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【乳幼児のアトピー性皮膚炎】デュピルマブの長期安全性と有効性 - 最新の治験結果から

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【乳幼児のアトピー性皮膚炎に対するデュピルマブの有効性】

アトピー性皮膚炎は、乳幼児期に発症することの多い慢性の炎症性皮膚疾患です。かゆみを伴う湿疹が特徴的で、重症例では睡眠障害や家族のQOL(生活の質)の低下を招きます。標準治療のステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などでコントロール不良の場合、全身性の免疫抑制剤の使用を考慮しますが、長期の安全性に懸念があるのが現状です。

そんな中、デュピルマブが6ヶ月以上の乳幼児に対して使用可能となりました。デュピルマブは、IL-4とIL-13という2つのサイトカインの働きを阻害する生物学的製剤です。今回の第III相オープンラベル継続試験では、親試験からの移行例142例を対象に、体重に応じたデュピルマブを4週間ごとに52週間投与し、有効性と安全性を評価しました。

その結果、52週時点で58例が評価を完了し、治験担当医師による全般改善度評価で36.2%が「clear」または「almost clear」を達成しました。また、96.6%がEASI(Eczema Area and Severity Index)で50%以上、79.3%が75%以上、58.6%が90%以上の改善を示しました。4歳以上ではCDLQI(Children's Dermatology Life Quality Index)で90%が、4歳未満ではIDQoL(Infants' Dermatitis Quality of Life Index)で100%が、6ポイント以上の改善を認めました。これらの結果から、デュピルマブは乳幼児のアトピー性皮膚炎に対しても優れた有効性を示すことが明らかとなりました。

【デュピルマブの安全性プロファイル】

気になる副作用ですが、78.2%に何らかの有害事象が認められたものの、その多くは軽度から中等度かつ一過性でした。重篤な有害事象は8例(5.6%)報告され、治験薬との関連が疑われたのは腸管寄生虫症の1例のみでした。結膜炎は18例(12.7%)に認められましたが、全て軽度から中等度で治験薬の中止には至りませんでした。皮膚感染症(単純ヘルペス感染症を除く)は24例(16.9%)に認められましたが、重症例や重篤例はありませんでした。注射部位反応は3例(2.1%)のみで、全例軽度から中等度でした。

これらの安全性プロファイルは、成人、青年、6~11歳児を対象とした既報の長期継続試験の結果と同様でした。2歳未満の乳児のサブグループ解析でも、安全性に大きな懸念は示唆されませんでした。アトピー性皮膚炎に対する既存の全身性治療と比較すると、デュピルマブの安全性の高さが際立ちます。

【デュピルマブが乳幼児のアトピー性皮膚炎治療の選択肢に】

アトピー性皮膚炎は、乳幼児期に発症すると青年期、成人期まで持ち越されるリスクが高く、アレルギー性鼻炎や喘息など他のアレルギー疾患の合併率も高くなります。早期からの適切なコントロールが長期予後の改善につながると期待されます。

今回の試験結果は、全身性ステロイドや非ステロイド性免疫抑制剤が使用しづらい乳幼児のアトピー性皮膚炎患者さんに新たな選択肢を提供するものです。1年間の長期投与でも忍容性が高く、皮膚炎の重症度と皮膚症状を改善し、痒みの軽減と生活の質の向上に寄与することが示されました。

ただし、本試験は非盲検非ランダム化試験であり、併用する外用療法が規定されていないなど限界があります。また、52週の評価を完了した症例は60例と少なく、より長期の安全性と有効性については今後のデータの集積を要します。2歳未満への使用経験も限られており、感染症リスクや免疫系の発達への影響については注意深い経過観察が求められます。

とは言え、乳幼児のアトピー性皮膚炎の治療は、デュピルマブの登場によって大きく前進したと言えるでしょう。ステロイド外用薬やプロアクティブ療法をベースに、症例に応じてデュピルマブの使用を考慮することで、多くの患者さんの長期予後が改善されることを期待したいと思います。

参考文献:

Paller AS, et al. Dupilumab Safety and Efficacy up to 1 Year in Children Aged 6 Months to 5 Years with Atopic Dermatitis: Results from a Phase 3 Open-Label Extension Study. Am J Clin Dermatol. 2024 Jun 9. doi: 10.1007/s40257-024-00859-y.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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