シリアのガス・パイプラインに対するテロの犯人はイスラーム国か、それとも政府の譲歩をめざす誰かか?
ガス・パイプラインで大規模な火災
シリアのダマスカス郊外県で8月24日未明から早朝にかけて、ガス・パイプラインで大規模な火災が発生した。
火災が起きたのは、ドゥマイル市とアドラー市の間を通過するアラブ・ガス・パイプラインの主線。
アラブ・ガス・パイプラインはエジプトのシナイ半島から、ヨルダン、シリア、レバノンに天然ガスを供給するパイプライン。全長は1,200キロに及ぶ。
火災により、ダマスカス郊外県のダイル・アリー火力発電所、ナースィリーヤ火力発電所など、各地の発電所に供給されていたガスの圧力が低下し、発電不能となった。
民間防衛消防隊(民間防衛隊を名乗るホワイト・ヘルメットではなく、正規の消防隊)の消火作業によって、火は午前中に収まり、その後、石油鉱物資源省や電力省などの職員が復旧作業にあたった。だが、この間、シリア全土が停電に見舞われた。
政府は「テロ行為」による火災と断定
アリー・ガーニム石油鉱物資源大臣は火災発生直後に報道声明を出し、「南部地域に供給されるガス・パイプラインの主線が、テロ行為と思われる攻撃に晒された」と述べ、テロの可能性を疑った。
その後ほどなくして、シリア政府はテロ行為による爆発だと断定した。
なお、この地域のパイプラインが攻撃を受けたのは今回が6度目だという。
消火直後に主要閣僚とともに現場を視察したフサイン・アルヌース首相は次のように述べた。
制憲委員会で政府の譲歩を引き出そうとする者の犯行か?
また、イマード・サーラ情報大臣は、スイスのジュネーブで8月24日に再開が予定されていた制憲委員会(憲法委員会)での会合に合わせたものだとの見方を示し、こう述べた。
制憲委員会は、2018年1月30日にロシアの避暑地ソチで、シリア社会の代表や国外の反体制派など1,446人が出席して開催されたシリア国民対話大会で設置が合意された組織。
国連安保理決議第2254号、米国とロシアを共同議長国として国連が主催してきた和平プロセスのジュネーブ会議、そしてロシア、トルコ、イランを保障国とする停戦プロセスのアスタナ会議の決定に基づく、政治移行と紛争和解を推し進めるうえでの主軸とみなされている。この政治移行においては、政府と反体制派によって構成される移行期統治機関の設置、新憲法制定(あるいは改正)、自由な選挙の実施を経た紛争解決が推し進められることになっている。
2019年10月末から11月初めにかけて、政府代表50人、反体制派(交渉委員会)代表50人、市民社会代表50人の計150人が参加して第1回の会合が開催された。だが、その後、議題をめぐって対立が露呈し、会合再開の目処が立たなくなった。また2020年3月に新型コロナウイルス感染症が拡大したことで、会合は延期を余儀なくされていた。
なお、8月24日に再開予定だった会合は、シリアからジュネーブ入りした出席予定者4人の新型コロナウイルスへの感染が確認されたため延期となった。
感染者がシリア政府、反体制派、市民社会のいずれの代表かは不明。
米国はイスラーム国の関与を疑う
一方、ジェームズ・ジェフリー米国務省シリア問題担当特使は、ダマスカス郊外県でのガス・パイプライン爆破に関して、制憲委員会の再開に合わせて現地入りしているスイスのジュネーブで記者団に対し「我々は今も事態について検討中だ。だが、ほぼ確実にISIS(ダーイシュ(イスラーム国))の攻撃だった」と述べた。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)