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「ウマ娘」の新作「熱血ハチャメチャ大感謝祭!」で感じたコンテンツの可能性

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」

 スマホゲームで大ヒットし、テレビCMなどでもすっかり目に付くようになった「ウマ娘」シリーズの新作「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」が、スマートフォンではなく、ニンテンドースイッチ、PS4、Steam(PC)向けに8月30日に発売されました。「ウマ娘」に熱狂したこともあり、気になってプレーしてみましたが、コンテンツの可能性を感じさせるものでした。

◇「ウマ娘」知らない小学生が反応

 「ウマ娘」は、ゲーム、アニメ、マンガで展開するマルチメディアプロジェクトで、実在の競走馬の名前と魂を受け継ぎ、ウマの耳と尻尾を持つ可愛らしい美少女「ウマ娘」たちが、レースに挑むという内容。2021年に配信したスマホゲームが、競馬・ゲームの両方のファンをうならせて大ヒットしました。

 発売された新作「熱血ハチャメチャ大感謝祭!」は、ウマ娘たちが、変則ルールのバスケットボールや、ドッジボールなどをするアクションゲーム。駆け引きはもちろん、必殺技を繰り出せる一発逆転の要素も組み込んでいます。最初は「ウマ娘のファン向けゲーム」と見ていました。基本はそうなのでしょうが、「ウマ娘」に関心のない家族の反応がかなり良かったことには、正直驚きました。

 収録ゲームのうち、特に反応が良かったのはレースゲーム「ファン感謝祭 大障害」。レースなので目標(1位)が分かりやすく、コースに落ちているアイテムを拾う、建物を破壊するなどの派手な演出も受けています。コースを覚えると上達が実感できるのもポイント。壁に取り付き、障害物につまずいて転ぶ(タイムロス)姿に笑ってしまいました。これは競馬やキャラを知らずとも、誰もが……家族で楽しめるパーティーゲーム。操作を知らずとも直感でプレーできる点も評価できます(もちろん知る方がより楽しめますが)。

「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」内のレース「ファン感謝祭 大障害」。建物の壁をぶち壊す、高速ダッシュなどの演出なども巧み。
「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」内のレース「ファン感謝祭 大障害」。建物の壁をぶち壊す、高速ダッシュなどの演出なども巧み。

 さらに言うと、番外編のような扱いのシューティングゲーム「ゴルシちゃんの大冒険2」もあなどれません。敵を倒し、障害物を避けてゴールを目指す内容で、グラフィックはファミコン時代のテイストなのですが、アイテム収集・育成の仕掛けもあり、繰り返してプレーする“麻薬的”な楽しさがあります。操作キャラ・ゴールドシップ(ゴルシちゃん)のせりふも良く練られていて、その点も好感が持てます。

「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」内のゲーム「ゴルシちゃんの大冒険2」。ファミコン時代を思い出させる演出。
「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」内のゲーム「ゴルシちゃんの大冒険2」。ファミコン時代を思い出させる演出。

 それまでスマホゲームばかり遊んでいた小学生の息子が、「ウマ娘」というワードを連呼し「遊ばせろ」と要求する想定外のことが起きました。スマホの「ウマ娘 プリティーダービー」には、興味を示さなかったのに……。良くできたゲームでは起こりうることなのですが、まさかキャラゲーの「ウマ娘」で起きるとは。ファミコンの面白いゲームを遊ぶ時も、そんな感じだったなあと懐かしく思いました。

◇コンテンツ強化のために必要なアプローチ

 要するに「ウマ娘」というコンテンツを使い、違う雰囲気・タイプのゲームにしておき、それでいて誰もが遊べるなどゲーム自体の完成度を高くしていることです。そして「ウマ娘」以外のファンでも、遊びさえすれば興味を持てるようにしているのではないでしょうか。

 新作「熱血ハチャメチャ大感謝祭!」は、スマホの「ウマ娘 プリティーダービー」のグラフィックとは一転して、キャラが二頭身のドット絵です。そしてドット絵だと、女性の視点でも抵抗感がないそうです。

 本編「プリティーダービー」は、競走馬を擬人化して美少女キャラクターにし、レースの完成度が高い競馬シミュレーションゲームです。競馬ファンも男性が多いわけで、そこに美少女という要素が入れば、ファン層も似たものになります。さまざまな要素を深掘りし、コアファンが驚くような完成度の高いコンテンツに仕上げる。もちろん、その戦略は正しいでしょう。

 そして新作では、万人向けにしたことをことさらアピールせず、さりげなく戦略を変えています。そもそも男性向けコンテンツでも、女性や子供に関心を持たれること、好感度を高めることは、コンテンツにとって決して損ではありません。「ウマ娘」のイメージアップになるのは、確かでしょう。

 商品の特性上、「ウマ娘」のファン以外がこぞって買うという流れにはなりづらいのはもちろんです。ただそれだけで終わらせるのは惜しい、もったいないアクションゲームに仕上がっています。アクションゲームというと、「指さばき」のような器用さが求められると思われがちですが、アクションゲームがうまくない人でも、楽しく遊べ、上達を目指したくなるのです。

 「熱血ハチャメチャ大感謝祭!」を、「ウマ娘」ファン以外のライト層に認識させることができるか。それは相当の難題でもあります。ただしネットの口コミで流れが変わることもあり、興味深く見守っています。同時に今回の「ウマ娘」のようなアプローチは、コンテンツの強化、寿命を延ばす観点からも必要でないかと思う次第です。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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