大学名誉教授「恵方巻き廃棄試算は10億2800万円」おそらく経済的損失はこれを上回るであろう理由とは
2019年2月1日に放映されたNHK「おはよう日本」で、経済効果に詳しい関西大学の宮本勝浩名誉教授が、節分を過ぎて廃棄される恵方巻きの金額が全国で10億2800万円に上ると試算したと紹介していた。
これまで、いったいいくら捨てられているのか、見当もつかなかった恵方巻きの廃棄金額を、具体的な数字として試算されたのは、一般の人にとって、とてもわかりやすい。みんな、なんとなくは知っていたものの、こうして数字で出されると、改めて、恵方巻き廃棄の経済的損失が甚大であることが伝わってくる。
宮本勝浩名誉教授は「廃棄するには、さらにコストがかかるので、経済的な損失はこれ以上になると思う」と話しているそうだ。
筆者は、今回の試算金額をはるかに上回る金額の恵方巻きが毎年廃棄されているであろうと、これまでの取材から考えている。
その理由は、売り場に出る前の、恵方巻きとして「完成形」でない、バラバラの状態で製造工場から捨てられるものが、食品リサイクル工場には大量に運ばれて来ているからだ。
売り場に出る前、製造工場から海苔・米飯・具材の状態で出され、大量に捨てられている
今回の試算は「節分過ぎてからの売れ残り」と特定されているので、完成された形の恵方巻きで、かつ、店頭に並んでいるもののみが試算の対象になったと思う。
だが、2月3日どころか、1月から、食品リサイクル工場に運ばれてくる米飯など、恵方巻きの食材が増えている。
株式会社日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長によれば、すでに2月3日より前の段階で、通常稼働時の2倍量の米飯が運ばれてくるそうだ。それは、2018年も2019年も、変わりはない。
今回の試算は、スーパーやコンビニへの聞き取り調査を基に、廃棄率4%と仮定して試算されたという。だが、恵方巻きの廃棄は、恵方巻きそのものの形でスーパーやコンビニの店頭で捨てられるだけではないのだ。出荷して店頭に並ぶ前の製造工場でもロスは発生している。製造工場では、具や米飯の状態で出荷に向けて待機しておき、結局、それが出荷されずに捨てられるものは多い。それは恵方巻きに限らず、おにぎりや弁当なども同じことだ。
リサイクル工場には、この時期、米飯が、普段の2倍量運びこまれる。
だが、全国の恵方巻きがロスになったうち、こうしてリサイクル工場に運ばれてくるのは、ほんの一部だ。残りの大部分は、税金をかけて、ごみとして焼却処分される。
みんな「完成形」だけが捨てられるものだと誤解している
Twitterでは「専門家のくせに恵方巻きのデータ持ってないのか」とか「クリスマスケーキのデータを把握してから発信しろ」と絡んで来られる。だが、皆、恵方巻きやクリスマスケーキの完成形のみが捨てられていると誤解しているようだ。
実際、リサイクル工場には、米飯やクリスマスケーキの台など、バラバラの状態で製造工場から来るものも非常に多いのだ。一口に米飯といっても、それが恵方巻きのものなのか、おにぎり用なのか、弁当用なのかまではわからない。ごみとして処分されるとなれば、なおさら、一緒くたになり、わからない。
2019年2月1日にも、日本フードエコロジーセンターには、米飯やイクラが運び込まれていた。だが、これは、恵方巻き用のイクラなのか、おにぎり用なのか、まではわからない。米飯も同様だ。
見栄え良くチラシ撮影したあとの恵方巻きも処分
販促(販売促進)のためのチラシ撮影用に、見栄え良くするために、何度も何度も作られたものも、撮影が終われば捨てられる。農林水産省が「需要に見合う数を」と通知を出した2019年も、2018年と変わらず、様々な種類の恵方巻きが各社から売り出されている。2018年とは違う種類の恵方巻きを美しく作り、販促用の予約販売チラシに仕上げるのはいつか?当然、2月3日の前だ。
恵方巻きの売価そのものだけでなく、宮本名誉教授が発言している通り、廃棄コストも試算の10億円に上乗せされる。
そして、何より強調したいのは、恵方巻きの廃棄は、あーもったいない、とつぶやくだけの「他人事では済まない」ということ。恵方巻きの値段に廃棄のためのコストは間接的に含まれている。年間およそ2兆円に及ぶごみ処理費のうち、40%近くは食品が占めると試算される(日本フードエコロジーセンター高橋巧一社長談)。我々が納めている税金で、食べ物のごみの処理が賄われているのだ。
製造工場が「適量」製造できないのは欠品すれば小売(コンビニ・スーパー)から取引停止になるから
一般の人の意見では、「作り過ぎ」「こんなに作らなければいいのに」というものを目にする。だが、それはメーカーだけの責任ではない。
メーカーが欠品を起こすと、小売(コンビニやスーパーなど)から取引停止処分になるリスクがある。欠品しなければ売れたであろう売り上げを失わせたとして、補償金を求められることもある。取引を続けるためには欠品は決して許されず、そのためには、いつでも出荷できるように待機しておかねばならない。そのような社会構造や、バイイングパワーのある小売が、メーカーと対等ではなく、優越的地位にあるヒエラルキー(上下関係)が問題なのだ。
欠品を許容する小売は、全国的に見れば、まだまだ、ほんの一部だ。小売は小売で、消費者から「ない」と苦情を言われることを恐れている。とはいえ、売れるものなら売れるだけ売り、決して売り逃したくない、売り上げを失いたくない、というのも本音だと思う。
私たち消費者ができることは、「売り切れていてもいいと考える(店舗に苦情を言わない)こと」。
そして、閉店間際や、2月3日の夕方から夜にかけて、恵方巻きを売り切って(売れ残ったものを棚から撤去するのではなく)棚が空っぽになっている小売こそ、評価し、応援することだと思う。だって、その方が、消費者としても、家計の食費が安くなるはずだから。
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