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糸谷哲郎八段(33)名人挑戦権争いに踏みとどまる A級順位戦7回戦で佐藤康光九段(52)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月12日。大阪・関西将棋会館において第80期A級順位戦7回戦▲糸谷哲郎八段(33歳)-△佐藤康光九段(52歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は22時31分に終局。結果は135手で糸谷八段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は、糸谷八段は5勝2敗。7勝0敗でトップを走る斎藤慎太郎八段に追いつく可能性を残し、名人挑戦権争いに踏みとどまりました。

 佐藤九段は3勝4敗。残り2戦、残留を目指しての戦いとなります。

糸谷八段、的確な大局観で勝利

 これまで80期おこなわれてきた順位戦。A級では名人挑戦と残留をめぐって、多くのドラマが生まれました。

 期によっては最後の最後までもつれることもあれば、早々に大勢が決まってしまう場合もあります。どちらかといえば今期A級は後者の可能性もあるところ。前日おこなわれたA級7回戦の結果、降級2人のうち1人は山崎隆之八段と決まりました。

 もし本局で糸谷八段が敗れると、名人挑戦者まで決まるところでした。

 後手番の佐藤九段はダイレクト向かい飛車の作戦を取りました。棋王戦本戦トーナメントの郷田九段戦では、玉側の端から銀を繰り出す奇抜な作戦も見せた佐藤九段ですが、本局では比較的オーソドックスに美濃囲いに組みました。

 糸谷八段は自陣に角を据え、膠着状態からの打開をはかります。戦いが始まり、見応えある応酬が続きました。

 83手目。糸谷八段は自陣6筋の歩を突き上げます。

佐藤「▲6六歩、いい手でしたね。ほかは自信あったんですけど」

 佐藤九段は繰り返し、相手の歩突きをうっかりしていた旨を述べていました。

 以後は少しずつ、糸谷八段がリードを広げる進行となりました。

 終盤、佐藤九段は一直線の斬り合いに希望を感じていました。しかしその判断に誤りがあったようです。

佐藤「これで勝ちになったと思ったら、負けなんですか、これ」

 感想戦で検討してみると、どの変化も糸谷よし。そこで佐藤九段のぼやきが止まらなくなります。

佐藤「(苦笑しながら)ああ、そうなんだ。負けなんだ。アホでしたね」

糸谷「本譜なら勝ちだと思ったんですけど」

佐藤「ひどいなしかし・・・。いやあひどいですね。勝ちだと思ってやってるんだから」

糸谷「ああ、そうなんですか」

佐藤「負けなんですか。負けですか、これ(盤側に尋ねる)。こっちが(勝率のパーセンテージで)80ぐらい勝ってるのかと思ったら、80パー? 向こうが? おめでたすぎるね、やっぱり。ほんと、人生めでたいね」

 本局、大局観が正しかったのは糸谷八段。はっきり優位に立つと、あとは相手の粘りを許さずに手早く寄せに出ます。最後は佐藤玉をきれいに受けなしに追い込んで、一手勝ちを収めました。

 名人挑戦の可能性を残した糸谷八段は次節8回戦、佐藤天彦九段と対戦します。また最終9回戦には斎藤八段との直接対決を残しています。

 佐藤九段は引き続き残留を目指し、このあと菅井竜也八段、佐藤天彦九段と対戦します。

 1月13日にはA級7回戦最後の一局▲永瀬拓矢王座(3勝3敗)-△佐藤天彦九段(3勝3敗)戦がおこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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