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JRAの今年最初のレースを制した武豊騎手が、あるテレビ番組を見て、感じた事

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
1月5日、JRAの今年最初のレースを制した武豊騎手

今年最初のレースで1着

 1月5日。中山競馬場での第1レースで、2023年のJRAが幕を開けた。

 本来なら関西で乗っていておかしくない武豊だったが、中山金杯(GⅢ)での依頼を受けていたため、中山で騎乗スケジュールを組んだ。ところが金杯を予定していたその馬は爪を傷めて、回避。結果、メインレースに乗り馬がいないのに、中山での騎乗となった。

 すると、開幕を告げるこの第1競走を、シュバルツガイストに騎乗して勝利。思わぬ形で今年、最も早くウイニングピクチャーに収まる事になったトップジョッキーに対し、そこかしこで「さすが!」の声が囁かれた。

 現在53歳の大ベテランは言う。

 「人が勝手に区切った年度が変わっただけで、やる事がリセットされるわけではありません。今年も同じようにやっていくだけです」

1月5日、中山競馬場の第1Rを先頭でゴールへ向かうシュバルツガイストと武豊騎手
1月5日、中山競馬場の第1Rを先頭でゴールへ向かうシュバルツガイストと武豊騎手

10年以上前に見たテレビ番組

 デビュー37年目。現役でいながら伝説へと昇華するジョッキーは「10年以上前に偶然見た」というテレビ番組について、語った。

 「当時で70歳くらいの男性が紹介された番組でした」

 その男性は豆腐屋さんだったという。

 「毎朝、早くに起きて、冷たい水に手を入れて豆腐作りをする。そんな様子を紹介していました」

 その時のナレーターのセリフに、ハッとしたと続ける。

 「『その作業を来る日も来る日も50年続けている』と言っていました。それも、ただ同じ作業をしているわけではなく『時代に合わせて少しずつ作り方を変えている』と……」

 それを聞き、武豊は次のように感じたと言う。

 「自分なんかまだまだだな……」

 10年以上前の話といえ、その時点で武豊は競馬界では既に唯一無二の存在として君臨していた。そんな彼をして、そう感じたと言うのだ。

 「しかもその人は決してスポットライトの当たる立ち位置ではないわけです。果たして自分が同じ立場でそれだけ長きにわたって同じ事をやり続けられるかな?と考えたら、自然とまだまだだな、っと思えたのです」

 無言の雄弁さをひしと感じたという事だろう。

 そういえば、4年前の19年にはこんな事があった。この年、武豊は、最初の2日間で6勝。開幕ダッシュを決めた。そんな彼に「また200勝してくださいね!」と声をかけると「200勝ですか?! 何を言っているんですか……」と言った後、更に続けた。

 「何を言っているんですか……。300勝ペースですよ」

19年、開幕ダッシュを決めた際の武豊
19年、開幕ダッシュを決めた際の武豊

 果てなき向上心を感じさせるそのセリフは、すなわち自らを「まだまだ」と位置付けているからこそ出て来る文言なのだろう。

 先述した通り、デビュー37年目の大ベテラン。変わらず戦い続ける彼は、果たして2023年、どんなドラマをプロデュースしてくれるのだろう。楽しみにしたい。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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