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アニメのコンテンツ力が見直される中でフジテレビの重層的戦略は注目だ

篠田博之月刊『創』編集長
「デジモンアドベンチャー」と「ギヴン」。クレジットは本文参照

 4月7日発売の月刊『創』5・6月合併号はマンガ・アニメの特集だ。マンガのコンテンツ力が改めて見直されている現状については下記の記事で書いた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20200410-00172414/

「鬼滅の刃」「ドラえもん」「五等分の花嫁」…相次ぐマンガ大ヒットの要因を探る

 ここでは、アニメをめぐるテレビ局のコンテンツ戦略をフジテレビを例にとって取り上げよう。

 なお冒頭に掲げた画像のクレジットがスペースに入りきれなかったので、ここに書いておく。2枚ともフジテレビのアニメで、左が「デジモンアドベンチャー」(C)本郷あきよし・フジテレビ・東映アニメーション、右が「ギヴン」(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会だ。

 昨今は、かつてのようにゴールデンタイムに家族でアニメを観るという機会は減り、キッズアニメはゴールデンから土日の朝や夕方に移行した。同時に各局が深夜アニメ開発に力を入れ、大きなふたつの流れができつつある。

 その中で重層的で戦略的な展開を行っているのがフジテレビだ。実写とアニメを連動させたり、テレビ・映画・配信といった多面的な連動を推進する一方で、BLの映像レーベルを立ち上げるといった実験的な取り組みも行っている。2013年という早い時期に立ち上げたアニメ開発部が、深夜アニメ「ノイタミナ」など独自の取り組みを推進してきた経験が、そういう戦略的な展開を可能にしているといえる。

一歩進んだフジテレビ深夜アニメの展開

 深夜にアニメを放送することはいろいろなテレビ局が試みているが、フジテレビの存在感は格別だ。ドラマを見ている層にアニメを見せたいというコンセプトのもとに「ノイタミナ」という独特の深夜のアニメ枠を確保してきた。

 アニメ開発部がそのラインナップを含めて関わってきたのだが、毎週木曜24時55分の「ノイタミナ」と別に2018年からもう1枠、「+Ultra」という深夜のアニメ枠を水曜24時55分に設けた。こちらは海外を見据えた作品を中心に展開を図るという方針だ。

 その深夜アニメと劇場映画の連動など、戦略的なコンテンツ戦略を進めているのが特徴だ。2020年はどういう展開になるのか。3月半ば、高瀬透子企画担当部長に聞いた。

 「ノイタミナは今年が15周年、+Ultraは3年目になるのですが、まず最新の予定でいうと、昨年10月クールにノイタミナで放送した『サイコパス3』の映画を3月27日に公開します。劇場公開は35館と小規模ですが、同時にアマゾンプライムビデオを通じて全世界に配信します。劇場では大画面でハイクオリティな映像を楽しみたい方々に観ていただきつつ、配信でより多くの方に届ける。これは昨年、『甲鉄城のカバネリ』で行ったのと同じやり方ですね」

BLの映像レーベルという初めての試みも

 新しい動きとしては、2019年、「BLUE LYNX」というBLジャンルに特化した映像レーベルを立ち上げた。

 「BLの映像レーベルというのは初めての試みだと思います。お客様の嗜好が細分化するなかで、テレビで放送するには制限が必要だけれど映画ならチャレンジが可能というものについて、ターゲットを絞った展開をしていこうということです。

 2月15日公開の映画『囀る鳥は羽ばたかない』が第一弾でしたが、これはR18指定でした。それから昨年7月クールにノイタミナで放送した『ギヴン』というバンドもののBLジャンルの作品があるのですが、その映画を5月16日に公開します。さらに9月11日には『海辺のエトランゼ』という映画も公開予定です」(高瀬担当部長)

 この取材の後、新型コロナ感染の影響で、『ギヴン』の公開は延期されたが、そのほかにも『ペンギン・ハイウェイ』で高い評価を受けたスタジオコロリドの長編映画第2弾『泣きたい私は猫をかぶる』の公開も予定されている。

日曜朝のキッズアニメと映画との連動

 4月から日曜9時台に『デジモンアドベンチャー』をスタートさせた。1999年から続くデジモンシリーズの最新作だ。『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』も含めて、デイタイムのアニメでは子供を中心に幅広い層に訴えていく一方で、深夜アニメや映画では、しっかりセグメント化したビジネスモデルに挑戦するということだ。

 ノイタミナ枠は4月クールで『富豪刑事』という、かつて実写ドラマにもなった筒井康隆さん原作の作品を放送。10月からは『約束のネバーランド』の2期が放送される。

「昨年放送された1期は、海外も含めて非常に評価が高かったのですが、2期の放送を前にして7月に1期の再放送も予定しています。フジテレビ製作の実写映画が12月に公開されるのですが、アニメと実写を連動させて盛り上げていこうという、これは以前『暗殺教室』で行われた展開です」(同)

ネット配信も含め世界を見据えた戦略的な展開

 「+Ultra」枠の方は、4月から『BNA ビー・エヌ・エー』というオリジナルアニメを放送しているが、これは配信先行という戦略をとるという。

 「放送に先駆けて3月21日から1話から6話までをネットフリックスで一挙独占配信しました。オリジナルの世界観を認知していただくために、感度の高いお客様に早めに観ていただいて情報発信をしてほしいという考え方ですね」(同)

 その後、7月から放送予定の『GREAT PRETENDER』も展開は戦略的だ。

 「『コンフィデンスマンJP』の脚本を書いた古沢良太さんが、時を同じくして初めてアニメーションのシナリオを書かれたのがこの作品です。同じ信用詐欺師をテーマにした話なのですが、アニメならではの表現を観ていただきたいですね。5月公開の実写映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』ともども古沢さんが作り出すストーリーを楽しんでいただきたいです」

 深夜アニメ枠である「ノイタミナ」と「+Ultra」とのコンセプトの違いを尋ねると、こう説明してくれた。

「もともと『ノイタミナ』はドラマを観るようにアニメを観てほしいというコンセプトだったために、ドメスティックなテーマが多かったのですね。それに対して『+Ultra』は最初から世界に向けたタイトルをという方針だったので、比較的ファンタジーやSFが多いかもしれません。ネットフリックスと組んだのも世界への発信にこだわったためです。またクオリティにもこだわっており、半分以上のラインナップが3DCGアニメになっています」(同)

  

 展開が重層的なのがフジテレビのアニメ・コンテンツ戦略の特徴だが、アニメと実写を連動させるという『約束のネバーランド』がどういう展開になるのか注目される。

 『創』の特集では、アニメについて、ほかにテレビ東京やテレビ朝日の最新の動きを取材して取り上げている。

 最近顕著な動きを見せているのはNHKやテレビ朝日だ。NHKは以前から『キングダム』などアニメを放送してきたが、最近も『映像研には手を出すな』など、次々と話題を提供している。またテレビ朝日は、昨年の秋改編で『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』を週末に移行させるとともに、この春に新たな深夜枠を開設した。

 マンガ・アニメをめぐるコンテンツ戦略が今後どう展開されていくのか注目される。

※『創』5・6月号マンガ・アニメ特集の詳細は下記を参照のこと。

https://www.tsukuru.co.jp/gekkan/2020/04/202056.html

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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