藤井聡太竜王が名人挑戦、若手の躍進が目立った一年 ー第81期順位戦を振り返るー
14日(火)の順位戦C級2組一斉対局をもって、第81期順位戦の全日程が終了した。
A級では、藤井聡太竜王(20)が広瀬章人八段(36)とのプレーオフを制して名人挑戦を決めた。
全体的に若手の活躍が目立ち、藤井竜王のライバル候補たちがクラスを上げた一年だった。
最終戦ではドラマも起こり、ファンを寝かさない日が続いた。順位戦全体を振り返る。
若手の活躍
A級では藤井竜王が初参加で7勝2敗の好成績をあげて、前述の通りプレーオフの末に挑戦権を獲得した。
渡辺明名人(38)との名人戦七番勝負は4月5・6日に開幕する。
藤井竜王は谷川浩司十七世名人(60)の持つ最年少名人記録を更新できるラストチャンスであり、最年少七冠なるか、という点でも注目を集めるシリーズとなる。
第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負で苦杯をなめた渡辺名人の巻き返しもあるだろう。
ではここで各クラスの昇級者をご覧いただこう。
名人挑戦の藤井竜王を入れると12名中8名が20代で、残り4名のうち2名も30歳と、若手の活躍が顕著な一年だった。
昨年は10代と20代を合わせても昇級者が4人だったので、大きな変化といえる。
下は昨年の同時期に書いた記事だ。
斎藤慎太郎八段が名人挑戦。藤井聡太竜王はA級へ。最終戦のドラマも ―第80期順位戦を振り返る―
これは藤井竜王の活躍に若手が引っ張られた結果か。
昇級者の表では、ポテンシャルを認められながらなかなか昇級に手が届かなかった、佐々木(勇)八段、増田(康)七段、青嶋六段の名前に目をひかれる。藤井竜王を追う存在として、今後注目度がより高まるだろう。
連続昇級は3名。ここでは2名を取り上げる。
中村(太)八段はタイトル獲得経験もありながら、B級2組で昇級できずに苦しんでいた。
しかし前期の昇級で勢いがついたか、初参加のB級1組でスタートダッシュを決めると、最終戦では羽生善治九段(52)に敗れたが、競争相手も敗れる幸運もあって悲願のA級入りを果たした。
大橋七段は3期連続昇級となった。最終戦で谷川十七世名人に敗れて記録がストップしたが、順位戦18連勝は見事の一言だ。
藤井竜王に勝ち越している棋士として話題を集めていたが、ついにクラスが実力に追いついてきた印象だ。
最終戦のドラマ
今期はC級1組で最後に波乱が起きた。
全勝できていた伊藤(匠)五段(20)の最終戦の相手は阪口悟六段(44)。阪口六段はここまで2勝と不調で、伊藤(匠)五段が有利とみられていた。
しかし阪口六段が得意のゴキゲン中飛車で会心のさばきをみせて伊藤(匠)五段を圧倒。最後も見事な詰みに討ち取った。
藤井竜王と同学年で将来のライバル候補筆頭といえる伊藤(匠)五段はこの1敗で昇級を逃す結果となった。
一つ前の対局でも不利に陥りながら逆転で勝利をあげていたが、プレッシャーも要因としてありそうだ。
なお勝った阪口六段は3勝目をあげて、首の皮一枚で降級点を免れた。まさに天国と地獄、1つの星の重みを感じる順位戦ならではの一戦だった。
伊藤(匠)五段が敗れたことで渡辺(和)六段に最後の昇級枠が転がりこんだ。
渡辺(和)六段はこれで2期連続昇級。順位戦参加3期目で2回の昇級は見事である。プロ入りが遅かった渡辺(和)六段だが、同学年の佐々木(勇)八段や千田翔太七段(28)にだいぶ追いついてきた。
最終戦の前に2名の昇級者が決まっていたC級2組では、最終戦に自力だった古賀五段が勝って昇級を決めた。
フリークラスからの編入組では初のC級1組昇級、しかも初参加での昇級は今後の活躍を期待させるものだ。
最終戦は今泉健司五段(49)との対戦で、二転三転の死闘を制した。
次点となった佐々木(大)七段(27)はこれで3回目の次点に。第94期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメントでは準決勝進出を決めるなど実力者として知られるが、どうしても昇級に手が届かない。
佐々木(大)七段の師匠である深浦康市九段(51)もC級2組で長く苦しみ、それをバネにトップ棋士の仲間入りを果たした。筆者も同じ棋士としてこの辛さはよく分かるが、糧にするより他の解決策はない。
世代交代
若手の活躍が目立つ中、ベテランで気を吐いたのが木村九段だ。
前期はB級1組から降級したが、1年での復帰を果たした。
実力通りといえばそれまでだが、下に向かうエネルギーを上に変えるのは並大抵のことではない。
降級者をみると50歳前後の棋士が多く、世代交代を感じる。
将棋ファン歴が長い方ほど、表をみると寂しい気持ちになるだろう。
なお、今期はB級2組からの降級者はいなかった。
今度は来期のA級の表をご覧いただこう。
最年長が広瀬八段で36歳。仮に渡辺名人がここに加わっても38歳であり、40代以上はいない。
順位1位を除く平均年齢は32歳で、これほどフレッシュなメンバーのA級は筆者の記憶にないほどだ。ここでも世代交代を痛感させられる。
来期
20歳の藤井竜王が六冠となったのが一つの象徴であり、若手の活躍がさらに加速しそうな2023年度だ。
今期昇級したメンバーは若い棋士が多く、連続昇級の可能性を秘めた人も多い。
ここでは昇級を逃した若手の中で、来期の有力候補としてあげられそうな棋士を各クラス一人ずつ紹介する。
B級1組:今期4連敗スタートから8連勝と追い上げた近藤誠也七段(26)。
B級2組:タイトル獲得経験もあり、今期銀河戦で準優勝と結果を残した高見泰地七段(29)。
C級1組:最終戦で順位戦の洗礼を浴びた伊藤(匠)五段。
C級2組:勝率ランキング(※)で3位につけている本田奎五段(25)。
※3月24日時点、未放映のテレビ対局を除く。
この4名は、レーティングでもかなりの上位につけており、昇級争いの本命として注目されるだろう。
もちろん羽生善治九段(52)らベテラン勢もこのまま黙って引き下がるとは思えず、来期も熱い戦いが繰り広げられることは間違いない。