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斎藤慎太郎八段が名人挑戦。藤井聡太竜王はA級へ。最終戦のドラマも ―第80期順位戦を振り返る―

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 10日(木)の順位戦C級2組一斉対局をもって、第80期順位戦の全日程が終了した。

 A級では斎藤慎太郎八段(28)が8勝1敗で前期に続けて挑戦権を獲得した。

 注目の藤井聡太竜王(19)はB級1組を10勝2敗の好成績で終えて、A級への昇級を決めた。

 最終戦ではドラマも起こり、ファンを寝かさない日々が続いた。

 順位戦全体を振り返る。

充実期の棋士が躍進

 A級の斎藤八段は最終戦に敗れて全勝こそ逃したものの、このメンバー相手に2年連続で8勝1敗の星は驚異的だ。

 昨年の名人戦七番勝負は1勝4敗で敗れたが、今年はより競ったスコアになることが予想される。

 渡辺明名人(37)との名人戦七番勝負は4月6日(水)に開幕する。

昇級者一覧。30代の活躍が目立つ
昇級者一覧。30代の活躍が目立つ

 藤井竜王の今期順位戦での戦いぶりについて、別記事で詳しく紹介した。

藤井聡太竜王、ついにA級へ。第80期順位戦B級1組での全12戦を振り返る

 有利な立場で迎えた最終戦だったが、結果的には負けたら昇級を逃していた。

 内容的にも逆転勝利で、文字通りギリギリのところでつかんだ昇級だった。

 表をみると、充実期といえる20代後半~30代前半の棋士の活躍が目につく。

 B級2組の中村太地七段(33)と澤田真吾七段(30)は期待されながらなかなか昇級に手が届かずにいたが、ついにB級1組の座をつかんだ。

 C級1組の及川拓馬七段(34)は、前々期に9勝1敗ながら順位の差で昇級を逃していた。大橋貴洸六段(29)は2期連続の昇級となる。

 二人とも実力を示す昇級であり、上のクラスに行っても上位争いに加わりそうだ。

最終戦のドラマ

 B級1組とB級2組では結果的に自力の権利を持っていた棋士が勝って波乱なく昇級を決めた。

 一方、Cクラスでは最終戦に波乱が起きた。

 大波乱となったのはC級1組最終戦。

7勝3敗での昇級は10年ぶり
7勝3敗での昇級は10年ぶり

 3位で昇級を決めた飯島栄治八段(42)は最終戦に敗れたものの、競争相手の高橋道雄九段(61)も敗れたため、7勝3敗の星ながら順位の差で昇級となった。

 高橋九段は終盤戦まで優位に進めながら、先崎学九段(51)に逆転負けを喫した。最後は残念な結果だったが、還暦を超えての頑張りに敬服する。

 飯島八段は前々期に4勝6敗ながら降級点をとってB級2組から降級した。不運の降級と言われたが、今回は幸運な昇級となりその悪夢を払拭する格好となった。

 C級2組も最終戦は劇的な結末だった。

昇級ラインは全クラス通じて一番高かった
昇級ラインは全クラス通じて一番高かった

 自力の権利を持っていた服部慎一郎四段(22)が筆者に敗れ、最終戦を勝利した伊藤匠(19)五段が逆転昇級を果たした。

 伊藤(匠)五段は藤井竜王と同学年で同じ10代棋士。C級2組を1期で抜けたのは藤井竜王以来で、今後の活躍に期待が集まる。

 また渡辺和史五段(27)の最終戦は秒読みのなかで二転三転し、最後の最後に渡辺五段が制して昇級をつかみ取った。

 この対局は結果的に第80期順位戦全対局の最終戦となり、その劇的な結末にファンは沸いた。

50代の不振

降級者一覧。B級2組・C級1組は降級点2回で降級。C級2組は降級点3回で降級となる。
降級者一覧。B級2組・C級1組は降級点2回で降級。C級2組は降級点3回で降級となる。

 降級のほうで目をひくのは、なんといっても羽生善治九段(51)のA級陥落だ。

 しかもこれにより、藤井竜王と羽生九段がすれ違う結果となった。

 これまで番勝負を戦ったこともなく、この二人はそういう運命なのだろうか。

 また今年度はタイトル挑戦もあった木村一基九段(48)の降級は意外な結果だった。

 前期降級した丸山忠久九段(51)がB級1組へ即復帰しただけに、木村九段にもその期待がかかる。

 年代的には、40代後半~50代の棋士が目立つ。

 40代や50代での昇級者もいるが、やはり全体としては世代交代が進んでいるということなのだろう。

来期に向けて

 昇級者11名のうち、関東所属棋士が6名、関西所属棋士が5名である。

 名人挑戦の斎藤八段を入れれば、ちょうど6対6で同数だ。

 棋士全体の人数比から考えると、関西の棋士の活躍が目立ったといえよう。

 来期のA級は関西所属棋士が5名(名人を争う二人を除く)と半数をしめる。

 タイトル挑戦を争うメンバーや新人も関西所属が目立ち、将棋界全体として関西所属棋士が押している印象だ。

 この傾向は来期も続くだろう。

 理由は複数考えつくが、藤井竜王が関西所属である影響を感じずにはいられない。身近に大きな存在があることで、関西全体が活気づいているように思う。

 20代の昇級者が2名しかいない(前期は7名)のは意外な結果である。

 非公式のレーティングサイトで上位に位置する、近藤誠也七段(25)、八代弥七段(28)、佐々木大地六段(26)は、来期こそ、という気持ちだろう。

 C級2組では、5位までに入ったメンバーのうち4名が勝率ランキング(※)で5位以内にランクインしている(藤井竜王が2位)。

 しかも6・7位にもC級2組所属の棋士が続く。

 勝率では11位の渡辺(和)五段も、現在13連勝中(※)である。

 一番下のクラスの昇級争いでこの厳しさだ。順位戦全体の競争の厳しさを物語るデータといえる。

 例年通りにいけば、第81期は6月に開幕する。

 A級初参加となる藤井竜王の動向が注目されることは間違いないが、他のクラスにもぜひご注目いただきたい。

※:いずれも3月15日現在。未放映のテレビ対局を除く。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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