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「タイタニック」から20年。ジェームズ・キャメロンが語る、当時のこと

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジェームズ・キャメロンが「タイタニック」を公開して、今年で20年になる(写真:Shutterstock/アフロ)

作品、監督部門を含む11部門でオスカーを受賞。世界興収は、当時史上最高記録の21億ドル。北米で1位に君臨すること、16週間。

意外に聞こえるかもしれないが、そんなふうに映画史を塗り替えたジェームズ・キャメロンの「タイタニック」は、 公開前、歴史に残る大コケ映画になると見られていた。製作中、とにかくトラブル続きだったせいだ。

製作予算はみるみるうちに膨れ上がり、最終的に当初の2倍に当たる2億ドルに及ぶ。138日の予定だった撮影スケジュールは160日にまで伸びた。過酷な撮影現場では病人も多く出て、主演のケイト・ウィンスレットまで倒れる。厳しすぎるキャメロンへの仕返しか、クルーの誰かが食事に毒を混ぜるという事件も起こった。その犯人は今もわかっていない。

最初にゴーサインを出した20世紀フォックスは、コストを全部自分たちで背負う危険を避けるため、パラマウントとパートナーシップを組むが、予算がどんどんオーバーする中、パラマウントは「自分たちは6,500万ドル以上までしか出さない」と宣言(結果的に、そのせいで、フォックスがより大儲けをする)。どこまで自分たちの損失が大きくなるのかとフォックスはやきもきし、キャメロンは、彼なりに責任を取る姿勢を見せて、800万ドルのギャラはいらないと申し出る。

そういったネガティブな報道が飛び交う中、映画の完成は遅れ、当初予定されていた独立記念日(7月4日)は無理と判断された。公開が遅れる映画はたいがい駄作というのはこの業界の定説で、アメリカのメディアは、それこそ沈んでいく船を見るような報道をしたものだ。

今の若い観客の多くは、あの傑作映画にそんな裏話があったなどまるで知らないだろうが、公開から20年経つ今、キャメロンが当時について、手紙で振り返った。 「The Hollywood Reporter」の記者スティーブン・ギャロウェイが、元パラマウントのCEO、シェリー・ランシングの伝記本を書くにあたり、当時ランシングがどう「タイタニック」を支援したかを語るためにキャメロンが書いたものを「The Hollywood Reporter」が公開した形だ。

手紙の冒頭で、キャメロンは、“1億ドルもかかる女の子向け映画”のリスクを削減するために、フォックスはパートナーを探し、ユニバーサルに話を持ちかけたが断られ、ランシングの目に止まってパラマウントに決まったことを述べている。その頃は、「パートナーを決めるのはあなたたちスタジオの仕事。僕は映画を作るだけです」と、フォックスに言いのけてみせたキャメロンも、製作が始まるやいなやトラブルが続き、スタジオのトップが不安と絶望で険悪な状態になると、そうも言っていられなくなった。そのうち「僕自身も含め、希望を掲げる人は誰もいなかった」と、彼は手紙の中で告白している。

全文は同サイト (http://www.hollywoodreporter.com/news/james-camerons-titanic-secrets-time-i-gave-my-version-what-happened-996442)で読めるが、以下に一部を紹介する。

撮影中、誰もがこれは赤字になると思っていた

シェリー(・ランシング)は、撮影された映像を見ていつも褒めてくれたし、僕らは気が合った。脚本にあったとおりに感情が表現されていると、彼女は喜んでくれたものだ。僕はそれまでSF、ホラー、アクションしか作ったことがなかったので、その言葉に安心した。だが、その頃、コストは膨れ上がっていっており、褒め言葉は次第に聞かれなくなっていく。クオリティのためならスケジュールが伸びてもしかたがないという人は、誰もいなかった。シェリーは映画を信じてくれていたが、(公開の延期が予測されるようになると)、パラマウントのトップは、まるで末期ガンを宣告されたような顔になっていった。彼らが考えていたのは、この損失で会社が潰れるようなことになってはいけないということだけ。みんな、これは損失を出すと思った。僕も含め、誰も希望を掲げてはいなかった。

業界紙は、今作がハリウッド史上最悪の愚か者のように書き立てた

メディア、とりわけ業界紙は、容赦なく僕らを叩いた。膨れ上がる一方の製作費、現場の安全問題、公開の延期。他にもいろいろだ。僕らはハリウッド史上最悪の愚か者。公開予定の夏が近づくにつれ、メディアは長いナイフをさらに研いで僕らを迎えた。

テレビスポットに関する衝突

1997年の11月、3時間15分の映画を30秒で語るテレビスポットが作られたが、それらは全部アクションと災害を見せるものだった。「ポセイドン・アドベンチャー」のようで、これはこの映画を象徴するものではないと僕らは思い、(女性向けの番組で流せるような)もっと感情的な部分を強調したスポットを作ってもらうことで合意した。あの広告キャンペーンは、アクション、スペクタクル、ロマンスがごちゃごちゃに混ざっていたと思うが、今思えば、人を呼ぶために、それは必要だったのかもしれない。僕は映画を完成させるのに必死だったので、 何事にも本気で闘わなかった。

世界プレミアを東京国際映画祭で行なったのは戦略的

僕らは、司法権の外で、ふたつのプレミアを行なった。最初は東京。東京国際映画祭のオープニングを飾ったのだ。ここでは、アメリカのメディアが言うようなこととは全然違うことが聞かれた。完成作を初めて見た人たちの批評は東京から来たもので、それらはとてもポジティブだった。次はロンドンでチャールズ王子のために行なったが(エリザベス女王は出席しなかった)、ここでもすばらしい口コミがあった。そういった良い感想がアメリカに届き、アメリカの批評家は、偏見と、毒のこもったペンを脇に置いて、映画そのものを判断することをやむなくされたのだ。

ついに公開。結果はご存知のとおり

最終的に、僕らは、みんなの間で合意がなされたテレビスポットや予告編、広告を出して、 「007/トゥモロー・ネバー・ダイ 」とギリギリではあったものの、公開初週末に1位を獲得することができた。そこを始まりに、「タイタニック」は、毎週、1位に君臨していく。4月まで、16週間もだ。そんなことは、過去にも、現在に至るまでも、例がない。

「タイタニック」の世界興収記録を破ったのは、やはりキャメロンによる「アバター」(2009)。「アバター」も、夏の予定だったのが遅れ、12月に公開されている。この時、キャメロンは、「タイタニック」を例に出し、「夏は毎週のようにブロックバスター映画が公開されるが、12月に出て成功すると、年明けは、すでに公開されているオスカーがらみの映画がまだ健闘していて、新作のライバルがなく、長い間上位に君臨できる」と、延期を正当化していた。そして、まさにそのとおりになったわけだ。

「アバター」続編は4本作られることが決まっているが、そちらも延期に延期を重ねている。今週発表された最新の予定によると、最初の続編が公開されるのは2020年、最後にあたるシリーズ5作目の公開は2025年。全部、12月公開だ。

そこまで長く観客の興味が持つものかと疑問も聞かれるが、ネガティブなメディアの声は、キャメロンにとって、もうすっかり慣れたもの。フォックスは、今回もキャメロンとともに船に乗っている。この航海もまた、途中は波乱万丈でも、沈むことなく、目的の港にたどり着くだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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