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中国、米規制下も高度半導体の製造続行 今度は5nm製造ライン準備中

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

中国の半導体受託生産最大手である中芯国際集成電路製造(SMIC)は現在、米国政府による先端半導体技術の輸出規制対象となっている。しかし、ここ数カ月、同社はこれまで見られてきたよりも高度な半導体を製造しているようだ。

より微細な5nm半導体目指す

同様にして、先端半導体製品の輸出規制を受けている中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は2023年、5G(第5世代移動通信システム)への接続機能と、7ナノメートル(nm)技術で製造された半導体を搭載したスマートフォン「Mate 60 Pro」を発売した。この半導体はSMICが製造したとみられている。

7nmの製造プロセスは最先端技術ではないが、半導体業界では依然として高度な技術とみなされている。米国の制裁下にありながら、高度半導体を自国で製造できるその技術力に関心が集まっていた。

英フィナンシャル・タイムズ(FT)は24年2月、SMICがファーウェイの新型スマホ向けに、新たな半導体の製造ラインを組み立てていると報じた。その製造プロセスは5nmであり、米アップルの最新高価帯iPhoneに用いられている3nmに比べて劣るものの、SMICにとっては一層の進歩を意味すると指摘されている。

オランダASMLのEUV露光装置が不可欠

7nmプロセスには、オランダの半導体製造装置大手ASMLが手がける極端紫外線(EUV)露光装置が必要になるといわれている。

一方、バイデン米政権は23年10月、中国に対する米国製先端半導体の輸出規制を強化する方針を明らかにした。米政権は、他国にも同様の制限を課すよう促しており、オランダ政府はこれに応える形で23年、先端半導体製造装置に対する輸出制限を正式に導入した。では、SMICはどのようにして7nmや5nm半導体を製造できるのか。

米CNBCによると、専門家は、SMICが旧式の製造装置を使って高度な半導体を製造している可能性があると指摘している。FTも、SMICの計画を知る2人の情報提供者の話として、SMICが既存の米国製・オランダ製半導体製造装置を使用して、より微細な5nm半導体の製造を目指していると報じている。

SMICの新たな生産ラインでは、ファーウェイ子会社で半導体設計を手掛ける海思半導体(ハイシリコン)が設計した「Kirin(キリン)」と呼ばれるSoC(システム・オン・チップ)を製造し、それをファーウェイ製新型スマートフォンに搭載するのだという。

旧式装置には2つの課題

CNBCは専門家の話として、SMICが既存の露光装置を利用し、外部の専門知識を取り入れることで、先進ノード(製造技術の世代)プロセスにおける歩留まりを向上させていると報じている。ただ、 旧式の装置を使って先端半導体を製造するには、2つの課題があるとCNBCは指摘している。

1つは、最新装置を用いる場合に比べ製造コストが高くなること。もう1つは歩留まりが低下することである。FTによれば、SMICが5nmや7nmプロセスで製造する製品の価格は、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が同じプロセスで製造する製品の40〜50%高くなる。

インドのタクシャシラ研究所のハイテク地政学プログラム委員長であるプラナイ・コタスタニ氏は、中国は資金を投入し続ければ歩留まりを改善できるかもしれないが、ASMLのEUV露光装置を入手できなければ、より高度な世代の半導体になるにつれて、コストは上昇し続ける、と指摘する。

「コスト上昇は半導体の世代が進むにつれて大きくなる。中国がEUVに関して、有効な代替策を見つけない限り、コストは累積的に増加する」(同氏)

筆者からの補足コメント:
少し経緯を振り返ります。2019年、当時のトランプ米政権はファーウェイを安全保障上の脅威とし、同社に対する禁輸措置を講じました。ファーウェイは半導体など重要部品の供給制約を受けて、スマホ事業が壊滅的な打撃を受けました。当時ファーウェイが自社設計したスマホ用半導体は、台湾のTSMCが製造していました。しかし、米政府による禁輸措置で、TSMCからの供給が途絶えたファーウェイは、しばらくスマホ市場の表舞台から消えていました。ところが、昨年、Mate 60 Proを発売し中国市場で復活しました。そのMate 60 Proに搭載された半導体を製造したのがSMICです。では、どうやって?ということが謎でした。今後徐々により詳しい情報が出てくるかもしれません。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年2月15日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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