PayPayのFinTech特許解説シリーズ(1):オフライン決済
「PayPay、金融特許で3メガ銀超え フィンテックで先行」という記事(全文表示は要会員登録)を読みました。「スマートフォン決済のPayPayが特許で金融技術の囲い込みを進めている。PayPayの特許出願件数は2021年に90件となり、3メガバンク合計の2.5倍に達した」とのことです。
ということで、何回かに分けてPayPayの特許について解説していこうと思います(クレームの解説部分のみ有料の予定)。
「PayPay、オフラインでも決済可能に--通信障害時やフェスなど想定」というニュースもありました。「スマートフォンがオフラインでも決済できる新機能の提供を開始したと発表した。国内コード決済事業者では初の機能だといい、複数の特許も申請(ママ)中だという」ということなので、まずは、このオフライン決済関連の特許について見ていくことにしましょう。
Felicaチップ内に残高情報を保存・管理しているためオフラインでも決済処理が可能なSUICA等とは異なり、一般にバーコード決済では残高データのマスターがサーバー側にありますので、決済時にはサーバーと端末(店舗端末およびユーザー端末)がオンライン接続されていることが大前提です。オフラインでも決済できるようにすることで、上記記事にもあるように、通信障害、電波の入らない場所、イベント等で多くの人が集まって通信がつながりいくい状況でも決済を行うことができるようになり、利便性が高まります。
ここで、技術的な話以前に、サーバー上の最新の残高がわからない状態で決済してしまって残高不足にならないかという問題がありますが、スマホ側の残高とサーバー側の残高が食い違う可能性はさほど大きくない、仮に食い違っていても少額であれば後日決済すれば通常のPayPayあと払いと実質同じということで、ビジネス上のリスクは十分許容できるということなのでしょう。
もう一つ気になるのはオフライン決済とは、技術的に言えば要は残高チェック処理を省略して決済を完了することとほぼ同等なので、新規性・進歩性が確保できるのかという点です。これについてはさすがにオフライン決済のアイデアそのものでは特許化できておらずちょっとした限定が入っています。
さて、問題の特許は特許7090217号、発明の名称は「情報処理装置、情報処理方法およびプログラム」、出願日は2022年2月14日、登録日は2022年6月15日です。早期審査が請求されています。
分割出願も特許化されています(特許7223899号)(こちらについては別途)。さらなる分割出願がある可能性もあります。この場合、原出願日の1年半後が2023年8月14日にあたるため、本記事公開時点ではぎりぎりでまだ出願公開されていない可能性があります。
7090217号に話を戻すと、権利範囲はかなり広く、オフライン決済的な仕組みを実現しようと思うと実施せざるを得ないように思えます。もう少し詳しく特許権の範囲を見ていきましょう。
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