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現役引退から復帰。セッター兼任。Vリーグ女子トヨタ車体、2人のリベロに注目!

田中夕子スポーツライター、フリーライター
苦しい戦いが続く中1月29日に2勝目を挙げたトヨタ車体(写真/V.LEAGUE)

攻撃陣以上に目を引いた2人のリベロ

 何度かノートを見返した。

 あれ、リベロ?

 いや、現役?

 1月29、30日、東京・大田区総合体育館で開催されたバレーボールのV1女子、NECレッドロケッツ対トヨタ車体クインシーズの2連戦でのことだ。

 中盤から終盤に差し掛かろうとする中、新型コロナウイルス、オミクロン株の猛威はバレーボール界にも大きな影響を及ぼし、特にV1女子は複数の試合が中止や延期を余儀なくされている。この節、ホームゲームであるNECも例外ではなく、チーム内で複数の陽性者が出たため、試合をするのは昨年末の皇后杯以来、実に1か月ぶりだった。

 試合から遠ざかった影響は少なくなく、29日の初戦では足が動かず、本来のパフォーマンスとは程遠いNECの選手たちに対し、攻守に渡り躍動したのがトヨタ車体の選手たちだった。

 アメリカ代表のアウトサイドヒッター、ケルシー・ロビンソンを筆頭に、ルーキーの大川愛海の攻撃が次々決まり、序盤からNECを圧倒。

 だが、活躍の目立つ攻撃陣よりも目を引いたのはリベロの2人。何度もノートを見返したのには理由があった。

一度は現役引退も、リベロで復帰した村永

 サーブレシーブ時にコートへ入るのは村永奈央。自チームのサーブから始まるローテーションで主にディグ(スパイクレシーブ)を担うのが山形理沙子。山形は本来セッターの選手で、もともとアウトサイドヒッターの村永にいたっては昨シーズン限りで現役を引退し、昨年まではチームスタッフとして裏方で支える立場にあった。

 その2人がリベロとしてコートに立つ。もともとリベロを本職とする選手のケガもあり試合に出られないチーム事情も含め、印東玄弥監督が決断の理由を明かした。

「山形は非常に性格も明るく、真面目でひたむきな選手。久光にいた(現在コーチの)座安(琴希)さんも高校時代はセッターをしていた選手ですが、その後リベロとしてオリンピックに出場したという実例もあり、面白いのではないか、と。セッターをしていたのでレシーブをするうえでも理解があり、できると信頼して彼女にはディグリベロとして(コートに)立ってもらっていますが、セッターの練習もしていますので、コンバートではなくディグリベロという位置付けです。村永は(現役)最後の試合も実はリベロでした。軟骨移植の手術を2回したこともあり、スパイカーとしては厳しくなってはいたけれどサーブレシーブ、ディフェンス面では安定した力がありましたし、引退を申し出てきた時も私は引き留めていました。まだ20代、もっとできるだろうと思っていた中、チーム事情もくみとり、チームのために何かできることはないか、自ら伝えてくれたのは嬉しかったですし、日本で一番大きいリベロとして頑張ってくれています」

昨年の現役引退まではアウトサイドヒッターとして活躍した村永。チームのために、と復帰を決意した(写真は2018年の天皇杯)
昨年の現役引退まではアウトサイドヒッターとして活躍した村永。チームのために、と復帰を決意した(写真は2018年の天皇杯)写真:アフロスポーツ

「山形はコミュニケーションの鬼」

 決して派手ではないが堅実。アウトサイドヒッターとして活躍した頃も、劣勢になるとよくコートへ送り出された村永が、傾きかけた流れを引き寄せる場面は何度もあった。

 リベロとなった今もそれは健在で、緩急をつけたサーブに対する反応や、ラリーが続いた場面でのディグ。データに基づき、守るべき場所で着実に守るスタイルは変わらず、NECに勝利し、今季2勝目を挙げた後も「苦しい状況が続く中、自分ももう一度中に入って一緒に頑張りたい気持ちが強くなった。受け入れてもらえるか不安だったけれど、受け入れてくれた仲間、改めてバレーができることに感謝して、結果を出そうと思ってやっています」と少ない言葉の中にも、再び戻ってきた意志の強さが垣間見えた。

 一方ディグリベロとして入る山形も、繰り返されるラリーの中で何度も相手の強打を拾い、ブロックに当たったボールや、味方が弾いたボールを懸命につなぐ。献身的なプレーはもちろんだが、点を取っても取られても、笑顔で仲間に声をかける。その姿を見て、開幕前に取材へ訪れた時のことを思い出した。

 取材と撮影が始まるまでの準備時間、手持ち無沙汰に、でもどう声をかけていいのかわからない、と取材者を探りながら一定の距離を保つ選手が多い中、スッと近寄ってきたのが山形だった。

「今季のユニフォーム、結構いい感じですよね」

 たまたまOGがその場にいたこともあるが、ごく自然に距離を縮め、しかも全く嫌味がない。ニコニコしながらここがこうで、これはこう、とユニフォームについて語り、取材が始まればまた的確な答えを返しながらも、隣にいる選手へ絶妙なタイミングで相槌を打つ。チームメイトが「コミュニケーションの鬼」と揶揄する通り、山形のコミュニケーション力は群を抜いていた。

総力戦で挑む後半戦へ向けて

 印東監督から評価されてきたディフェンス力の高さだけでなく、絶妙なタイミングで周囲に声をかけ、特にセッターの山上有紀と密にコミュニケーションを取りながら、鼓舞するのではなく周囲を落ち着かせる。

 新たなポジションでコートに立つ山形の存在にチームも自分も助けられている、と語るのは今季から主将を務める藪田美穂子だ。

「たくさんの人とコミュニケーションを取って、その場であった発言をしてくれる。プレーでも絶対にボールを落とさない、強い気持ちを前面に出してくれるので、とても心強いです」

 昨夏の東京で四度目の五輪出場を果たし、昨年引退を表明した荒木絵里香が抜け、チームの顔となるような選手はいないかもしれない。2勝18敗で12チーム中12位、直面するのは厳しい結果でもある。

 だが、まさに総力戦とも言うべきリーグをいかに戦うのか。またあっと驚くような姿、起用があるのではないか。そんな期待も抱かせる。

 次戦は19日。三度目の対戦となるNECレッドロケッツの再戦に注目だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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