日大選手会見でルールを守った元関学QBキャスター
日本大学アメリカンフットボール部の選手が開いた『謝罪』会見は多くの注目を集め、アメリカ在住の筆者もネット配信されたライブ中継を観させてもらった。
卑劣なプレーで相手にケガを負わせてしまったとは言え、20歳になったばかりの大学生が大勢の記者やたくさんのカメラの前に出てくる姿に心を痛めたと同時に、これで彼が抱えているものが少しでも軽減されることを願わずにはいられなかった。
ライブ中継で会見を観ていて、彼の勇気ある決断を尊敬したと同時に、会見の仕切りの悪さも気になった。
今回の会見は代理人である弁護士の希望で日本記者クラブで行なわれたが、閉鎖的な記者クラブで会見が行なわれたのは残念だった。
冒頭で代理人が「このような形で本人が顔出し、容姿の撮影をあえて受けて話すのは異例かと思う。特に、20歳を過ぎたばかりの未成年に近い方が顔を出すことについてのリスクは、私どもも承知している。両親、本人にもお話をしました。しかし本人、両親とも、この会見が事実について詳らかにするだけではなく、むしろ被害選手とそのご家族、関西学院大学アメリカンフットボールチームに対する謝罪の意味が強いという捉え方をしている。一言で言うと、顔を出さない謝罪はないだろうと。顔を出さなくて何が謝罪だということを考えて、あえて撮影を受けることに致しました」と本人が会見に臨むに至った経緯を説明。事実を自分の口から明らかにするだけでなく、被害者に対する謝罪の意味合いが強いことを明確にしている。
その上で、「できれば、ずっとアップで撮るようなことは避けて頂いて、格別のご配慮をいただければ」と代理人がお願いしたにもかかわらず、終始アップで中継した中継局は少なくない。
また、会見中ずっとカメラのフラッシュが焚かれていたが、写真撮影は冒頭と終わりの数分に限定するべきだったと感じた。
日本記者クラブは、テレビ局、ラジオ局、新聞社、通信社に属している人間しか会見での質問権が与えられる会員になれず、雑誌社やネット系メディア、フリーランスの記者は排除されている。
日本記者クラブでの会見は「会員と会員社の記者が対象ですが、本日は会見者サイドからの許可を受けた方に限り、出席を認めています。ただし、あくまでもオブザーバーとしての出席ですので、ご質問は御遠慮ください」と司会者が説明したように、日本記者クラブの加盟社以外には、質問の権利を与えなかった。
記者からの質問に先立ち、司会者が「質問はお一人1つでお願いします」とルールを説明したにもかかわらず、一番最初に質問をしたNHKの記者が立て続けに4つの質問を投げかける。その後もテレビ局の記者を中心にルール違反である複数の質問をするだけでなく、選手から監督やチームを批判する言葉を引き出そうとする誘導尋問的なものが多かった。
「上司からの命令に従うために自分の意思ではないにも関わらずルール違反を繰り返すマスコミが、監督からの指示に従って悪質な反則を犯した選手に悪質な質問をしているのは滑稽だし、観ていて不愉快」というような意見もSNSに多数上がっていた。
そんな中で、日本記者クラブの加盟社である東京メトロポリタンテレビジョンのニュース番組でキャスターを務める有馬隼人記者だけは、「1つだけ」としっかり明言してから「試合当日の5月6日、どういう形であれ、あなたはグラウンドに立ったわけです。最初に反則をしたプレーで、審判の笛は、聞こえていましたか?」と質問。加害者選手は真っ直ぐに有馬キャスターの目を見ながら「投げ終わったということは気付いていました」と返答すると、「プレーが終わったことは認識していた……」と短く確認だけした。
有馬キャスターは大学時代に関学でQBとして活躍したアメフト選手。大学卒業後にはアナウンサーとしてTBSに入社したが、現役復帰を果たすためにTBSを退社。現在はキャスターとXリーグのアサヒビール・シルバースターのヘッドコーチを兼任する現役のアメフト人だ。
他の質問者たちがその場にはいないコーチや監督に関する質問を続ける中で、有馬キャスターだけは選手本人としっかりと向き合い、彼自身に関する質問をした。
会見後に自身のブログに「会見での私の質問の真意について」と題する投稿を上げた有馬キャスターは、
と説明している。
有馬キャスターの質問は、彼がアメフト選手であることを証明しただけでなく、今回の一件が事故ではなく、意図的に相手QBをタックルしたことも証明された。他の質問者たちがルール違反の「反則」を犯してまでも引き出せなかった事件の確信に迫るコメントを、ルールに則った正攻法で聞き出した。
なお、会見では代理人が「氏名についても、あえて秘匿するまでもないとおっしゃっている」と加害者選手の気持ちを代弁しているが、私はこの記事を書く上で選手の氏名を出すことも、写真を使うことも必要ではないと感じているので、本文では選手名ではなく、加害者選手とさせていただいた。