意思決定プロセスにおける「アイドリング状態」とは? 企業経営にも「アイドリングストップ」機能を!
意思決定スピードが遅くなる2つの要因
私の仕事は現場に入ってコンサルティングすることです。知識やノウハウを伝授することを目的とせず、結果を出すことで対価をいただいております。したがってコンサルティングする際、常に気に掛けているのが支援先企業の「意思決定スピード」。総じて意思決定スピードが遅い組織は結果を出すことが困難だからです。
それでは、なぜ意思決定スピードが遅くなってしまうのでしょうか? 私は2つの要因を常に頭に入れています。
1)誰かが意思決定を止めている
2)意思決定プロセスが空回りしている
1)は、ある特定の人物、もしくは部署が意思決定を先送りしてしまっている状態を指します。多かれ少なかれ、どこの会社、組織においても見受けられることでしょう。
2)は、とりわけ大企業に見られる現象です。意思決定プロセスに多くの人物が関与し、いろいろな視点、多様な角度から議論がなされ、人間的なしがらみ、政治的な思惑など、複雑な事情も重なって、決まるものがなかなか決まらないという状態を言います。
意思決定プロセスが空転し始める「一言」とは?
2)の状態に陥ってしまうのは様々な原因があるでしょうが、意外と誰かの何気ない一言が発端であることが多いようです。
「部長には聞いたのか? こういうことは部長の意見も聞いておかないと」
あるキーパーソンの何気ないこの一言がキッカケで、意思決定プロセスが空転しはじめるのです。
名指しされた部長を訪れると、
「どうして私に質問しにきたんだ? 私よりもこういうことは専務に聞きたまえ」
専務に聞いたら専務に聞いたで、
「話の主旨がよくわからない。それに人に説明するには、それなりの資料を準備しておくのが筋だろう。そういうことも君はわからないのか?」
このように言われ、「それではどんな資料を作ったらいいのか」と最初の上司のところへ泣きついても、「専務がどういう資料を作れと言ってきたんだ? それがわからない限り私もアドバイスできないだろう。それにどうして君は専務のところへ行ったんだ?」などと言われてしまう始末。決まりかけていた事柄が、ちょっとしたことで暗礁に乗り上げてしまうものです。
事業プランニング、新たな投資、人材育成、プロジェクトのキックオフ、社内説明会……。些細なことでも、なかなか決められず私たちコンサルタントが「待ちぼうけ」をさせられると、当然、私たちの支援は先に進みません。
個人個人はとても優秀で、悪意をもって意思決定を遅らせようとしているわけではありません。マジメだからこそいろいろな人の意見に耳を傾け、誰も傷つかないように入念な根回しを施そうとします。
「アイドリング」は、ほどほどに
「私がいいと言ったらいいんだ。私が責任を持つ。やろう!」
と誰かが言わない限り、空回りを続けるのです。私はこの状態のことを「アイドリング状態」もしくは「アイドリング中」と呼んでいます。
意思決定プロセスに関わる者すべてが動き回っているにもかかわらず、いつまで経っても前進しないからです。私と部下はよくこのフレーズを使います。
私が部下に「社長へのプレゼン日程は決まったのか?」と質問すると、「まだアイドリング中です」と返ってきます。「プレゼンの中身は理解されているんだろうな」と聞いても「それもアイドリング中です」と。「どうしてだ? 事業部長には了承を得ているんだろう?」と言うと、「実はそれがアイドリング状態のようなんです」などと……。
現場は動いているのに、上層部がいつも「アイドリング状態」だと、会社の機能は空転し続けます。
滑らかに動作させるため、一定の時間、負荷をかけず装置を稼動させることをアイドリングと呼びます。組織において何らかのスタートを切るためには、少しばかりの「アイドリング」は必要かもしれません。組織に冷えた空気が漂っているのに、新しいことをしようと強引に進めてもうまくいかないときがあるからです。
企業経営にも「アイドリングストップ」機能を!
ただアイドリング状態では、エネルギーの無駄遣いが続きます。あまりに長い「アイドリング」はやめましょう。そうでないと、結局は、
「時期尚早だから」
「決め手に欠ける」
などといった理由で、意思決定自体を先送りしてしまうこともあるからです。さんざん「空ぶかし」だけしてエンジンを切ってしまうようなもの。これでは、「アイドリング」に付き合わされただけの同乗者が前向きになることはないでしょう。
「アイドリング」が長すぎるとエネルギーの無駄遣いです。意思決定スピードが遅く、いつまで経っても前進しない企業は「アイドリングストップ」を合言葉に、一定期間の「アイドリング」を終えたら、ギアを入れてアクセルを踏んではいかがでしょうか。