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引越需要はコロナ5類移行で増加 一部で分散化も進んだが「2024年問題」と人手不足で「難民」も

森田富士夫物流ジャーナリスト
引越は新たな生活のスタート(写真:イメージマート)

 3月中旬から4月上旬は引越シーズン。3月と4月の2カ月間に年間引越件数の4分の1強が集中する。国土交通省の「令和4年度における大手引越事業者6者の引越し件数」によると、2022年度の大手6社の引越件数は200万件を超え、そのうちの約27%が4月と3月に集中している。

 この間は、コロナ禍で企業の転勤なども減少していた。だが、昨年5月にコロナが感染症の5類に移行したことによって、転勤が伴う人事異動の増加も予想され、今年の引越シーズンは昨年より件数が増加するとみられている。

 一方この間、国交省や運送事業者の業界団体である全日本トラック協会(全ト協)などが引越日の分散化を呼びかけてきた。3月、4月でもとくに土日や休日に引越希望が集中して「引越難民」が出ないようにするためだ。この分散化の呼びかけの効果も浸透しつつあるようにみえる。

 だが反面、ドライバーの残業時間短縮などの「2024年問題」への対応や、恒常的な人手不足などにより、引越事業者の側でも受注件数を制限せざるを得ないような状況になってきた。引越事業者はドライバーや従業員の労働時間短縮を進めなければならない。また、作業員の確保も難しくなってきているからだ。

前年より需要が増加し、一部では分散化も進んで引越希望日の前倒しもみられるが、依然として3月16日から4月7日に集中

 引越繁忙期を直前にした3月12日に、リベロが「2024年問題」に直面した春の引越についての調査結果を発表した。リベロが運営する引越プラットフォーム「HAKOPLA(ハコプラ)」加盟の引越事業者143社を対象にした調査である。

 調査時点における引越申込件数は前年比で増加という回答が47%であった。逆に減るという回答は11%だったので、約40%の事業者は前年並みである(n=72)。約半数の事業者が昨年より申込件数が増加すると回答していることになる。昨年調査では増加という回答が41%だったので、コロナの5類移行によって行動規制が緩和され、引越需要が増加するという回答が増えた。

 同時に引越希望日の「前倒し」傾向もみられる。0123引越文化研究所(アート引越センター)が2月26日に発表した「2024年春の引越調査レポート」によると、3月上旬に引越を予定しているという回答が39.3%で、前年の34.0%より5.3ポイントも増えた。同調査は今年3月、4月に引越を予定している400人を対象にしたアンケートの集計結果である。

 さらに同調査では、3月7日を引越予定日とした回答が6.3%で最多だった。3月7日は木曜日なので、引越希望が集中する最繁忙期より「前倒し」をして、しかも土日を避けて平日に引越しようという意識の変化と思われる。

 同じく大手引越専業者のサカイ引越センターでは、「法人需要では企業から見積依頼が入ってくる時期が早くなっている。2024年問題への対応や、コロナがあけて転勤の予定が早めに決まるようになっている可能性が考えられる」(3月15日現在、総務部広報課)としている。また、「今年は3月30日、31日が土日であるため、3月中に引越を希望されるお客様がとても増えている」(同)という。

 このように引き合いは早まっているが、全体的には例年同様に3月中旬から4月上旬への集中が予想される。そこで全ト協は3月16日(土)から4月7日(日)の期間がとくに混み合うと予想し、分散引越への協力を呼び掛けている。ネットへの広告出稿をはじめ、転勤引越の分散など企業向けには経済団体に協力を要請、さらに消費生活センターなどを通して消費者への理解と協力を呼び掛けている。

 これら分散引越の要請はコロナ以前から行ってきた。その効果もあって分散化も少しずつ進みつつあるようだ。その結果、「分散化が進んだことと、人手不足もあって今シーズンは繁忙の期間が長くなった」(全ト協担当者)という。

 しかし一方では、分散化には地域的な差があるという関係者もいる。法人引越や学校関係を中心に引越サービスを行っているある中小事業者は「分散化が一番進んでいるのは東京(首都圏)だ。東京の顧客(企業)は繁忙期の土日は引越を希望してもなかなか難しいし、料金も高いという認識を持っているので他の地域よりも分散化が進んでいる」という。つまり分散化にも地域的な差があるというのだ。

 引越市場の地域的な特徴という点では、全国の情報を得ることのできる関係者の一人が、「地方の疲弊を感じている」と話す。地方では人口減少もあって経済や社会全体が疲弊し、引越件数も減少しているからと分析する。

 それを裏付けるように別の関係者は、首都圏、中部圏、関西圏への引越需要の集中を指摘する。「東京(首都圏)エリア内の移動、名古屋(中部)エリア内の移動、大阪(関西)エリア内の移動と、東京、名古屋、大阪間の移動を合わせると、東名大で全国の引越件数の70%から80%を占めるという見方もある」という。

 このような引越需要の変化に加え、「2024年問題」や人手不足などサービスを提供する側の条件も変化してきた。

「2024年問題」への対応や人手不足で需要増加に対応できず、中には見積もり担当者不足も、成約金額はダイナミックプライシングで上昇

 業界関係者の多くは、昨年より引越件数が増えると予測している。コロナが5類に移行して企業、個人とも動きが活発化してきたことが大きな理由だ。その上、今年は3月30日が土曜日、31日が日曜日になる。

