れいわ山本代表が主張する「旧敵国条項があるから反撃能力を持つことはできない」は本当か
れいわ新選組の山本太郎代表が、国連憲章において、いわゆる「旧敵国条項」があることを理由として、日本が反撃能力を保有することは現実的ではないといった趣旨のツイートをし、またテレビの報道番組等でも同趣旨の発言をしています。
またれいわ新選組のHPに掲載されている政策においても同様のことが記載されています。
引用元:https://reiwa-shinsengumi.com/sanin2022_kinkyu/
旧敵国条項とは
これに対してそもそも「旧敵国条項」というのは、国連憲章53条や77条、107条のように「敵国」に言及している条項を指しています。
国連憲章53条
1. 安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極又は地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
2. 本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。
国連憲章107条
この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。
日本政府の見解では、旧敵国とみなされているのは、日本・ドイツ・イタリア・ハンガリー・ルーマニア・ブルガリア・フィンランドの7カ国であるとされています。
なお、これらの7カ国については、現在ではすべて国際連合に加盟しており、また、日本のように、国連分担金を多く負担し、国連の非常任理事国を担当している国もあります。
〈旧敵国条項その1〉 過渡的安全保障
国連憲章107条は、過渡的安全保障について定めています。ここでいう「過渡的安全保障」とは、第二次世界大戦中の旧敵国に対して、戦争の結果として、関係政府が執る措置のことを意味しており、具体的には、休戦・降伏・占領等に関する戦後措置のことを指しています。
旧敵国がこの戦後措置に反して、侵略政策を再現する行動等を起こした場合には、関係政府が地域的取極めに基づいて強制行動をとることができることとなっています。
この場合においては、関係政府そのものが独自の暫定的責任を負い、安全保障理事会としては責任を有しない構造となっており、いわば、国際連合の枠外における安全保障であるという点で、かなり特殊・異例なものです。
最近になってロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が北方領土問題において旧敵国条項に言及したり、また中国が尖閣諸島について旧敵国条項を根拠として日本の主張を否定したりしているのは、戦後処理において(彼らから見れば)日本が本来有しないはずの領土主権を主張していることについて牽制しているというわけです。
〈敵国条項その2〉 地域的取極による強制行動
これに加えて53条1項後段に基づく地域的取極による強制行動に関する条項があります。
53条でいう「地域的取極」には、NATOやワルシャワ条約機構といった特定の地域における安全保障に関する条約が含まれますが、これらの地域的取極において強制行動が規定してあったとしても、本来であれば安全保障理事会の許可がなければ行うことはできないという原則が定めてあるものです。
しかし、旧敵国に対する地域的取極の規定に基づいて、関係政府が当該旧敵国による侵略を防止する場合には、例外として安全保障理事会の許可を必要としないとされています。
この旧敵国条項に基づいて作られた地域的取極としては、以下のものがかつて存在していました。
ドイツを敵国として対象とするもの
・チェコスロバキア・ポーランド同盟条約(1947年)
・ルーマニア・ハンガリー友好協力及び相互援助協定(1948年)
・ソ連・ルーマニア友好協力及び相互援助協定(1948年)
・ソ連・ブルガリア友好協力及び相互相互援助協定(1948年)
・ソ連・フィンランド友好協力及び相互相互援助協定(1948年)
日本を敵国として対象とするもの
・ソ連・中国友好協力及び総合条約条約(1950年)
しかし、これらの条約は現在ではいずれも失効しており、現時点において国連憲章53条1項後段に基づいて旧敵国条項が発動される条約は存在しません。
すでに死文化している旧敵国条項
そもそも国連憲章は、第二次世界大戦末期の1944年8月から10月にかけてワシントンで開催された米英ソ華の4カ国による国際会議で採択された「ダンバートン・オークス提案」をベースとして起案されています。
当時はまだ戦争中であり、同提案は「侵略国家である枢軸国に対する平和愛好国である連合国」という対立構造を前提としたものでした。国連憲章における旧敵国条項はその対立構造の残滓ともいうべき条項です。
すでに触れたように、旧敵国とされた国はいずれも国際連合の加盟国となっており、現在では平和愛好国となっています。そもそも枢軸国に対する連合国に端を発した国際連合ではありますが、旧敵国が国際連合の加盟国となった時点で、旧敵国条項の存在意義は消失しています。
また、国連憲章2条3項は「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない」と定めていることからすれば、不法な武力行使や武力による威嚇が存在しない状態において強制行動を許容することは国連憲章の基本理念と矛盾します。
このような議論をもとに、現在では旧敵国条項は実質的意義を失ったとして、1995年9月の国連総会より全ての常任理事国を含む155カ国の賛成によって旧敵国条項は既に死文化しているという認識を示す採択がなされています。さらに、2005年9月の国連首脳会合では、国連憲章上の「敵国」への言及を削除するという全加盟国首脳の決意を示す成果文書が採択されています。
それでも今なお旧敵国条項が削除されずに残っているのは、条項削除には、総会構成国の3分の2の多数で採択され、かつ、安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准されるという国連憲章の改正手続が必要であり、これを現実に行うとすれば常任理事国である中国・ロシアの反対が予想されるためです。
我々は旧敵国条項にどう対峙するべきか
以上のように、旧敵国条項はすでに死文化していることが確認されています。また、反撃能力の保有自体は、過渡的安全保障に抵触するものではなく、旧敵国を対象とした地域的取極は現存していません。
したがって「旧敵国条項があるから反撃能力を持つことは認められない」とか、「反撃能力を持つことによって旧敵国条項が発動される」といったような発言は、事実誤認を含んでおり、ミスリーディングなものであるといえるでしょう。
現に、ドイツをはじめとする旧敵国の中には反撃能力を有している国もありますが、旧敵国条項が妨げとなったということはありません。主権平等を旨とする国連憲章において、特定の国だけが国際法上認められている自衛権を否定されることなどあってはならないことです。
およそ国政に携わろうとする者であれば、国益のために国連憲章改正・旧敵国条項削除に向けて活動すべきであり、旧敵国条項があるがゆえに日本の手足を縛るべきであるとする立論には疑問なしとしません。