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すべてをさらけ出し実体験を基に、在日コリアンの歩みを描く。受け継ぎたかった亡き師匠の人としての心

水上賢治映画ライター
「北風アウトサイダー」の崔哲浩監督  筆者撮影

 俳優で劇団主宰者でもある崔哲浩が、自身の体験を基に、ある在日コリアン家族の山あり谷ありの歩みを描いた映画「北風アウトサイダー」。

 本作は、確かに在日コリアンに対する偏見や差別といったセンシティブな内容が含まれている。

 ひとつの社会派ドラマにもとらえられないことはない。

 ただ、それ以上に伝わってくるのは、崔監督の映画に対する情熱にほかならない。

 「出し惜しみは一切なし。初監督で自分のやりたいこと、描きたいことはすべて作品に注ぎこんだ!」といった監督の思いのたけが作品にあふれている。

 そして、その監督の思いに応えた俳優たちがそれぞれの役で大きな存在感を放つ。

 初監督作を完成させ、劇場公開を迎えたいま、何を思うのかを、崔監督に訊く。(全四回)

人って、人との関わりあいの中でしか成長しないのではないか

 前回(第一回)は映画を作ろうと思い立ったきっかけについて語っていただいた。

 その映画を作るにあたり、崔監督は4つのテーマを掲げている。

 この4つのテーマについて、今回は訊く。

 ひとつ目に掲げたテーマは「人間とは?」ということ。その真意をこう明かす。

「いま、43(歳)なんですけど、40代ってようやく気持ちとキャリアが噛み合うっていうか。

 仕事にしてもなんにしても、ひとつひとつをきちんと受けとめてから向き合うことができる。

 なんでも勢いだけでいってしまう若いころをようやく抜けて、やっと地に足をつけて物事を判断できるようになるバランスがいい時期だと自分で思ってるんです。

 まあ、僕がなかなか大人になれなかっただけで、『40代でやっとか』といわれそうですけど(笑)。

 そういう中で、コロナ禍は、前も少しお話ししたとおり、いろいろなことを考える時間になりました。

 その考えたことのひとつに、『人間とは?』というのがあったんです。

 どういうことかというと、コロナ禍で僕だけじゃないですけど、もうみなさん気軽に人と会えなくなった。

 そうなったとき、もちろん会えない辛さや寂しさもありましたけど、僕は、やっぱり人って、人との関わりあいの中でしか成長しないのではないかと、すごく感じたんですね。

 つまり他者と関わることで、さまざまなことを体得して成長していく。

 もちろん本とか映像とかで学んで、成長することもあるでしょう。でも、人に勝るものはないのではないかと。

 でも、現実の社会では、核家族化が進み、今回のコロナ禍のようなことも起きて、人と人の関係がすごく希薄になっている。

 このままでいいのかなと思って、『人間とは?』『人間らしさって?』『人と人が向き合うことって必要じゃないか?』と問いたかった。

 そういうことで、人と人の関わりを大切に描きたいと思いました」

「北風アウトサイダー」の崔哲浩監督  筆者撮影
「北風アウトサイダー」の崔哲浩監督  筆者撮影

人としてのほんとうの『愛』や『優しさ』がどこにあるか、提示したい気持ち

 二つ目のテーマに「愛とは?」を掲げている。

「これを言葉にするのはなかなか難しい。

 これも僕はよく考えるんですよ。『愛ってなんだろう』と。

 異性の愛だったり、同性の愛だったり、さらに広げて、人類愛とか、愛といってもいろいろある。

 たとえば、劇中に清田というヤクザが登場しますけど、彼は幼いころから一緒だったヨンギをいまでも悪友と思っている。

 この友情もひとつの愛。

 この映画に登場する家族は、いろいろとすれ違い、行き違い、時に激しくケンカになってしまうこともある。でも、そこにも確実に愛が存在していて、愛しているがゆえにいがみ合うこともある。

 そういうざまざまな愛の形を描きたいなと思ったんです。

 それはなぜかといったら、やはり愛のある物語にしたかった。そして、人としてのほんとうの『愛』や『優しさ』がどこにあるのか、ちょっと提示したい気持ちがありました」

「北風アウトサイダー」より
「北風アウトサイダー」より

100年前と現在では、まったく世界は違う。

でも、人間の心模様はさほど変わっていないんじゃないか

 三つ目のテーマには「時代の継承」を掲げた。

「僕は昭和の生まれですけど、そこから平成を経て、いま令和に入っている。

 この間に、時代とともに世界は大きく変わっている。

 ひとつあげるとすれば、SNSの登場で生活も社会も大きく変わってしまった。しかも全世界でそれは起きている。

 でも、いくら便利な社会になっても、科学の進歩で生活様式が変わっても、僕は、人として大事なことはかわらないんじゃないかとどこかで思っている。

 100年前と現在では、まったく世界は違う。でも、人間の心模様はさほど変わっていないんじゃないかと思うんです。

 人の優しさや温かさ、それとは逆の人への恨みや妬みといった感情はいつでもあるし、時代を経てもさほど変わっていないのではないかと。

 もちろんさっき言ったように、時代とともに人間関係が希薄になったりすることはある。でも、その中でも優しさや温かさがあって、それは時代が違っても変わらないんじゃないかと思うんです。

 そう考えると、人が築いた歴史や先人に学ぶことってたくさんある。そういう意味で、『時代の継承』って大事ではないかと僕は思うんです。

 そういうことで、『北風アウトサイダー』は、オモニ(母)がいて、その子どもたちがいて、その子どもたちの子ども、オモニからみると孫にあたる少女ナミという3世代の物語にして、受け継がれるものを描いています。

 目に見えるところではオモニが開いた食堂が、その子どものヨンギをはじめとする兄妹たち、そしてナミへと引き継がれていく。

 けれども、それ以外にも家族への愛であったりと引き継がれているものがある。そこを描きたいと思いました。

 あと、前回話しましたけど、この映画を作ったきっかけは師匠とする佐々部清監督への思いから。

 今回、映画を作るにあたって、佐々部監督の影響というのはないと言ったら嘘になる。

 たとえば、佐々部監督は『チルソクの夏』を、2カ月間ぐらいかけて現地の人といっしょになって下関で撮っている。

 それで、もうこれは佐々部監督の人間性に尽きるんでしょうけど、エキストラで出演した現地の方とか、フィルムコミッションの方が、いまも作品をすごく大事にしてくれているんですよ。

 ほんとうに現地の人も、スタッフもキャストも分け隔てなく大事にして映画を作っていた。

 そこは見習いたいと思ったし、継承したいと思いました。

 だから、今回の撮影は、まだまだ未熟だと思いますけど、僕なりに関わる人たち一人一人を大事にして作っていきました。

 僕はおそらく佐々部監督と出会ってなかったら、たぶんこんな考えには至っていない。

 おこがましいかもしれないですけど、『北風アウトサイダー』は、佐々部監督の映画作りを継承して挑んだと思っています」

(※第三回に続く)

「北風アウトサイダー」ポスタービジュアル
「北風アウトサイダー」ポスタービジュアル

「北風アウトサイダー」

監督・脚本・プロデューサー:崔哲浩

出演:崔哲浩 櫂作真帆 伊藤航 上田和光

永倉大輔 松浦健城 竜崎祐優識 並樹史朗 岡崎二朗

シネマート新宿ほか全国順次公開中

場面写真及びポスタービジュアルは(C)2021ワールドムービーアソシエーション

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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