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月面着陸機「SLIM」の運用終了を発表 日本初の月面着陸、3回の越夜に成功した驚異的な成果を残す

SLIM月着陸時の画像 出典:JAXA/タカラトミー/ソニーグルー/同志社大学

JAXAは8月26日、月面着陸機「SLIM」の運用を終了することを発表しました。SLIMは1月に日本初の月面着陸、そして4月には3回目の越夜に成功してから、その後応答が途絶えていました。本記事ではSLIMの現在に至るまでの状況や、達成した素晴らしい成果について解説していきます。

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■SLIMは2024年4月までに3度の越夜に成功

SLIMは1月20日に月面のSHIOLIクレーターへの着陸に挑戦し、見事成功しました。月への着陸したのは日本として初めてであり、世界ではアメリカ、ソ連、中国、インドに続き、5か国目に月着陸を成功させた国となりました。

SLIMは、月面への降下中に二つのメインエンジンの内一つが脱落し、推進力が失われてしまったため、月面着陸後は正常通り太陽電池による発電ができない状況でした。バッテリーを駆動することで地球との通信を行っていましたが、枯渇する前に電源をオフにし探査機を温存することを選択。

その後、月の自転運動により太陽電池へ太陽光が徐々に照射され始め、1月28日に発電が再開されたことが確認されました。SLIMは搭載質量やサイズ、消費電力の観点などから、月面での越夜に対応できる設計にはなっていません。また、月面での越夜は技術的に難しいことで知られており、月面の温度差は非常に激しく、日照は約110度、日陰はマイナス170度と、なんと300度近い温度差があるのです。その後、SLIMは4月までに3度の越夜に成功するという歴史的な快挙を遂げました。

そして、5月中旬には大規模な太陽フレアが発生。その因果関係は不明とのことですが、SLIMは5月以降から通信が確立しない状態が続いていました。

■SLIMが達成した様々な偉業

①小型月面ロボットによる探査

変形型月面ロボット「SORA-Q」出典:JAXA
変形型月面ロボット「SORA-Q」出典:JAXA

SLIMは月への降下中に、二つの小型月面ロボットを月面へ放出しています。その内の一つである「SORA-Q」は、着陸後のSLIMの撮影に成功しており、世界で最小・最軽量の月面探査ロボットとなりました。二つのロボットの活躍により、日本初の月面探査ロボットであること、そして世界初の同時月面探査を達成するという大きな成果も挙げています。

②超高精度ピンポイント着陸

SLIMの目的はただの月面着陸ではなく、降りたい場所に高精度に狙って降りる「ピンポイント着陸」を実証することでした。例えばNASAのアポロ着陸船は、着陸精度が10km以上です。一方でSLIMは、月のクレーターを撮影することで自分の位置を把握する「画像照合航法」という技術を駆使し、目標地点に対し55mの精度で着陸ができたとの発表がありました。

③月面の画像データ取得にも成功

SLIMが撮影した月面の風景 出典:JAXA
SLIMが撮影した月面の風景 出典:JAXA

SLIMはマルチバンド分光カメラという特殊な装置を搭載しており、着陸後に月面で撮影した画像などのデータも地球へ送信することに成功しています。実は、月はいまだに起源が解明されていません。過去に惑星が地球に衝突し、その破片が集まって月ができたとする「ジャイアント・インパクト説」が有力ですが、月と地球の成分がほぼ同じであるため物質科学的な矛盾を抱えているのです。今回の分光カメラの成果が、月の起源の解明に繋がる事を期待しています。

たくさんの偉業を成し遂げたSLIM、開発・運用に携わられた関係者の皆様、本当にお疲れさまでした。

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