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「そろそろ区切りを」。吉本興業・大﨑洋会長が語るこれからと「ダウンタウン」が世に出た理由

中西正男芸能記者
70歳を目前に今の思いを語る吉本興業の大﨑洋会長

 2009年から吉本興業の社長を10年務め、19年から会長となった大﨑洋さん。幼少期から今日に至るまでの出来事や思いを赤裸々に綴った「居場所。」を先月上梓しました。70歳の節目を前に見据える“自分の場”。そして、デビュー当時から至近距離で見てきた「ダウンタウン」が居場所を確立できた理由とは。

一区切りつけなアカン

 今年で70歳になります。

 周りの人は気を遣ってくれますから「大﨑さんはまだまだ若いですよ」とも言ってくれます。でも、正味の話「この前、ご飯を食べに行ったばかりやのに…」とか「ゴルフの約束をしてたのに…」ということがよくある年齢になってるわけです。

 要は、いつ死ぬか分からん歳になってきました。その状況になって吉本にいてアレコレするのは違うんじゃないか。それをね、つい最近、強く思うようになってきたんです。

 大きなきっかけになったのは今回本を出したことでした。

 本のタネみたいなものが生まれたのは2年ほど前。ライターさん、編集者さんがこれでもかと情熱を注いでくださって、先月、形になりました。

 たとえば、細かい話なんですけど、表紙を開けたところに使われている黒っぽい紙が日本では今はほとんど使われていない紙で、実は松本(人志)君が最初に出した本「遺書」(1994年)の製本に使われていた紙だそうなんです。

 なかなか手に入らないので普通の紙よりだいぶ値が張るらしく、高い紙を使ってくださったこともありがたいんですけど(笑)、作り手の皆さんが「そういう形でも、大﨑さんと『ダウンタウン』のお二人のつながりを表現したかった」と考えてくださった熱意。これが何よりうれしかったんです。

 僕がまだ現場にいる時期に言っていたのが「芸人さんより、スタッフのボルテージが高くないと絶対に良い仕事ができない」ということだったんです。

 そして、今回、自分が著者という立場になって、周りの方々が協力してくださった。その中で明らかに僕より皆さんの熱量が上だったんです。タイトルや紙以外にも、ポスターデザインや書店で流す映像もあらゆるパターンを作っていただきました。これが「仕事をやり切る」ということだと久々に痛感しました。

 すごく力を使うことでもあったし、周りの方から熱量もいただいた。大げさな言い方ですけど、この本で自分の意識が変わりました。

 人生への考え、吉本への思い、いい意味で、一区切りついた。いや、一区切りつけなアカン。そう思えたんです。真面目な話。

 60歳の時は「まだまだや」という思いでした。赤いちゃんちゃんこなんて要らないし、還暦パーティーなんてことも要らない。体も元気やし、ご飯もみんなと同じように食べられるし、わざわざ立ち止まって噛みしめるような節目でもないと感じていたんです。

 ただ、今回は違いました。区切りをつけるべき歳にもなったと思います。でも、それと同時に、もう一回気合を入れ直した。ここも確実にあります。区切りをつけるにも、今一度頑張らないといけない。それもありますから。

「ダウンタウン」が世に出た理由

 実際に70歳から何をするのか。これはね、まだ思いつきたての話なので、今、思いっきり考え中(笑)。それが本当にリアルなところです。

 吉本ってね、いわゆる普通の社会に行き場所がない子を集めて経費ゼロの漫才を劇場で発表してもらう。そんなことをやってきた会社なんです。素手で、お金をかけずに、食べていける場を作る。

 もし、僕個人が70代から何かをやるなら、シングルマザーの方なのか、迷いの中にあるオトナなのか、そういう人たちの居場所を作る。芸人さん以外の分野でそこをやっていくのが70代で歩むべき道なのかなと。

 ホンマに思いつきたてホヤホヤなんですけど、実は思いはとても強くて、20代の頃に「ダウンタウン」と出会って「こいつらと一緒にいつでも吉本なんか辞めたるわ」と思っていた時くらい心は燃えています。

