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「ポピュリズム」でアフリカゾウが危ない

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 米国の魚類野生生物局(United Sates Fish and Wildlife Service、以下、FWS)は内務省の中にある野生生物の保護と管理を扱う組織だが、11月16日に来年2018年いっぱいまでの間、ジンバブエからのアフリカゾウの象牙などの輸入を許可すると発表した。米国ではスポーツハンティング(トロフィーハンティング)が盛んだが、稀少生物自体はもちろん、アフリカで狩猟した野生生物の毛皮や象牙などの「トロフィー」はワシントン条約で商取引が禁止または規制されている。

トロフィーハンティング解禁か

 FWSではワシントン条約加盟国の輸出許可が出なければ、これらの獲物を米国に持ち込めず、さらに米国へ持ち込む際にも輸出国の書類などを確認する、としている。だが、これは実質的にトランプ政権が、スポーツハンティングの獲物としてのアフリカゾウを米国へ持ち込みすることを解禁した、と言える。アフリカゾウまるごとは難しいだろうから、こうした獲物は「トロフィー」としての象牙や頭部の剥製、足などのことだ。

 ジンバブエといえば、長期政権を敷くムガベ大統領に対する政変が起き、大きく揺らいでいる国だ。筆者も一度、まだハイパーインフレになる前のジンバブエに行ったことがあるが、人々は穏やかでムガベ政権の経済政策の成果が確かに出ているように感じた。

 また、ジンバブエなどのアフリカ諸国では、スポーツハンティングを外貨獲得の手段として活用している。数年前には、ジンバブエで「最も有名なオスライオン」として知られていたセシルが国立公園保護区の外へ誘き出され、スポーツハンティングによって殺され、国際的にも批判された。南アフリカにはスポーツハンティングのための「ライオン牧場」もあり、欧米などの富裕層が大金を出して繁殖されたライオン狩りをするのが普通のビジネスになっている。

 今回、米国FWSの発表では、スポーツハンティングはむしろ生物多様性を確保し、生態系や種の保存に役立つ、としている。人間と野生生物との共存はたやすいことではない。実際、稀少生物とは言え、増え過ぎた個体を「間引く」ことはある。

 この点でゾウはなかなか評価が難しい生物だ。広大な移動を必要とするゾウは、限定的な国立公園保護区から頻繁に外へ出て農作物を荒らし、人間との間で軋轢を生じ、あるいは人間を殺したりする。先日も子どものインドゾウが火のついたタールを浴びせかけられ、現地の人々から追い立てられるインドでの映像が世界にショックを与えた。

 現在、約30万頭いると推定されるアフリカゾウについて言えば、全体の頭数がこの10年間で30%以上も減少し、国際自然保護連合(IUCN)レッドリストでは「脆弱性(VU)」のある絶滅が危惧されるカテゴリーとなっている。母系集団を形成するアフリカゾウは、年長のメスがリーダーになって水のある場所などを求めて移動することが多い。象牙の標的にされるのは年長のゾウが多いので、密猟によってリーダーを失った集団が生態を変えたり子育てが難しくなるなどの危険性も指摘されている。

 ジンバブエ政府のアフリカゾウ保護管理計画(Zimbabwe National Elephant Management Plan:2015-2020)によると、ジンバブエのアフリカゾウは増えているのでスポーツハンティングによるビジネス展開を視野に入れた保護をしているようだ。一方、動物保護団体などは、今回の米国FWSの決定は危機に瀕しているアフリカゾウの現状を認識していないもので、稀少な野生生物の保護に関して間違ったメッセージを送る危険性があると批難している。

ポピュリズムは自然保護を弱める

 ところで、米国コロラド州立大学などの研究者が「ポピュリズムの世界的な隆盛は、自然保護や野生生物保護への動きを弱めかねない」という内容の論文を出した(※1)。政治的な変化が環境保護政策に影響を与える、というこの研究では、米国19州の1万2673人にアンケート調査し、野生動物との共生、保護管理、政策的なアプローチ、1990年から2016年までの選挙行動などについて評価分析している。

 密猟されるゾウの例にみるとおり、人間と野生生物との共生には大きな利害対立がある。アフリカのほとんどの国は発展途上の貧困国で、経済的な利益のほうが自然や野生生物の保護よりも優先する。人間と野生生物との間に軋轢があれば、どちらを優先させるのか、という葛藤が生じるだろう。

 研究者は、1990年代は自然や野生生物の保護に対する関心が増していたが、2004年の調査では逆に人間と野生生物との間の軋轢を強調する調査結果になった、と言う。トランプ政権はポピュリズムで誕生したのは事実だろう。英国のEU離脱やイタリアの「五つ星運動」、オランダの自由党など欧米でポピュリズムやポピュリズム政党が躍進しているし、日本の安倍政権も一種のポピュリズム政権と言える。

 グローバリゼーションや多様性が求められ、世界中で価値観や利害が衝突し、それはなぜか政治的にポピュリズムという形で表面化する。目先の利益や耳障りのいい言葉に強く影響される政治状況では、とても自然や野生生物の保護などと主張していられない、というわけだろう。今回の米国FWSの決定は、果たしてトランプ政権のポピュリズムによるものなのだろうか。

※1:Michael J. Manfredo, Tara L. Teel, Leeann Sullivan, Alia M. Dietsch, "Values, trust, and cultural backlash in conservation governance: The case of wildlife management in the United States." Biological Conservation, Vol.214, 303-311, 2017

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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