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蓮舫氏の二重国籍疑惑は何が問題なのか

田上嘉一弁護士/陸上自衛隊二等陸佐(予備)
民主党代表戦の抱負を語る蓮舫氏(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

蓮舫氏の二重国籍問題

蓮舫氏の二重国籍問題が大きな話題となっています。

蓮舫氏が台湾籍放棄=二重国籍かは「確認中」

民進党の蓮舫代表代行が9月6日、台湾籍を除籍した時期を「確認が取れない」として除籍手続きを取ったのですが、この点について、「二重国籍のまま、首相の座を狙う党代表選に出ようとしていたのでは?」と問題視する声が上がっているわけです。

「二重国籍」とはどのように生じるのか?

法務省のサイトにあるように、日本国籍を取得するには、以下の3つのケースが考えられます。

  1. 出生(国籍法2条)
  2. 届出(国籍法3条、17条)
  3. 帰化(国籍法4条〜9条)

多くの人は出生によって日本国籍を取得することになるかと思いますが、場合によっては3のように外国籍を持っている方が帰化することによって日本国籍を取得する場合もあります。

このとき、1の出生や2の届出によって日本国籍を取得した場合でも、外国で生まれた場合や親が外国国籍の場合は重国籍となる可能性がありますし、また、3の帰化した場合にも元の国籍が残っていれば、重国籍となる場合があります。

日本の法律は(原則として)二重国籍を認めていない

問題は、日本の国籍法では、原則として重国籍(二重国籍)を認めておらず、国籍の選択が求められています(国籍法14条)。国籍の選択とは、以下の場合に応じて、期限までに日本か外国かのどちらかの国籍を選択することをいいます。

  1. 20歳になる前に重国籍となった場合は22歳になるまで
  2. 20歳になった後に重国籍となった場合は、重国籍となった時から2年以内

重国籍の人が外国の国籍を選択した場合には、日本の国籍を離脱しなければならず、逆に日本の国籍を選択した場合には、外国の国籍を離脱するよう努力することが求められています(国籍法16条1項)。この義務は努力義務なので、重国籍状態がそのまま違法とはいえませんが、とはいえ、外国籍を離脱するよう努力しなかった場合には違法であるともいえるでしょう。

とはいえ、事実上黙認されている二重国籍

もっとも、実際には国籍の離脱というのはそう簡単な問題ではなく、例えばブラジルには国籍の離脱という概念がないため、日本とブラジルの二重国籍を持つ方も多くいるようです。そんな感じで、日本にはおよそ40-50万人(一説には60万人とも)の重国籍保有者がいるようです。

40、50万人との推定もある二重国籍の実態 「偽装日本人」に深刻リスク

重国籍の人に対しては、外国籍を離脱するよう法務大臣は催告をすることができるのですが(国籍法15条1項)、実際に催告が出された例はないようです。つまり、実際には重国籍であっても黙認されているのが現状と言えるでしょう。

諸外国では二重国籍を認めているところもあるようですし、このあたり実情にあわせて制度を変えていくという議論もあるかもしれません。

じゃ、蓮舫氏って何が問題なの?

蓮舫氏の場合は、1985年に日本国籍を取得した際、父とともに大使館にあたる台北駐日経済文化代表処を訪ね、台湾籍の放棄を届け出たと説明しています。つまり、この発言が正しいとすれば、日本に帰化したのと同時に日本国籍を選択し、外国籍である台湾国籍を離脱しているので、日本の単独国籍であるということになります。

そして、仮に何らかの手違いで台湾国籍が放棄されずに残っていたとしても、外交官の場合とは違って、参議院選挙は、30歳以上の日本国民であれば誰でも被選挙権を有していますので(公職選挙法10条1項2号)、帰化によって日本国籍を取得した蓮舫氏が参議院議員であることについて、法的な支障はありません(もっとも経歴の詐称であったとして公職選挙法235条違反となる可能性はあります)。

問題は、重国籍であるかどうかなのではなく、政治家としての誠実さ、資質なのかもしれません。

9月2日の産経新聞のインタビューでは、「二重国籍ではないのか」という問いに対して「意味がわからない」と回答していますし、続く3日の読売テレビ番組で、台湾籍を「台湾国籍は放棄している」と断言し、時期については「18歳で日本人を選んだ」と語っていました。

しかし、7日に行われた報道各社のインタビューでは、「台湾に31年前の籍を放棄した書類の確認をしているが、『時間がかかる』という対応をいただいた。いつまでに明らかになるかわからない」として、あくまで「念のため」、台湾籍を放棄する書類を再び代表処に提出したと説明しています。

さらには、平成9年に発売された雑誌「CREA」(文藝春秋)のインタビュー記事の中で「自分の国籍は台湾」と発言していることがわかったそうです。これが本当だとすると、記者会見での発言と矛盾することになります。

「二重国籍」疑惑 蓮舫氏、平成9年に雑誌「CREA」で「自分の国籍は台湾」と発言

法的に問題がないにせよ、首相をはじめ、政府の要職につくとあれば、他国の国籍を有していることについてまったく問題なしとはならないでしょう。実際にそのつもりがなくても、外国の利益になるよう誘導しているという疑いをかけられる可能性は十分にあります。今回の報道を受けて様々な議論が行われているのを目にしましたが、一般市民の重国籍についての議論と、重国籍者が国家の要職につくことについての議論は、分けて行うべきだと思います。

となれば、様々な事情があったにせよ、やはり国会議員に立候補する時点で国籍について確認を行っておくべきではなかったでしょうか。少なくとも指摘を受けてから確認するという状況は、後手に回っているといえるでしょう。

蓮舫氏はこれまで事業仕分けをはじめとして、舌鋒鋭く様々な問題に取り組んできました。その歯切れの良さや行動力に頼もしさを感じて応援している人たちが多くいるのも事実です。

しかし、政治家、とりわけ一国の宰相ともなれば、攻める場面だけではなく、国政や緊急事態、ひいては自身のあらゆる問題について、被害を最小限に食い止めその後どう立て直していくのか、危機管理を適切に行う能力が求められます。我々が『シン・ゴジラ』でみたように。

その意味で、蓮舫氏はまさに今、その能力があるのかどうなのか、試されているのかもしれません。

なお、外国が一方的に国籍を付与することもできるので、そういう場合に確認するのは難しいという議論もあるようですが、蓮舫氏の場合は、元々台湾国籍を持っていたのだから、どこぞの知らない国が勝手に国籍を付与しているというのとは少し論点が違うようにも思います。

弁護士/陸上自衛隊二等陸佐(予備)

弁護士。早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。陸上自衛隊三等陸佐(予備自衛官)。日本安全保障戦略研究所研究員。防衛法学会、戦略法研究会所属。TOKYO MX「モーニングCROSS」、JFN 「Day by Day」などメディア出演多数。近著に『国民を守れない日本の法律』(扶桑社新書)。

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