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オウム松本元死刑囚を拘置所で間近に見ていた獄中者から届いた手紙の気になる内容

篠田博之月刊『創』編集長
(写真:ロイター/アフロ)

 オウム死刑囚13人の執行をめぐっては、時間がたてばたつほど疑問が膨らんでくる。

 最近、獄中者から届いた手紙をまず紹介しよう。

《最近のニュースで本当に頭にきているのはオウムの死刑執行です。彼ら13人のやったことは責任を取らねばならないのは当たり前だと思います。しかし、私は麻原が執行前に遺体を四女にと言ったという報道には怒りを通り越して笑ってしまいました。東京拘置所に入所中、私の面会連行の時に、車いすの麻原氏を警備隊の人間が15~20人くらいで完全に囲んで見えないようにして移動しているのを自分の目で何度も見ています。人間の姿ではないという印象で、それがそんなふうにしゃべったというのはありえないと思います。東拘の発表は、密室なのをいいことに都合よく……国がこういうデタラメをやっていることに何とも言えない気持ちになりました。

 私は東拘では死刑囚の舎房があるフロアーに入っていたので、新實さんと土谷さんの2人は1年間、舎房が隣でした。毎日、会釈をして、笑顔でしたので、死刑は当然かもしれませんが、何とも言えない気持ちになりました。》

 この手紙の主が誰かは明かせないが(明かしたらそれ自体驚愕なのだが)、松本元死刑囚が執行直前に係官に話したという内容については、多くの人が疑問を呈している。手紙では東京拘置所が発表したと書かれているが、実は正式な発表は何もない。個別にマスコミの取材に応じて語られた内容があれだけ一斉に報じられているのだが、前回、ヤフーニュースに載せた松本家の二女三女サイドの話にあるように、事実関係についてはどうもよくわからない面がある。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180814-00093020/

オウム松本元死刑囚「遺骨」問題に国家の意思が働いたとしか思えないこれだけの事情

 国家の側が、平成時代の間にオウム事件にケリをつけようと早い時期から準備していたと思われる事情はいろいろ明らかになりつつある。昨年、再審請求中の死刑執行の前例を作り、今年3月には「遺体引き取りは死刑囚本人が指定した者とする」という法務省通達がわざわざ出されたというのは、今から振り返ると、明らかな意思のもとに着々と準備が行われていたと思わざるを得ない。

 そのあたりの事情については、月刊『創』9月号の特集「オウム死刑執行の衝撃」の中で、松本元死刑囚のかつて弁護人だった安田好弘弁護士が語っているので、その内容をヤフーニュース雑誌で公開することにする。この安田弁護士の話では、3月のオウム死刑囚移送からどんなことが行われていたか、興味深い経緯が明らかにされている。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180822-00010000-tsukuru-soci

100年以上前に戻ったオウム13名の大量死刑執行

 この『創』9月号のオウム死刑執行の大特集はいろいろな反響を呼んでいるので、ぜひ現物を読んでほしいが、特集内容の詳細は下記のホームページをご覧いただきたい。

http://www.tsukuru.co.jp

 その『創』の発売当日に新實智光元死刑囚の妻から電話があり、いろいろ話をした。彼女のメッセージがその特集に掲載されているのだが、新實元死刑囚への批判はともあれ、死刑執行という現実について遺族から話を聞くとやはりその重さを感じざるを得ない。彼女によると、夫である新實元死刑囚は死亡診断書を見ると、16分間以上吊るされていたことになるという。

 さて、オウム死刑執行の意味やオウム事件について考えるために8月24日に大きな集会を予定していることは既にいろいろなところで告知している。8月22日に東京新聞が告知記事を載せてくれたおかげで『創』編集部に電話が来ているのだが、さきほど電話してきた年配の女性は、今回の死刑執行については納得できないこともあるので関心を持っていると熱く語っていた。でも、その電話の数分後、また電話があって、オウムについての集会に行くと娘に話したら「そんな危ないところに行って大丈夫?」と心配されたという。別に集会自体は何も危なくないので(笑)、多くの人に参加して一緒に議論してほしい。

 松本元死刑囚に拘置所で面会して意見書を提出した精神科医の野田正彰さんにはわざわざ京都からおいでいただいて、松本元死刑囚の精神状態がどうだったのか改めて聞く予定だし、松本サリン事件被害者の河野義行さんもわざわざ遠方からおいでいただくことになっている。今回のオウム死刑執行がどうだったのか、13人もの例のない大量執行という事態について我々はそれをどう考えどう受け止めるべきなのか、ぜひ一緒に考えてほしいと思う。森達也さんや有田芳生さんら発言者も十数人にのぼる。集会の詳細と予約申し込み先は下記からアクセスできる。

http://www.aum-shinsokyumei.com/2018/08/10/post-756/

「死刑執行に抗議し、オウム事件についてもう一度考える」集会

 オウム死刑執行をめぐる問題については9月に私の属する日本ペンクラブでも取り組む予定だし、今後もフォローし、発信していきたいと思っている。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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