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アメリカ移籍が決定した永里優季の描くビジョン「熟女フットボーラー目指します」

森田泰史スポーツライター
ドイツでの経験を糧にアメリカに向かった永里(写真:アフロ)

永里優季が、新たなチャレンジに向かう。5月24日にフランクフルトからシカゴ・レッドスターズへの移籍が発表された。

アメリカに新天地を求めた永里だが、意外にも彼女にとっては初めての米国挑戦だ。ドイツ、イングランドで8年間プレーした彼女が、どうしてアメリカ移籍を決めたのか。その理由を本人に聞いた。

「なぜ自分は海外でサッカーをしているのか、と考えたんです。海外に来る前に描いていたものは、全部成し遂げられている。それでも、自分はなぜ海外にいるのか、と。自分の意思ではない部分が働いているところもあるのですが、今、自分がサッカーを辞めて日本に帰ったら、子供に夢を与えられないと思うんです。自分のキャリアを日本で終えるつもりは、今のところないです。日本でやるとしたら、立場がどうであれJリーグのチームに関わりたい。その夢はまだ捨てていないんです」

■海外でプレーする意味

やたらと海外への拘りを見せる永里が、気になった。海外でのプレーを選び続ける背景には、日本の女子サッカー界への強い思いがある。

「私が描いているビジョンは、女子サッカーそのものの環境を改善することです。もうこれ以上先延ばしにしたら、取り返しのつかないことになるのではないかと。だったら、現役中に、影響力があるうちに変えないといけない、と思ったんです」

女子サッカー界で、依然として世界のトップに君臨するアメリカ。そのアメリカでは、女子選手を取り巻く環境も異なると永里は語る。

「アメリカで、女子サッカーのビジネスがどう回っているのかを知りたい。アメリカって、女子サッカー選手の給与に上限がある。だけど、それとは別に代表から給与をもらえるんです」

永里がアメリカ行きを決断した理由は、ほかにもある。それはセカンドキャリアに関係している。

「セカンドキャリアの部分でも、やりたいことが少しずつ出てきました。今、現役引退したばかりの選手、もうすぐ引退という選手たちに連絡を取っているんですが、なかには『やりたいことが分からない』という選手もいます。結局、現役中にサッカー以外のビジネスに触れる機会がないのではないかな、と」

日本では、現役選手がセカンドキャリアのことを見据えることに、まだまだ抵抗があるように思える。だが彼女はアスリートとして円熟期を迎える時期に、ピッチ内で結果を残しながら、未来を見据えた挑戦をする決意を固めたようだ。

「日本のリーグ自体も完全にプロ化しなければいけないと思います。それに、育成環境も整備しなくてはなりせん。まずはその第一歩としてスポーツ・サッカーアカデミーを設立したいと考えています。それに向けて、今動いてる最中です。早ければ来年の4月、遅くても2年以内には実現させたいと思います

小学生向けは運動塾みたいなものをイメージしています。子供の可能性を潰さずに引き出すためにも、サッカーに特化したトレーニングは中学生からで良いと考えています。そこから、ジュニアユースを作って、ユースを作って、トップを作って、地域に愛されるクラブにしたい。各分野の専門家たちのの協力を得ながら、子どもたちにとってこれから本当に必要な環境を作りたいと考えています。結局人とお金が集まるのは、大きなビジョンがあるところ。そこに情熱を持った人たちが集まる」

■プロを目指し続けた永里

永里が幼い頃は、今ほど日本の女子サッカーは盛んではなかった。2011年のワールドカップ優勝で世間を賑わせた“なでしこフィーバー”など、想像もできなかった時期だ。オリンピックでのメダル獲得も夢のまた夢だった。

それでも、永里は希望を抱いてサッカーを続けることができた。なぜかと言えば、アメリカで澤穂希が活躍していたからだ。

「自分が中学に上がった頃、澤さんがアメリカでやっていた。それがあったから、自分も目指せた。中学の進路調査票で『アメリカでプロサッカー選手になる』と書きましたから。

それが中学一年の時でした。それぐらい、大きな目標っていうのは...達成するまでに10年くらいかかる。ドイツに行って、(海外でプロサッカー選手になれたのは)ちょうど10年でしたね。それぐらいの時期に、自分のなりたい職業を描けたら、絶対になれると思うんです。だからそのために、職業としてもきちんと成立させる責任が私たちにもあると思っていて」

だが物事はずっと順風満帆に進むわけではない。時には壁にぶつかったり、障害が現れることもある。今回、アメリカ行きを決めた永里に訪れたのは、ひざの負傷という試練だった。

一時はメディカルチェックをパスできず、日本帰国を余儀なくされる。専門医と意見を交わしながら、ベストの選択肢を模索する日々。移籍がダメになるかもしれない、そんな不安が過ることもあった。

最終的にはシカゴ側との協議がうまくいき、永里は負傷を回復させたうえでチームに合流することで落ち着いた。そして現在、永里は前だけを向いている。

「年齢もそうだし、経験値もシカゴでは最年長。体や怪我のことを考えても、無理無駄ムラのないプレーでチームに貢献できるように頑張りたいです。20代の頃とは心も身体も違いますからね。今はのんびり焦らずリハビリ中です」

16歳で代表デビューを飾った永里も、今月15日に30歳を迎える。

「とにかく今の環境を楽しみたい。最近、心の底から楽しむことができていない自分がいることに気づきました。深く考えてしまう癖はありますが(笑)、今よりも楽観的に生きてみようと思います。これからは熟女フットボーラー目指します(笑)」

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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