免疫を示したことから、新型コロナの感染リスクが下がったのではないか、という結論になっています。

非常に興味深い結果であり、本研究はもしかすると新型コロナでは高齢者が重症化しやすく小児ではほとんどが軽症であることの説明になりえるのかもしれませんが、だからといって「ヒトコロナウイルスに感染すれば新型コロナに罹らなくなるじゃん」と安易に考えるのは危険です。

なぜなら風邪もインフルエンザも新型コロナも症状はよく似ていますので、風邪に罹ろうとして症状のある人に接触して、新型コロナに罹ってしまった、ということにもなりかねません。

また風邪に感染したとしても、それがヒトコロナウイルスによるものかどうかは特殊な研究以外では証明しようがありません。そもそもまだ「風邪に感染したら新型コロナに罹りにくくなる」とこの研究だけで結論づけるのは早いでしょう。

大事なのは新型コロナに感染しないことであり、「手洗い」「咳エチケット」「屋内でのマスク着用」「3密を避ける」といった感染対策を引き続き徹底しましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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