 芸人養成所「NSC」を作って一期生として入って来たのが「ダウンタウン」や「トミーズ」、「ハイヒール」らでした。最初に売れたのは「トミーズ」と「ハイヒール」。

 「トミーズ」は雅がプロボクサーという要素もありましたし、当時から正統派のエエ漫才をしていました。「ハイヒール」は二人のキャラクターのコントラストがあって“女やすきよ”と呼ばれてました。

 最初は居場所に恵まれていたわけではない「ダウンタウン」が居場所を獲得していった理由。これはね、きれいごとを言うようでアレですけど、ベースに人への思いやりがあったこと。そして、一生懸命さ。そこに尽きると思います。こんなん言うたら、本人らは「そんなことない」と言うと思いますけど(笑)。

 例えばMBSテレビ「4時ですよーだ」(1987年~89年)という番組でも、スタートの時は「ダウンタウン」も含め「お前ら、誰やねん」という人間ばっかり出てたわけです。

 プロ野球と高校野球みたいなもので、高校野球は言ってしまえば「君ら誰やねん」という高校生がやっている。でも、ただただ一生懸命にやっている。

 アホみたいなコントをやり、ムチャクチャな企画をやり、プロでもない芸人が歌を歌う。ただ、一生懸命に。そこに感情移入する人が増えていってみていただけるようになったんだと僕は思っています。

 芸人のみならず、豆腐屋さんも、歌手の人も、会社員も、一生懸命にやる大事さは同じだと思うんですけど、当たり前のことをいかにやり続けるか。そこなんだろうなと。

「ありのままで」

 それを見てきたからこそ、もし自分がここから何かやるなら、これでもかと一生懸命にやる。70歳でも必死に頑張る。これしかないんだろうなと思っています。

ただ、それでも簡単なことではないですし、起業してもみんなが成功するわけではない。むしろ、失敗することが多いです。

 今回本を出してね、50代、60代の知り合いからいっぱいメールをもらったんです。それもものすごく長いメールを。ホンマは同じ分量で返さないといけないんですけど、それが追いつかないくらいもらいました。それくらい、おこがましい話ですけど、居場所ということに響いてくれた人が多かったのかなとも思いました。

 何があっても、そこにいれば一息つける。素の自分でいられる。僕にとっては銭湯なんですけど、そんな場所、あるいは人。それが見つかれば、それでよし。

 悩むことが人を成長させるのも事実ですけど、本を読んでくださった方が、何かしらの形でプラスに結び付けてくださる。そんな部分があったら、まさに幸いです。

 ただ、本のオビで、松本君が「一気に八回読んだ」と書いてくれましたけど、ま、あれはウソですけどね(笑)。絶対に、一回も読んでません。本を開いてもない。賭けてもエエわ(笑)。あ、あんまり賭けたりはせんほうがいいね。でも、絶対読んでない(笑)。

 ま、もちろん、いろいろな反応があって当然なんですけど、この前ね、出してもらったラジオ番組で「何か一曲」と言われたので、ニルヴァーナの「カム・アズ・ユー・アー」をお願いしたいんです。「ありのままで」という思いを込めて。いろいろなことはあるけれど、人と違おうが、それでいいじゃないかと。

 人と違うことを武器にして世に出るのが芸人さんです。その仕事を見るという仕事をしながら、もうすぐ70歳になります。そんな人間として、つくづくそう思います。

(撮影・中西正男)

■大﨑洋(おおさき・ひろし)

1953年生まれ。大阪府出身。関西大学社会学部卒業。78年4月、吉本興業株式会社入社。多くのタレントのマネージャーを担当。80年、東京事務所開設時に東京勤務となる。86年、プロデューサーとして「心斎橋筋2丁目劇場」を立ち上げ、多くの人気タレントを輩出。 その後、音楽・出版事業、スポーツマネジメント事業、デジタルコンテンツ事業、映画事業など、数々の新規事業を立ち上げる。2001年に取締役、その後、専務取締役、取締役副社長を経て、07年に代表取締役副社長、09年、代表取締役社長に就任。19年、代表取締役会長に就任した。今年4月からKBS京都ラジオ「大﨑洋と坪田信貴のらぶゆ~きょうと」などに出演中。これまでの道のりや思いを込めた書籍「居場所。」(サンマーク出版)を上梓した。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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