 さらに4月1日からはドライバーの残業時間規制が始まり、同時に改正「改善基準告示」も施行になる。「改善基準告示」というのは、自動車運転業務の従事者は不規則勤務や長時間労働になりやすいので、トラックだけではなくバスやハイヤー・タクシーなど、それぞれに拘束時間や労働時間、休憩時間、休息時間などを定めたもの。

 法令を順守するのは当然だが、労働時間を短縮すると従来と同じ仕事量をこなすのにより多くの人が必要になる。したがって前年より増加が予想される引越需要に応えることが難しくなってくる。アップル引越センターの1月24日のプレスリリースによると、今年の繁忙期の受注件数は例年通りの見込みだが、10%程度の引越を断ることになるだろう、としている。

 同様に多くの事業者が前年並みの件数の受託を予定している。アート引越センターでは「3月15日時点では昨年の3~4月と同程度の家財量を受託していて大きくは変わらない」(広報宣伝課)という。

 このように引越需要は増えているが、受託できるキャパシティは前年並みのために、断る件数が増加するというのが今シーズンの特徴のようだ。実際、企業引越を専門にしているある中小事業者は、「引き合いの件数は増えているが能力的に受託できる件数が限られているので、すでに(3月13日現在)50件ほど断らざるを得なかった」という。同社ではこれまで経験したことがなかった事態である。

 人手不足は現場の作業員だけではない。最近は各社ともネット受注に力を入れて様々な工夫をしているが、まだまだ訪問見積もりもある。「見積もりができるベテラン社員も高齢化が進んでる。新入社員が見積もりができるように一人前になるには3年ぐらいかかるので、経験者がリタイヤして訪問見積もりができなくなってきた事業者もいる」と話す関係者もいる。

 このような中でとくに引越事業者から敬遠されるのが長距離引越だ。ドライバーの労働時間短縮が大きな理由だが、収益性の問題もある。繁忙期は需要が集中するので、輸送時間があまりかからない近距離の引越顧客を何組も受託し、同じスタッフで1日に何件も作業をした方が効率が良いからだ。長距離引越では成約金額が高くなっても、トラックと人の稼働効率が下がる。

 このように需要と供給の関係から繁忙期には引越料金が高くなる。ドライバーや作業員の人件費も上げなければならず、燃料代などの諸経費の高騰分も適正に転嫁しなければならない。

 現時点ではシーズン真っ盛りなので、大手各社とも成約金額については公表していないが、当然、昨年の繁忙期と比べて上昇することは間違いない。たとえばサカイ引越センターでは「第3四半期終了時点では前年同期と比べて3.5%の上昇」(総務部広報課)としている。他社も同様であろう。そして今年の繁忙期の3月と4月をみると「前年と比較して5、6%は上がっていると推定される」(中小引越事業者)という。さらに長距離引越になると2ケタのアップともいわれている。

人口減少で長期的には引越件数の減少が予想され、引越家財も少なくなるなど引越市場が変化、今後はサービス品質向上の競争に

 このように今年の引越シーズンは「2024年問題」が大きく影響しているようだ。さらに恒常的な人手不足である。そのため引越事業者としては、限られた人的資源でいかに効率的に件数をこなすかが大きな課題となる。

 全国にネットワークを構築している大手の引越事業者は別だが、中小規模の引越事業者は同業者間の連携などで従業員や車両の稼働効率の向上を図らなければならない。その代表的なグループがハトのマークの全国引越専門協同組合連合会である。また、リベロではハコプラに加盟している143社を対象に「空きトラマッチング」や「案件マッチング」サービスを提供している。これは車両情報や引越案件情報を共有することでマッチングを実現するアプリだ。

 人員や車両の効率的な稼働と同時に重要なのは、作業員の確保である。人員確保の対応策は各社各様だ。ある中小引越事業者は「人材派遣会社を上手に使っている」という。同社は人材派遣会社と長年の取引があり、繁忙期対策としてとりわけ引越件数が集中する日を予測してずっと前から優先的な人材派遣を契約しているようだ。また、先のリベロでは空き時間マッチングのバイトアプリ運営会社との協働で、必要な作業員の時間と場所のマッチングをしている。

 以上、今シーズンの引越繁忙期の特徴をみてきたが、今後の引越市場はどのように変化していくと予想されるだろうか。

 一番大きな要因は人口減少だ。総務省が発表している住民基本台帳に基づく2023年1月1日現在の日本人の人口(外国人除く)は1億2242万3038人で、前年より80万523人も減少した。人口の偏在化も同時進行している。さらに、家具などを備えた住宅が増えているため、引越時に運ぶ家財も減っている。

 このような引越市場の変化の中で、引越事業者はサービス品質の向上が競争力のカギを握ると考えるようになってきた。引越希望者は、ダイナミックプライシングによる金額の変動を受容しなければならないが、各社のサービス品質を比較して事業者を選定する時代になりつつある。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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